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第一章
十八話 ドキドキ賞金
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「おはよ」
「おはようアレサ」
ゆっくりと起き上がるレフト。
少々身体が重い。
「あら、久しぶりの戦闘だったから身体が…」
「大丈夫」
水を一杯飲む。
大会の終わり方が納得できないレフト。
「少し散歩してくるね」
「待って、一緒にいくわ」
二人は簡単に支度して散歩に出かけた。
「気持ちがよい朝ね」
「うん」
「ねえ、大会のこと…悩んでるの?」
歩きながらアレサが直球で問う。
図星だったレフトは顔に出てしまった。
「やっぱり…」
「グランデルを逃がしてしまったのは…」
「…」
うつむくレフト。
そんな彼にアレサは言う。
「ごめんなさい、私はあの時…」
「あのグランデルは改造人間だと思うんだ」
「…あれは甲殻人よ」
「甲殻人?」
「あのタイプは辺境にいた頃、多数目撃したわ。ヘルゲートの施設から脱走した実験体が原生林に逃げ込んだり、危険な実験を隠蔽するため原生林に廃棄するなど理由は様々。コストがよく量産されているらしいわ」
「…」
「甲殻人を見て確信したわ。あの大会の黒幕はおそらく人体実験の施設関係者よ。大会の目的はおそらく…」
「実験体の…テストかな」
「うん。いずれにしろあそこはもう復興機関ら、何らかの捜査が入るでしょう」
「…だと思う」
「私たちも捜査させる可能性があるわ」
「…」
「レフト、教えて…」
「ん?」
「復興機関がここへ来たら…あなたは機関に戻るの?」
「それは…」
二人は歩みを止めた。
「シーキヨが今、どうなっているのかはわからないし、邪悪な悪魔はあのネズミだけではないわ」
「うん」
「大会で久しぶりとはいえ実戦をしたことでそれなりの手応えがあったハズよ」
「…」
「あなたが機関に戻るのなら私は止めないわ。いつかは戻ると思っているし…」
「今は戻れない」
「えっ…戻れない?」
「ゾルムさんのところで魔力を解放して思ったことがあるんだ」
「思ったこと?」
「うん。扱う魔力が桁違いに上昇していて……正直、魔法を使うことが怖いんだ」
「…」
その言葉を聞き、アレサはゾルムが言った世界を滅ぼす可能性があるということを思い出した。
「あの場で魔法を使えばグランデルを制圧することは容易だったけど…」
アレサはレフトを抱きしめた。
「…ごめんねレフト。あなたの苦悩はわかっていたつもりだったけど…あの時は私は別の事を考えていたの」
レフトはアレサの頭を撫で優しく話す。
「謝ることはないよ。リハビリになると思い大会へエントリーしてくれたアレサの気持ちは…嬉しかった…」
「…」
言えない。
賞金が目的だったこと。
苦悩し魔法をためらっている時に、賞金のことしか考えていなかったことは…。
言えない。
アレサはそれを悟られぬよう立ち回った。
「ねえ…聞いてほしい」
「うん」
「正直、金銭的な理由で私は軍に戻るつもりだったわ」
「えっ…」
アレサは思う。
うわ…嘘ついちゃったわ…。
確かにお金はそんなに無いけど、人並みの生活はできる。
だけど大会の賞金があれば土地と家を買える。
私の幸せは二人で平和に暮らすことだけなの。
「アレサ?」
「ごめん、ちょっと…」
レフトは思う。
アレサは悩んでいたのか。
確かに復興機関は給料が良いとは言えないし…。
ここでの生活はお金を使う機会が少ないけどゼロではない。
家計のやりくりを全て任せてしまっているのが悪かったんだろうか。二人で考えるべきだね。
二人にとっての幸せは平和に暮らすことだと思うし。
「アレサ…」
「レフト…」
同時に二人の名を呼ぶ二人。
「レフトからどうぞ」
「いや、レディースファースト…かな」
変な緊張感というか微妙な空気が漂う。
