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第一話

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「だから言ったでしょう、気をつけろって」


 はじめ誰の声だか分らなかった。
 追放された自分がひとりで住むこの屋敷に、訪れる者など誰もいない。
 けれどそれは確かに聞き覚えのある声。

 誰でもいい。助けてくれるなら。
 もうひとりでは手におえなかった。

「でもまぁ、せっかくですからしっかりと知っておいた方が良いかもね、自分の作ったものの効果くらい」

 呆れたような、小ばかにしたような、なのにどこか興奮を抑えた声が、自分の上から降ってくる。
 あぁ、そうだこの物言い。昼間に会った男だ。
 はじめて訪れた街で、魔法薬の鑑定と買い取りをした商人さん。声だけならおそらくまだ若いだろう。

 昼間とは違い頭を覆っていた布はなく、それでも長い長い前髪にその顔はほとんど見えない。
 なのにこんな夜の暗がりに、その瞳の鋭い眼光だけは刺すようにわたしを見据えていた。
 ガラス玉みたいな透明な瞳。髪の色は珍しい白髪。胸元までのまっすぐな長い髪が、自分の素肌をくすぐっている。

 昼間にかけていた胡散臭い色付きの丸メガネはかけていない。それだけで大分印象が変わる。やっぱり顔はよく見えないけれど。
 飄々とした話し方は相変わらずで、何を考えているのか分からない。だけど分かる必要もない。

「開いて、ほら。欲しいんでしょう? これが」

 濡れてやまない秘部に押し付けられる肉欲。理性が削ぎ落されて答えることすらままならない。
 なのに喉の奥から勝手に矯正が漏れ、体は素直に彼の言う通ことに従ってしまう。

 ずっと欲しかったそれ。
 自分の指では足りない。
 届かない。埋まらない。
 お願いだから、もう──

「僕が手伝ってあげる」

 彼の言葉が自分の耳元で、胸の先で、脚の間で反芻する。
 どうしてこんなことになっているのか分からない。どうして彼がここにいるのかも思い出せない。
 だけど今この瞬間に置いて商人さんは、わたしにとっての救いの手だった。

 転がっていた瓶を手にとった彼が、底に残っていた桃色の液体をわざと見せつけながら飲み干す。
 その顔が自分に近づいてくるのをぼんやり見つめしかできない。
 それよりもはやく、この先を。そんなわたしの心を見通しながら意地悪く笑って、わざとじれったくなるようなキスをされる。

 唾液の混じった甘い液体が、喉を通って腹に溜まっていく。疼きとともに。

「その衝動は、異性の魔力と精に触れるほどに大きくなり、ここに魔力を注ぎ込まれるまで決しておさまらない」

 言って冷たい指先が、見えない部分でひくつく下腹部を撫で上げる。
 商人の手とは思えない綺麗な指先といくつかの指輪。触れるだけで電流のように伝わる刺激に腹の奥が嫌でも戦慄く。

 ぐっとそこを手の平で押さえたまま、商人さんは自らの腰を押し付けた。
 広げられた脚の間、触れるだけだったその先端がぬかるみに沈み込む。ゆっくりと押し広げ、濡れた液体を零しながら。
 待ち望んでいた充足感が快楽に上書きされていく。

「っぁ、あ……!」
「ふ、欲しがりすぎ。お嬢さん、はじめてでしょうこの狭さ」

 痛い、こわい、いたい。
 破瓜の痛みではない。ようやく与えられた快楽を、体の奥底が心底悦ぶ痛みだった。
 ばちばちと目の奥で火花が弾ける。

 目の前の綺麗な顔がわずかに歪み、それでも更に奥へと押し付けられた。
 内側と外側から押し潰されて、そのかたちがはっきりと分かるほどに。


「もう戻れないね、お嬢さん」


 ──その台詞。どこかで聞いた気がするけれど、やっぱり思い出せなかった。



 ようやくやっと、誰の目も気にせずに、脅かされることなく自由に暮らせると思った。
 最低限の寝床と食べ物があれば良い。今この瞬間を生きられれば、死なずに済むのならそれだけで十分だった。
 その為にも錬金術でのアイテムの錬成は必要不可欠で、生きていく上での大事な資金になる。わたしにはこれくらいしか取り柄がない。

 それなのに──


 わたしが不本意にも開花させてしまったのは、錬金術における類稀なる付与スキル「催淫効果」だった。



◇◆◇



 転生したのは生前プレイしていた乙女ゲームの悪役令嬢だった。


 一番最初の記憶は、処刑場で見上げた灰色がかった空の色。
 死にたくないと、それが"わたし"の物語の始まりでもあった。
 そして再び目覚めたそこは物語シナリオのの始まりでもある魔法学院入学式。
 やり直しはいつもここからで、既にわたしは”嫌われ者の悪役令嬢”だった。

 死に戻るならせめてもっと前にして欲しい。既にこの悪役令嬢『ソフィア』は攻略キャラどころか学院中から悪女のレッテルを貼られていた。
 そこからの挽回はマジきつかった。何もしていなくても破滅ルートへとシナリオは進み、ほとんどのエンディングでわたしは断罪される。
 そしてその度に戻される三年前の入学式。

 ──そうして運命に抗いながらも処刑される悪役令嬢××回目。

 見事唯一の生存ルートである『追放エンド』を迎えたわたしは、晴れて物語シナリオのを下り新たな人生をひっそりと始める予定だった。
 なのに。



「……催淫付与、……ですか?」
「いや~~めっちゃレアなスキルですねぇ。大陸でもなかなかお目にかかれないってくらい」
「……そう、なんですか……えっとこの魔法薬、売れます?」
「もちろん買い取らせて頂きますよ。ただお嬢さんまだ錬金術師の資格をとりたてなんですよね?」
「はい、三カ月前に……」

 一定のレベルと魔法学園の教師の推薦状があれば受けれる資格取得試験。
 ぎりぎり追放される前に取得しておいたのだ。資格がなければ錬成物は売れないから。

「新人さんの商品は、品質保証と効果の保証が安定するまでは、一番下の買い取り価格になっちゃうんですよねぇ」
「……そんな……!」


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