ファンタジー/ストーリー

雪矢酢

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第一章

十八話 過去と未来

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鋼鉄のさそりによるクーデターらしきものから開戦したシーキヨ戦争は、組織の主であるソサリが倒れたことで終戦した。

機械墓地には大規模な結界が展開され一部関係者しか実体がつかめずにいた。
術主の魔力が途絶えたことで結界は消失した。
現在はテントで出入りの管理をしている。
今後は小屋を新設して墓地の危険箇所を除き自由に研究や採集できるようにする方針らしい。



「失礼します」

レフトはいつかのようにカレンの件で機関から呼び出されていた。

「お忙しいところ申し訳ない」

質問官は三人。
うつむいたカレンからは生気が感じられない。心ここに非ずといったところである。

「単刀直入に言います。あなたの知っていることを全て話して下さい」

質問官は前回のように遠慮や配慮はない。

「…」

「わかりました。シーキヨは再び復興するため多くの方が尽力しております。あなた一人に時間をかけるわけにはいかないのです」

「…」

「カレンさんはもういません。よってあなたはあなた本人としてこれから生きていかねばなりません。先のことをどうするのか決める者はもういません」

「そうだね、カレンと名乗る必要すらないだろうね。あなたはカレンとは違う」

レフトとカレンにはいろいろ事情がありそうだ。
ゆえに戦闘不能にはしたが命を奪ったりはしなかった。



ある日の復興機関での出来事である。



レフトはオメガ、ニナと機関の待合室で待機していた。ニナは初陣だが、実力は相当なもので、この討伐依頼は楽勝だろうと言われていた。辺境に場違いなモンスターが生息しており、その討伐が任務だった。

「それじゃあ向かおう」

レフトは席を立つ。

「待って下さい」

出発する三人を呼び止める声がする。
ニナの同期であるカレンだ。

「私も一緒に連れていってほしいのです。上層部の許可はあります」

「あなたチームは三人って規則を破るつもりなの。そもそも念願の治安課へ配属してもまだ納得できないの?」

ニナがカレンを拒否する。
オメガは上が許可したなら仕方ないというアンドロイドらしい対応だ。

「新人を含む討伐依頼はとても大変でそれが二人。いくら上が許可しても現場の責任者としては許可できないよ」

レフトは冷静に応対する。
ニナはレフト、オメガと座学や生活の一部を共有しており初対面というわけではない。三人はある程度の連携が期待でき、現場に出て実戦するためレフトが依頼を受けたのが経緯である。

「私はお荷物にはならない。一回だけで良いです。レフト、オメガさん、一緒に連れていって下さい」

「レフト、同行させてはダメ、彼女は私と同じで実戦経験が無いわ。これ以上あなたやオメガに負担はかけられないし、規則を守るためにも三人で出発すべきよ」

相反するニナとカレン。

「レフトさん今回のみ許可してほしい」

なかなか出発できない状況に、当時の情報課重鎮ゼットがレフトに頼んだ。

「彼女にチャンスを与えてほしいのです。ムリを言うので埋め合わせはします。もしトラブルがあれば私が責任をとります」

ゼットはカレンの保護者のような印象だ。
親が子を送り出す、そういった感じだ。

「わかったわ。私はもう何も言わない」

結局ニナが折れて、不安ながらも四人で出発となった。カレンはニナへの競争心が強く、このような度を超した個人的な感情は団体行動や組織では望まれず、緊迫した状況下での個人プレーは危険である。


