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第一章

八話 召喚士と魔法使い

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世界は広い。
各地域にはそれぞれ独自の文化があり、様々な生物が生存している。
偏見はなかったつもりだが…。



「失礼」

「ああ…蝿…ですからね…世間から理解されないですよ」

「驚きました」 

コーグは蝿に指示を出し、化け物カエルを誘導している。
蝿は統率がとれた軍隊のような動きでカエルを誘い出している。

そこへ突然蝿人間と思われる者がレフト達の前に姿を見せた。


「コーグさん、間にあってよかった…」

なるほど…この者がコーグさんの言ってたフリーか。
腹部に傷がありつらそうだ。

「今、薬を」

コーグが薬を出すが、レフトは回復魔法でフリーの傷を癒す。

「コーグさんはカエルの誘導に集中を。その間、この者に話を聞きます」

フリーは戸惑ったが、レフトが味方と分かると深々と頭を下げた。その様子をみて安心したコーグは蝿たちをより精密に先導し始めた。


「レフトーラです。君の事はコーグさんから聞きました」

「レフトーラ様、フリーです。ご助力ありがとうございます」

「ひとまずあのカエルは何とかしますが…いろいろと訳ありのようですね…」

「…」

技師なのに何故か魔力を感じるコーグ。
このカエルは斬撃をできないようだが、フリーの傷は明らかに斬撃である謎。


この二人は何かを隠している。


「集落に水を供給してもらわないと困る。だからここの問題は全て解決するよ」


レフトはそういうとゆっくり剣に手を置く。
フリーはレフトから絶大な魔力を感じていた。


さて…。


コーグさんが技師かと思ったが、このフリーなる者が技師だろう。
蝿の技師など聞いた事がないが、目の前の現実を受け入れよう。
とはいえ…虫がいきなり言語を使うなどありえない。
そこでコーグさんが怪しい。

レフトは頭の中で状況を分析していた。
ヴァンが話していたモンスターの凶暴化…。

「…」

コーグが三匹のカエルを誘い出してきた。
対峙するとその巨大な姿に圧倒される。


「レフトーラさん、お願い致します」


コーグは手を膝におき疲労している。
カエルはレフトを敵と認識し襲いかかってきた。見た目に反した素早い動きで攻撃するカエル。剣で受け止めたりして、相手の戦闘力を確かめているレフト。手強いと認識したカエルはあろうことかレフトを三匹で囲む。