「レフト、リハビリがてら、この近辺で危険なモンスターの討伐をするのはどうかしら?」
「モンスター討伐…」
「もちろん対価はもらうわよ。リハビリにも金銭的もこれでバッチリだと思うわ」
「復興機関に属していてそれは…」
「レフト、あなたは今、機関とは関係なくて…言うなれば部外者よ」
「…部外者」
「大会のことで機関や軍の者が事情聴衆に来てもあなたの立場は一般人よ」
「う…」
「でもそれは私も同じよ。今、私たちは一般人なのよ」
そう言いアレサはレフトから離れる。
「アレサ?」
「私はあなたが機関へ戻るならここで帰りを待ちます」
「…」
「だからあなたはここに帰って来てほしい」
「……アレサ」
レフトに背を向けて距離を取るアレサ。
なぜか闘気を解放するアレサ。
だがその闘気は弱々しい。
「私もリハビリが必要みたいね…」
「…わかったよ」
アレサにゆっくり近づき抱きしめる。
闘気は消えアレサはレフトの手を握る。
「戻って朝食にしましょう」
「そうだね」
レフトごめんなさい嘘ばっかりついて本当にごめん。
なんとか賞金のことを気づかれずにすんだわ。
事態の収束に成功したアレサ。
だが家にはジジがおり、なにやら緊急事態のようだ。
「奥様、レフトーラさんお帰りなさい」
「ジジ、どうしたのかしら」
「謎の集団にレオが拉致されたようです」
「拉致?」
「…本当にそうなの?」
「はい、ミーナさんより手紙を預かり、そこに二人の名が…」
手紙を受け取るアレサ。
内容はレオを拉致したこと、彼の解放条件にレフトを引き渡すことが書かれていた。
そしてこの手紙の送り主はなんと再生会だ。
「大会の黒幕は…再生会なのかしら」
「レオを誘拐するとは…」
憎しみが増すレフト。
大会後、自責の念で精神が不安定となっている状態でこの出来事は少々つらい。
「レフト落ち着いて。怒りに身を任せてはダメよ」
次回へ続く
「おはようアレサ」
ゆっくりと起き上がるレフト。
少々身体が重い。
「あら、久しぶりの戦闘だったから身体が…」
「大丈夫」
水を一杯飲む。
大会の終わり方が納得できないレフト。
「少し散歩してくるね」
「待って、一緒にいくわ」
二人は簡単に支度して散歩に出かけた。
「気持ちがよい朝ね」
「うん」
「ねえ、大会のこと…悩んでるの?」
歩きながらアレサが直球で問う。
図星だったレフトは顔に出てしまった。
「やっぱり…」
「グランデルを逃がしてしまったのは…」
「…」
うつむくレフト。
そんな彼にアレサは言う。
「ごめんなさい、私はあの時…」
「あのグランデルは改造人間だと思うんだ」
「…あれは甲殻人よ」
「甲殻人?」
「あのタイプは辺境にいた頃、多数目撃したわ。ヘルゲートの施設から脱走した実験体が原生林に逃げ込んだり、危険な実験を隠蔽するため原生林に廃棄するなど理由は様々。コストがよく量産されているらしいわ」
「…」
「甲殻人を見て確信したわ。あの大会の黒幕はおそらく人体実験の施設関係者よ。大会の目的はおそらく…」
「実験体の…テストかな」
「うん。いずれにしろあそこはもう復興機関ら、何らかの捜査が入るでしょう」
「…だと思う」
「私たちも捜査させる可能性があるわ」
「…」
「レフト、教えて…」
「ん?」
「復興機関がここへ来たら…あなたは機関に戻るの?」
「それは…」
二人は歩みを止めた。
「シーキヨが今、どうなっているのかはわからないし、邪悪な悪魔はあのネズミだけではないわ」
「うん」
「大会で久しぶりとはいえ実戦をしたことでそれなりの手応えがあったハズよ」
「…」
「あなたが機関に戻るのなら私は止めないわ。いつかは戻ると思っているし…」
「今は戻れない」
「えっ…戻れない?」
「ゾルムさんのところで魔力を解放して思ったことがあるんだ」
「思ったこと?」
「うん。扱う魔力が桁違いに上昇していて……正直、魔法を使うことが怖いんだ」
