夜伽聖女と呪われた王子たち

藤原いつか

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第八章

いけないこと①

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 ゆっくりと、先ほどと同じ道を辿るセレナのその内側なかは、喜んでディアナスを迎え入れた。
 都合の良い解釈かもしれないけれど、そう感じてディアナスは喉を震わせる。再びその一番深くに腰を押し付けて、それから今度は深く息を吐いた。

 自身のすべてがその痺れるように甘い泥濘に埋められ、うねるような温かい肉壁に包まれ、ねだるようにきつく締めあげられる。
 いったんそのすべてを感じてから、体を起こしてセレナにまた覆いかぶさる。動きに合わせて浅い部分ところが擦れてセレナが震える悲鳴と共にまたなかを震わせた。

 先ほどまでの激情とは違い、今はそのすべてを味わう余裕がディアナスを甘く酔わす。
 喉の奥が知らず震えて吐き出した吐息が、汗で額に張り付いたセレナの前髪を僅かに揺らした。
 ひかれるようにそこに唇を落とす。呼吸も鼓動も、下半身以外は驚くほどに平静だった。ディアナスはそこでいったん腰を落ち着けてセレナに言葉をかける。

「…ドレス、サイズ大丈夫だった? いまさらだけど」

 腕の中から自分を見上げるセレナが、情事中の会話に不慣れな視線を向けながらも小さく頷いて返してみせた。
 答えようと口を開いて、息を詰めていたことに気付く。無意識に体も呼吸も閉ざしていた。

 胸を上下させて酸素を取り入れると少しずつ強張っていた体から余分な力が抜けるのを感じて、ディアナスがその様子に目を細めた。
 さっきまでは幼い子どものように本能にだけ流されていたのに、もう既に男の表情かおをしているから不思議だ。

「…ちょっと、大きかったくらい…あとは一部だけ、きつかった、ぐらいかな…」

 刺激の波間の微睡みに、セレナも少しずつ呼吸を落ち着けて自分を見下ろすディアナスを見つめ返した。
 見たこともないような眼差しと愛くるしい顔がセレナにまっすぐ注がれ、それを何故か直視できなくなってまた俯いてしまう。
 だけど目線を下ろすと自分とディアナスの繋がっている部分が視界に飛び込んできて、慌てて目を逸らした。

「セレナのサイズは、目測でなんとなく分かってはいただけど…ボクたちあんまり体格は変わらないのかな、まだ。きつかったのは胸元? 殆どのドレスはオーダーで作ってて、流石にそこは“作る”気はなかったから」

 情事の真っ最中だというのに。目の前の美少女にも見紛う美少年は、まるで天気の話でもするような安穏とした口調で会話を続け、かと思ったらその手がセレナの胸元に伸びる。
 脱がされると気付いて一瞬身を構えたけれど、今さらながらにもらったドレスがひどい有様だったことに気付いてセレナは表情を曇らせた。
 自分にはもったいないくらい美しかったドレスが、セレナの下でしわくちゃに潰されているのを見るとひどく申し訳ない思いに駆られる。大事にしようと思っていたのに。そう思ったらディアナスの手を制することも憚られる。

「ごめん、ドレス…汚れちゃった…」
「どうしてセレナが謝るの。汚したのはボクだし」

 自分の為にと彼女が着たそれを。今度は自分が脱がせていく。その事実がディアナスの胸の奥をじくりと焦がした。

「これから汚すのもボクだから」

 おそらくセレナは知らないであろう結び目と紐と留め具を外して少しずつ。デザイン重視でそれは見た目には隠された秘密の境目だった。
 ひとりでは着れない造りだけれど、脱がせることは意外と容易なのだ。造りを知っていれば。

 そのひとつひとつに鼓動が暴れ、セレナに埋めた自身が膨れるのを感じた。予測不能の突然のそれに、セレナが眉根を寄せて唇を噛む。
 白いシーツの上に咲く大輪のように広がっていたドレスからセレナ自身をすくい出して、薄いシュミーズも下着もすべて取り払う。ドレスを下にわざとひいたまま。
 脱がせる時にセレナは僅かな抵抗を見せたけれど、口づけですべて塞いで片手だけでディアナスは完遂した。
 ドレスの扱いにはディアナスの方が慣れていたし、暴れるとなかにはいったままのディアナスのものが余計に膨れるのでセレナにはまともな抵抗もままならなかった。

 一度だけ小さく「明かりは消して」と囁いたセレナの懇願に、ディアナスはあえて応えなかった。
 明かりは蝋燭ひとつだけでしかも天蓋から垂れる薄い絹のカーテン越し。すべてを晒す明るさには足らないけれど、目の前のものを暴くには十分な明るさがある。
 涙目で睨まれて良心は痛んだけれど、その表情かおもかわいくて腰が震えたし、それにそれが目的のひとつでもあったのだ。
 セレナが細い腕で隠した胸元には、以前見せられたものと同じ痣がある。
 だけど以前とは違っていた。今は深くは言及しない。

 衣服をすべて取り払われまた腰を押し付けられる頃には、セレナ自身も体について誤魔化すことは諦めていた。
 そろそろ隠し事も潮時だと。すべて暴く気で自分を丸裸にする目の前の相手にこれ以上隠し通すには無理があったし、何より疲れたのだ。
 隠し事をする為につく嘘も、そうして自分の気持ちを誤魔化し続けることにも。
 