「…なるほど」


ただのカエルじゃないね…。
ここで討つのは容易なのだけれど…。

 
そんなレフトの迷いを気にせずカエルは一斉に攻撃をしてきた。


「レフトーラさんっ」 

「危ない」


コーグとフリーはレフトに叫ぶ。


「仕方ない」


レフトは魔力を解放しカエルの包囲を脱した。
近くに重要な施設があるので魔力は最小限である。


「…なんだあの魔力は…」

「す、すごい…」


レフトの魔力に驚く二人。
一瞬怯んだカエルだが、すぐにまたレフトを攻撃する。

レフトは剣に魔力を集束させて陣術を展開する。
魔力を帯びて浮遊する剣、そして両手を左右に向け魔法を発動。
衝撃波のようなものがカエルに直撃し勢いよく転がった。

「…一瞬で」

コーグはレフトの魔力に怯えている。


「とりあえずカエルは大人しくなりました」

「…」


レフトは魔力を解除し二人に近づく。
怯えて腰が抜けたコーグ。
フリーは冷静さを保っていそうだが内心はわからない


「戦ってわかりましたが…ただのカエルのモンスターではないですね」

「それは…」

コーグは目をそらす。
だがフリーはそんなコーグの肩に手を置き話す。


「私はある時、人の限界を悟ったんです」

「限界ですか」

「人生に絶望した私は自暴自棄になり生活は荒れました。そんな時、蝿などの虫に目がとまり、その生活に興味がわきました」

「…」

コーグは黙って聞いている。

「蝿は生きるために高度な生活スタイルを確立しており、人の限界を超えるにはこれだと思ったのです」

「…なるほど」

「あとはご想像通りです。私は蝿人間、つまりミュータントです」

「それを…コーグさんが?」

「…はい…私は以前ヘルゲートで魔法による人体実験をやっていました」

「レフトーラ様、コーグさんは悪くないです。実験は私が望んだものです」

コーグを必死にかばうフリー。

「よすんだフリー。そもそも人体実験が倫理的アウトだと前に言っただろう…私は復興機関へ行き、罪を償う」


「…」


「失礼。本題に…」

「つまりコーグさん、あなたが蝿人間を造り、虫を従えてここを管理している?」

「はい、その通りです。実務はフリーですが、彼が表に出ることは無いです」

「私はこの新しい身体で集落の発展に貢献したいのです」

「事情はわかりました…では何故…カエルが?」


そう、そこである。
二人の事情は正直なところレフトにはどうでもよかった。
復興機関であれば厳しく取り締まるべきだろうが、今は違う。
コーグは逮捕を恐れて真実を隠したのだろう。

復興機関のレフトーラはいまだに影響力があるようだ。


「あのカエルは…元は人なのです」

「えっ」


その時、レフトはカエルの近くに人の気配を感じた。

「やれやれ実験は失敗か」

カエルの側には白衣を着た美しく女性が立っていた。


「私と同じく実験をしていたナールです。フリーを我が物にしようと執拗につきまとい…」

「おい、コーグ、余計なことを…」


その時、レフトを見たナールは絶句した。

「な、な、何故ここに…レフトーラが…」

「ナール、私達はおしまいだ。ともに罪を償おう」

フリーはゆっくりとレフトに近づき話す。

「あのカエルたちを人に戻す薬があります」

「よかった、これで無事解決だね」

レフトはフリーから薬を受け取る。
コーグはナールを説得しているがどうも様子がおかしい。


「ここでレフトーラを消しちまえばいいんだよ」

「やめろ、レフトーラさんは我々でどうにかできる方ではない。もう私は罪を背負って生きたくはない」


…喧嘩してますけど…。


「あの二人は腐れ縁みたいな関係で…」


突然コーグを押し退けレフトを睨み付けるナール。
その様子に戦闘は避けられないと悟ったレフトは薬をフリーへ返す。

「フリー、コーグさんとカエルを頼むよ。ちょっとこのナールという人物にお灸を…」

「はい…では処置後、すぐに水門を全開にして集落への供給を再開致します」

「ありがとう、助かるよ」


ポイと薬をフリーへ渡すと、レフトは左手を振り下ろし二人の間に風の魔法を放つ。


「ちっ…」

「レフトさん?」

「二人ともそこまでだ。コーグさんはすぐに集落へ戻り水源が戻ったと報告をお願い致します」

ゆっくりと二人へ近づくレフト。

「は、はい、わかりました」

コーグはすぐに集落へ向かう。
だが、ナールはそれを阻止する。

「ちょっと待ちなコーグ」

「あなたの相手はここにいるよ」

行く手を遮るレフト。

「いいだろう。復興機関最強を討ち取れば私の将来は安泰だわ」

ナールは魔法の剣を召喚して構えた。
フリーの傷はこの剣の斬撃であろうか。

「そういってきた多くの者を倒してきたよ。それだけの実力があるならもっとできることがあるだろうに…」

レフトは腕を組みナールを挑発。
相手に撃たせてカウンターの布陣だろう。
ナールは歯をくいしばりながら剣に集中している。

走りながらも振り向き様子を見るコーグ。
ナールは目を見開きレフトに突撃。

「受けよレフトーラ」

振り下ろした剣を左手で受けるレフト。
召喚された剣はレフトに吸収され無防備な状態をさらすナール。

「ば…化け物か…」

「魔力はもらった」

レフトは吸収した魔力を圧縮してナールに放った。


勝負ありだ。


ナールは吹き飛び、そして倒れた。
魔力を調整して威力を一ヵ所に集束させたのだ。
ナールは実力者であり優れた召喚士。
見境なくあれこれ召喚されたら施設に被害が出る。レフトは一撃にかけ戦闘を短時間で終わらせたかった。


「召喚士ナール、復興機関は関係ないから安心してね」


「…関係…ない…か」


ナールは気絶した。
すぐにフリーが薬を持ってきて治療した。


「ふう、これで解決…かな」



次回へ続く。
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