上 下
19 / 41
第一章

十八話 ドキドキ賞金

しおりを挟む
「おはよ」

「おはようアレサ」

ゆっくりと起き上がるレフト。
少々身体が重い。

「あら、久しぶりの戦闘だったから身体が…」

「大丈夫」

水を一杯飲む。
大会の終わり方が納得できないレフト。


「少し散歩してくるね」

「待って、一緒にいくわ」



二人は簡単に支度して散歩に出かけた。

「気持ちがよい朝ね」

「うん」

「ねえ、大会のこと…悩んでるの?」

歩きながらアレサが直球で問う。
図星だったレフトは顔に出てしまった。

「やっぱり…」

「グランデルを逃がしてしまったのは…」

「…」

うつむくレフト。
そんな彼にアレサは言う。

「ごめんなさい、私はあの時…」

「あのグランデルは改造人間だと思うんだ」

「…あれは甲殻人よ」

「甲殻人?」

「あのタイプは辺境にいた頃、多数目撃したわ。ヘルゲートの施設から脱走した実験体が原生林に逃げ込んだり、危険な実験を隠蔽するため原生林に廃棄するなど理由は様々。コストがよく量産されているらしいわ」

「…」

「甲殻人を見て確信したわ。あの大会の黒幕はおそらく人体実験の施設関係者よ。大会の目的はおそらく…」

「実験体の…テストかな」

「うん。いずれにしろあそこはもう復興機関ら、何らかの捜査が入るでしょう」

「…だと思う」

「私たちも捜査させる可能性があるわ」

「…」

「レフト、教えて…」

「ん?」

「復興機関がここへ来たら…あなたは機関に戻るの?」

「それは…」

二人は歩みを止めた。

「シーキヨが今、どうなっているのかはわからないし、邪悪な悪魔はあのネズミだけではないわ」

「うん」

「大会で久しぶりとはいえ実戦をしたことでそれなりの手応えがあったハズよ」

「…」

「あなたが機関に戻るのなら私は止めないわ。いつかは戻ると思っているし…」

「今は戻れない」

「えっ…戻れない?」

「ゾルムさんのところで魔力を解放して思ったことがあるんだ」

「思ったこと?」

「うん。扱う魔力が桁違いに上昇していて……正直、魔法を使うことが怖いんだ」

「…」

その言葉を聞き、アレサはゾルムが言った世界を滅ぼす可能性があるということを思い出した。

「あの場で魔法を使えばグランデルを制圧することは容易だったけど…」

アレサはレフトを抱きしめた。

「…ごめんねレフト。あなたの苦悩はわかっていたつもりだったけど…あの時は私は別の事を考えていたの」

レフトはアレサの頭を撫で優しく話す。

「謝ることはないよ。リハビリになると思い大会へエントリーしてくれたアレサの気持ちは…嬉しかった…」

「…」



言えない。


賞金が目的だったこと。
苦悩し魔法をためらっている時に、賞金のことしか考えていなかったことは…。


言えない。
アレサはそれを悟られぬよう立ち回った。


「ねえ…聞いてほしい」

「うん」

「正直、金銭的な理由で私は軍に戻るつもりだったわ」

「えっ…」


アレサは思う。
うわ…嘘ついちゃったわ…。
確かにお金はそんなに無いけど、人並みの生活はできる。
だけど大会の賞金があれば土地と家を買える。
私の幸せは二人で平和に暮らすことだけなの。


「アレサ?」

「ごめん、ちょっと…」


レフトは思う。
アレサは悩んでいたのか。
確かに復興機関は給料が良いとは言えないし…。
ここでの生活はお金を使う機会が少ないけどゼロではない。
家計のやりくりを全て任せてしまっているのが悪かったんだろうか。二人で考えるべきだね。
二人にとっての幸せは平和に暮らすことだと思うし。