「…」
その言葉を聞き、アレサはゾルムが言った世界を滅ぼす可能性があるということを思い出した。
「あの場で魔法を使えばグランデルを制圧することは容易だったけど…」
アレサはレフトを抱きしめた。
「…ごめんねレフト。あなたの苦悩はわかっていたつもりだったけど…あの時は私は別の事を考えていたの」
レフトはアレサの頭を撫で優しく話す。
「謝ることはないよ。リハビリになると思い大会へエントリーしてくれたアレサの気持ちは…嬉しかった…」
「…」
言えない。
賞金が目的だったこと。
苦悩し魔法をためらっている時に、賞金のことしか考えていなかったことは…。
言えない。
アレサはそれを悟られぬよう立ち回った。
「ねえ…聞いてほしい」
「うん」
「正直、金銭的な理由で私は軍に戻るつもりだったわ」
「えっ…」
アレサは思う。
うわ…嘘ついちゃったわ…。
確かにお金はそんなに無いけど、人並みの生活はできる。
だけど大会の賞金があれば土地と家を買える。
私の幸せは二人で平和に暮らすことだけなの。
「アレサ?」
「ごめん、ちょっと…」
レフトは思う。
アレサは悩んでいたのか。
確かに復興機関は給料が良いとは言えないし…。
ここでの生活はお金を使う機会が少ないけどゼロではない。
家計のやりくりを全て任せてしまっているのが悪かったんだろうか。二人で考えるべきだね。
二人にとっての幸せは平和に暮らすことだと思うし。
「アレサ…」
「レフト…」
同時に二人の名を呼ぶ二人。
「レフトからどうぞ」
「いや、レディースファースト…かな」
変な緊張感というか微妙な空気が漂う。
「レフト、リハビリがてら、この近辺で危険なモンスターの討伐をするのはどうかしら?」
「モンスター討伐…」
「もちろん対価はもらうわよ。リハビリにも金銭的もこれでバッチリだと思うわ」
「復興機関に属していてそれは…」
「レフト、あなたは今、機関とは関係なくて…言うなれば部外者よ」
「…部外者」
「大会のことで機関や軍の者が事情聴衆に来てもあなたの立場は一般人よ」
「う…」
「でもそれは私も同じよ。今、私たちは一般人なのよ」
そう言いアレサはレフトから離れる。
「アレサ?」
「私はあなたが機関へ戻るならここで帰りを待ちます」
「…」
「だからあなたはここに帰って来てほしい」
「……アレサ」
レフトに背を向けて距離を取るアレサ。
なぜか闘気を解放するアレサ。
だがその闘気は弱々しい。
「私もリハビリが必要みたいね…」
「…わかったよ」
アレサにゆっくり近づき抱きしめる。
闘気は消えアレサはレフトの手を握る。
「戻って朝食にしましょう」
「そうだね」
レフトごめんなさい嘘ばっかりついて本当にごめん。
なんとか賞金のことを気づかれずにすんだわ。
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だが家にはジジがおり、なにやら緊急事態のようだ。
「奥様、レフトーラさんお帰りなさい」
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「拉致?」
「…本当にそうなの?」
「はい、ミーナさんより手紙を預かり、そこに二人の名が…」
手紙を受け取るアレサ。
内容はレオを拉致したこと、彼の解放条件にレフトを引き渡すことが書かれていた。
そしてこの手紙の送り主はなんと再生会だ。
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「レオを誘拐するとは…」
憎しみが増すレフト。
大会後、自責の念で精神が不安定となっている状態でこの出来事は少々つらい。
「レフト落ち着いて。怒りに身を任せてはダメよ」
次回へ続く
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