 体を繋いだまま時間をかけて服を脱がされ、微かな振動にも膣内なかは反応して、だけどその刺激はあまりに緩くて拙くて。
 ディアナスは腰を振ることをしない。だけど決して離れようともしない。

 自分の体にあるディアナスの痣が、触れて欲しいと下腹部を表面うえからもの欲しげに彷徨う。ディアナスが気付いているかは分からない。
 だけどもうずっと腹の奥に溜まる疼きに身が焦がれて仕方なかった。快楽を既に知っているこの体は、繋ぐだけじゃもう足りなかった。
 だから恥ずかしさを押して、セレナは自分からそれを訊く。

「ディアナス、動か、ないの…?」
「ディアで、いいってば。動いて欲しい? ボクはこれだけで、じゅうぶん気持ち良い」

 言ってディアナスは言葉の通りうっとりと目を細め、身を屈めてセレナの頬に自分のものを摺り寄せる。
 子どものように無邪気な仕草ともとれるその下で、ディアナスのものはセレナのなかで膨らみを増しているというのに。

 こんな状態で随分余裕だ。それはさっきディアナスは、一足先に欲を吐き出したからではないのだろうか。
 自分はずっと焦らされるように小さな刺激だけを与えられ、ゆっくりと募らせた欲情を持て余している。
 言葉にできない思いを込めてじとりとディアナスを睨むその先で、ディアナスはくすくすと笑ってセレナと額を合わせた。

「ごめん、そんな可愛い顔しないで。言って欲しいだけ。どうして欲しい? ボクに教えて、セレナの一番気持ち良いところ。ボク、はじめてだから」

 まるで免罪符のように掲げて見せるけれど、セレナだってもう余裕はない。もしかしたらディアナスより。

「…ずるい、いやだ、恥ずかしい」

 言ってセレナは羞恥とそれでも求める体の疼きに半分泣きながら、両腕で顔を隠してしまった。
 苦笑いを零してディアナスはその腕にそっと唇を落として、セレナの視界から逃れたその手は裸のセレナの体中を這いまわる。
 その手のひらですべて確かめるように、一粒も零さないように。

 指先に触れる、過去の傷痕と現在いまの傷痕。それらすべてをディアナスはその手に焼きつけた。
 そこに重ねた自分のつけた赤い痕に、言いようのない充足感を得て胸が満たされるのを感じる。
 そろそろ意地悪も加減しないと、ほんとうに嫌われてしまうかも。それは流石に勘弁だ。もう少しその表情かおを見ていたかったけれど。

 それからディアナスの手が、セレナの両胸をそっと包みこんだ。
 びくりとセレナが大げさに反応し咄嗟に身を竦め、内側がディアナスのものを締め上げる。その刺激にディアナスも顔には出さずに息を詰めた。

 ディアナスの両手にそれぞれ収まるくらいの、だけど柔らかく指の間から零れるそれは、ディアナスの指にしっとりと吸い付くように収まっている。
 その形と感触を一通り楽しんでから、やがて既に固くなっているその先端を、口に含んだ。

「…っ、ぁ…!」

 その刺激にセレナが顔を隠しながら腰を震わせた。はぁ、と知らず吐息がディアナスの口から漏れて、離した胸の頂きを再び口に含む。
 もう片方のものは指先で摘まんで弄んで、口に含んだ方は口内で丁寧に舐めて吸い上げる。何度も、何度も。セレナの嬌声に浸りながら。
 それから口を離して体を起こし、両方の頂きを指先で押し潰す。その刺激にセレナは堪えきれないように仰け反って喘いだ。

 セレナはもう殆ど無意識に、自ら浮いた腰を揺らして押し付けていた。セレナの内側から溢れる蜜が、その度に濡れた卑猥な音を零す。
 なんていやらしい光景だろうと、ディアナスは呆然とその光景に見入る。喉の奥が震えて腹の奥が痺れて油断したらそれだけでまた達してしまいそうになるのを必死に堪えながら。
 
「ディアナス、…っ、ディ、ア…! もう、おねがい…っ」
「…なにを? ちゃんと、言って。聞かせて」

 ディアナスの指先がセレナの滲む涙を拭いながら、顔をそっと近づける。それから赤く染まる頬を撫で耳たぶを甘噛みし、唾液で浸す。そのすべてにセレナの内側は律儀に反応して見せた。
 自分の腰つきだけでは程遠い欲の懇願に、セレナはとうとう泣きながらディアナスに縋った。

「お、奥…突い、て、欲しい…っ」
「……っ」

 得体の知れない劣情が、ディアナスの背筋を一気に駆け上がる。
 自分の表情かおが恍惚と笑っていることに、その時のディアナスは気付いていない。
 ただその刺激によくぞ耐えたと自分を褒めて、ディアナスはその細い腰をようやく固定しセレナの脚を抱え込んだ。
 ぐっと、最奥に。突き当たる感覚にセレナが泣き出す。悦びを湛えて。


「いいよ、いっぱい、してあげる」

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