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カウント5◇すべて吹き飛ぶ前に跳べ
5:明滅する赤
しおりを挟む◇ ◆ ◇
暗い校舎に足を踏み入れ、壁際に身を寄せながら校内を進んでいたその時だった。
ただ静寂と暗闇に身を沈めていた校舎が突如鮮烈な赤い光を放つ。
一瞬でそれは消えたかと思ったら、また灯る。
明滅するその赤の色の正体を知ったのは、もう引き返せない所まで来た時だった。
規則的かつ等間隔に、壁に仕掛けられた時限爆弾。
「……くそ、これ全部かよ……!」
赤は警告。
廊下に、階段に、行く手を示すように連なるその赤い光はまるで誘導灯のようだと思った。
おそらく目的地、川津雄二の所まで。
もしかしたらこの校舎全体に仕掛けられているのかもしれない。その可能性の方が高い。
そう思えるくらいに校舎全体が内側からおびただしいほどの赤い警告を放っていた。
「……見られてんな」
タイミングから察するに、こちらの行動はすべて見えているということだろう。
そして同時に川津雄二にこちらを生かす気などないということだ。
「……容赦ないね」
すぐ後ろにいた篤人の呟きに、舌打ちしそうになるのをなんとか堪える。
俺まで呑まれたら終わりだ。
「逸可」
「黙ってろ、今の俺が未来を視れる回数は限られてくる。最短ルートを絞る為にももう少し距離を縮めたかったが……相手に居場所がバレてる上に、この爆弾は避ける避けられない以前の問題だ。どこに回避したって相手のボタンひとつでこの校舎ごと吹っ飛ぶ可能性がある」
もっと局所的なトラップならまだ楽だった。回避という道だけを探せば良い。
だけどこれは流石に想定外だ。回避用の道が塞がれてしまった。まるでこっちの裏を読まれたみたいに。
いや、おそらくもっとシンプルなだけだろう。
逃す気などないのだ。誰ひとり。
壊したいだけなのだ、すべてを。
「……なんとかつっきれないかな。川津雄二のいる場所は三階の教室でほぼ間違いないんだし、相手の所まで辿り着いてしまえばそう簡単には爆破もできないんじゃ……」
「さすがにここから三階までの間にどこかでは捕まる。例えば二手に分かれたとしても相手には全部見えてる。双方爆破して足止めして終わりだ」
「……でも」
ふと篤人が声音を落とす。
相手に会話まで聞こえているとは考えにくい。だけどおそらく本能的に、反射的に潜められる声音。
「僕は、相手の視界から消えられる。それは監視カメラでも同じことだよ」
「……!」
そうだ、確かに。
六秒間。篤人だけは他人の干渉の一切及ばない世界にいる。
その六秒で三階の川津のいる教室まで辿り着くのは無理かもしれない。
だけど相手の監視下から突然その存在が消えれば、相手の意表を突くことができれば。
隙はできる。
チャンスが生まれる。
「……まて、くそ。それって俺の想定するルートが増えるだけじゃねぇか……!」
思わず頭を抱えながらも、俺はほとんど無意識にポケットから携帯電話を取り出していた。
篤人も俺の意図を正しく読み取り自らの携帯電話を取り出す。
時間はあとどれくらいある?
ここから二手に分かれて、六秒間先をゆく篤人を、上手く利用して。
どちらでも良い。先に川津雄二のいる教室に着き砂月の無事と場所を確認する。それが俺たちの役割だ。
その後はぜんぶあいつらに、白瀬たちが何とかするという、そういう算段だ。
辿り着けさえすればいい。
誰も死なずに。
「迷ってる暇もねぇ、行くぞ。お前は階段からまわれ、その中での最短ルートだ!」
「逸可は?」
「いきなりお前の存在が消えれば、ひとまず相手は俺を先に始末しようとするはずだ。ここまで自分のプランにこだわりのある相手だ、想定外な事態を好まない。相手が白瀬の言っていた通り時間にこだわっているなら、校舎ごと爆破するまではまだ時間が要る。だから俺は、時間を稼ぐ。わざと犯人の目をひきつけながら、六秒後を先読みしてお前を誘導する」
「……わかった」
本音を言えばやりたくない。自分が想像するよりずっと複雑で負担がかかる。
断続的な時間限定での先視と、そして自分自身のルートの先視。
おそらく今まで力を使ってきた中で一,二を争うレベルだ。
この校舎すべてを対象に、ふたり分の未来を視る。
だけど今はこれしか方法がなかった。
かけるしかない。
不確かな篤人の六秒間に。
「――行け!」
叫ぶのと同時に壁に手をついて、固く目を瞑る。
確実に、望む未来を手繰り寄せる為に。
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