「アレサ…」
「レフト…」


同時に二人の名を呼ぶ二人。


「レフトからどうぞ」

「いや、レディースファースト…かな」


変な緊張感というか微妙な空気が漂う。


「レフト、リハビリがてら、この近辺で危険なモンスターの討伐をするのはどうかしら?」

「モンスター討伐…」

「もちろん対価はもらうわよ。リハビリにも金銭的もこれでバッチリだと思うわ」

「復興機関に属していてそれは…」

「レフト、あなたは今、機関とは関係なくて…言うなれば部外者よ」

「…部外者」

「大会のことで機関や軍の者が事情聴衆に来てもあなたの立場は一般人よ」

「う…」

「でもそれは私も同じよ。今、私たちは一般人なのよ」


そう言いアレサはレフトから離れる。

「アレサ?」

「私はあなたが機関へ戻るならここで帰りを待ちます」

「…」

「だからあなたはここに帰って来てほしい」

「……アレサ」

レフトに背を向けて距離を取るアレサ。
なぜか闘気を解放するアレサ。
だがその闘気は弱々しい。

「私もリハビリが必要みたいね…」

「…わかったよ」

アレサにゆっくり近づき抱きしめる。
闘気は消えアレサはレフトの手を握る。


「戻って朝食にしましょう」

「そうだね」



レフトごめんなさい嘘ばっかりついて本当にごめん。
なんとか賞金のことを気づかれずにすんだわ。


事態の収束に成功したアレサ。



だが家にはジジがおり、なにやら緊急事態のようだ。



「奥様、レフトーラさんお帰りなさい」

「ジジ、どうしたのかしら」

「謎の集団にレオが拉致されたようです」

「拉致?」

「…本当にそうなの?」

「はい、ミーナさんより手紙を預かり、そこに二人の名が…」


手紙を受け取るアレサ。
内容はレオを拉致したこと、彼の解放条件にレフトを引き渡すことが書かれていた。
そしてこの手紙の送り主はなんと再生会だ。



「大会の黒幕は…再生会なのかしら」

「レオを誘拐するとは…」

憎しみが増すレフト。
大会後、自責の念で精神が不安定となっている状態でこの出来事は少々つらい。


「レフト落ち着いて。怒りに身を任せてはダメよ」


次回へ続く
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ファンタジー/ストーリー3

雪矢酢
ファンタジー
注意! この作品には転生系の要素はございません。 第一期から読むほうがより作品を楽しめます。 隙間時間で読める、謎は残さない、読者に結末を委ねない後味の良い作品を目指しております。 ◇作品紹介◇ 魔法剣士が主人公のお話です。 ファンタジーをベースに、強い主人公や個性豊かなキャラクターが活躍するシンプル構成でわかりやすいエンターテイメント風な物語です。 組織から離れた主人公の活躍にご期待下さい。 (内容紹介の詳細はお手数ですが第一期をご覧下さい) ※誤字脱字は可能な限りチェックしており不備は修正いたします。修正により本編内容が変更することはございません。 表紙:イラストAC arayashiki様より

ファンタジー/ストーリー5

雪矢酢
ファンタジー
この作品には転生系の要素はございません。 また、ループなどの構成を排除したシンプルで分かりやすい内容を目指しています。 ◇作品紹介◇ 作中最強の主人公や個性豊かなキャラクターが活躍するシンプルなお話です。 物語は最終章へ突入、滅びの運命に抗った者たちや世界の行方を見届けよう。 (内容紹介の詳細はお手数ですが第一期をご覧下さい) ※誤字脱字は可能な限りチェックしており不備は修正いたします。修正により本編内容が変更することはございません 表紙:イラストAC yumazi様より

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ファンタジー/ストーリー4

雪矢酢
ファンタジー
この作品に転生系の要素はございません。 第一期から読むほうがより作品を楽しめます。 隙間時間で読める、謎は残さない、読者に結末を委ねない後味の良い作品を目指しております。 番外編には挿し絵を入れてみましたので、ぜひご覧下さい。 ◇作品紹介◇ 魔法剣士が主人公のお話です。 ファンタジーをベースに主人公や個性豊かなキャラクターが活躍するシンプル構成です。分かりやすいエンターテイメント風な物語をお楽しみ下さい。 神に匹敵する力を持つ魔法剣士の活躍にご期待下さい。 (内容紹介の詳細はお手数ですが第一期をご覧下さい) ※誤字脱字は可能な限りチェックしており不備は修正いたします。修正により本編内容が変更することはございません 表紙:イラストAC yumazi様より

ファンタジー/ストーリー

雪矢酢
ファンタジー
◇作品のコンセプト◇ 転生しない、話が複雑になる要素や構成は排除、誰でも謎が解けるわかりやすいシンプルな構成、ちょっとした隙間時間で読めるように文字数を調整、文章を読むのが苦手な方でも読書習慣が身に付くような投稿方法を考えてみました。 筆者の自己満足ではなく、読む側、書く側が楽しめるモヤモヤしない後味スッキリの作品です。 ◇作品内容◇ 文明が崩壊してしまった世界。 人類はどのように生きていくのか。 そして文明は何故滅びてしまったのか。 魔法やモンスター、剣などのファンタジーをベースにしつつ、機械、近代兵器が登場する独特の世界観、圧倒的な強さの主人公などの個性的なキャラクターたちが登場し活躍します。 「復興機関」という組織に所属する主人公を中心に話が進みます。 通勤、通学中や暇つぶしなど隙間時間にさっさと読める、一話1000文字~3000文字程度で連載していく長編です。 バトルや人間模様、ギャクにシリアスな謎解きなど、思い付く要素を詰め込んだエンターテイメント風な物語をお楽しみ下さい。 ※誤字脱字はチェックしており不備は修正いたします。修正により本編内容が変更することはございません。 表紙:イラストAC まゆぽん様より

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...