会話もなく目的地へ到着する。


洞窟らしき薄暗い穴があり、ここがモンスターの巣だと言われている。密林の奥地に草木で隠されたようなその洞窟は、いかにもという感じだ。

我先にと洞窟へ入ろうとするカレン。
それに呆れるニナ。

レフトとオメガはカレンをすぐ追いかける。すると巨大なさそりとぼろぼろの服に右手が義手の老人が穴から出てきた。

「ふぉ、実験体がまたきよったか」

老人は杖を取り出し魔法を放つ。
カレンは魔法で拘束され身動きを封じられ、そこにさそりの攻撃が命中する。
尾が身体に刺さり致命傷を受ける。

手慣れた連携によりあっという間にカレンは戦闘不能にされてしまった。

「ちっ、警戒心がなさすぎよ。レフトお願い、彼女に治癒魔法を。私とオメガで片付けるわ」

「ふぉふぉ、実験体は渡さんぞ」

老人はガード魔法を展開する。
杖から光り輝くベールのようなものがカレンを包む。

レフトはゆっくり右腕をカレンに向ける。そして右手を握りしめた。
すると空間が歪み、カレンがレフトの側に転移した。

「ふぉ! なっ…なんと…」

老人は目の前で起こった出来事に一瞬驚くがすぐさま応戦しようと杖を構えた。

そこへ弾丸が命中し、老人は杖を落としてしまう。体勢を崩すほど強烈な弾丸がさらに二発、義手に命中し義手はバチバチと黒煙を上げそのショックで老人は膝をついてしまった。
左手で謎の液体を取り出すが、ニナはよろけた隙に距離をつめていて液体を奪った。格闘による近接攻撃にて腹に一撃、さらにショートした右腕をもぎ取り、老人は一瞬で戦闘不能になった。

巨大さそりはキューブを鉄の塊のような鈍器に変形させたオメガにより尾や胴を潰された。押し潰されたさそりは体液が飛び散りもはや原型はない。


「…お…おぬしらは…何者じゃ…」


老人は咳き込み吐血しながら問う。

「あんたを逮捕しにきたのよ。少しやり過ぎたけど、死にはしないから大人しくしなさい」

ニナは手際良く老人を捕縛した。
カレンはレフトの治癒魔法を受けている。

「傷は見た目ほどひどくないが毒がやっかいだね。この地域は洞窟内に解毒茸が必ずあるはずだよ」

「やれやれ、わかったわ。オメガ、一緒にきてくれる?」

「うむ、レフトの言うように解毒茸はこの地に自生しておる。急ごう」

二人は特殊な服を着て洞窟内へ入っていった。


二人きりになったレフトとカレン。

「…私…死ぬの…かな…」

「大丈夫だよ。解毒すればすぐ良くなる」

レフトは不安そうなカレンを優しく諭す。急な攻撃に反応すらできなかった自分が憎いのだろう、カレンは涙を流す。

「おいおい、初陣なんだから仕方ないよ。これからは素早く動けるようになればいいし、自分を恥じることはないよ」

「レフト、私はあなたを目標に努力するわ。回復してくれてありがとう。あなたにはけっして刃は向けないと約束する…」

そう言い残してカレンは気絶した。




ゆっくり目を開けるレフト。
過去にあった出来事を思い出していたようだ。カレンはニナのような逸材ではなかった。気が強く強引ではあるが努力して皆の手本となるべく鍛練していた。
そういう姿に多くが惹かれシーキヨでは活躍していた。努力と周囲への感謝を忘れない良きリーダーだった。


「ではこれ以上時間はとれないので、決定事項を読み上げます」

質問官は早々に終わらせようとする。

「…あの…」

カレンは小さく弱々しい声で発言する。

「…鏡…鏡のようなモノがあって…」

「鏡?」

みんなが一斉に反応する。

「内部で争いが起こるとソサリが鏡で鎮圧していました。私も怖くて逃げようとした時、鏡を見せられて…気づくと剣を持ち、多くの兵隊が倒れていました」

「…」

みんな黙って聞いている。

「カレンさん、ありがとうございます。事実かどうかはさておき、話す姿勢がみられたので、治療を継続してもらい、タイミングをみてまたお呼びします」

質問官は除名処分を一旦回避した。
彼らも忙しいのだろう。
カレンに病室まで同行する。

「ねえ、レフト」

「ん?」

「…私…死ぬの…かな…」


次回へ続く。

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