ダークライトラブストーリー

雪矢酢

文字の大きさ
上 下
22 / 26

【本編】アイの結婚前夜

しおりを挟む
「婚姻の発表は明後日に行う」

ブラクがアイたちに伝えにきた。

「私はあなた方が策を練ろうと関係ありません。裏切ろうがどうでも良いのです」

「えっ」

突然の告白に戸惑うアイ。
コトは表情を崩さず聞いている。

「婚姻の発表で兵士がまとまればこの国は再び強国となり、大陸を支配できる。クロス王が誕生し歴史に名を残すことになるだろう」

「…」

ブラクは大陸を支配したいようだ。
クロスは優秀な将校だが、王の器かどうかは正直怪しい。
アイはクロスに酔っているブラクに告げる。

「クロスは強く面倒見も良いわ。だけど王にはなれないわ。市民はそれを望んでいないからよ。武力だけでは人を導くことはできないわ」

「アイ様、もうその辺でいいでしょう。ブラク殿、明後日は承知した」

コトが過熱する二人を諭した。
ここでやりあっても意味はない。
両者、それはわかっていた。

「ではこれにて。明日の昼に説明会を実施するので参加を」

そう言い残し部屋を出るブラク。

「明後日か。スルたちは進軍しているのだろうか」

「市街へ買い物に行った際、国境で問題があったとの噂を聞きました」

「国境を突破できたとしたら、部隊をまとめて…明後日…ここへ到着…ね」

「はい、なかなか良いタイミングですね」

「緊急のレバーは設計者の孫がいるから問題ないわ。明後日、白い国の部隊が到着したら信号弾で門が破壊してもらうわ」

「到着と共に門を破壊し部隊が突入すれば白い国の勝利は確定するでしょう。後はクロスを討てば黒い国は終わる」

「うん。ちょっとブラクが気になるけどね」

二人は打ち合わせをして、被害を最小限にする方法を考えていた。



その頃クロスたちは…。


「ブラク、アイ殿に明日、昼の件は伝えてくれたか」

「はい、アイ殿と従者のコト殿に」

「ありがとう。実は夢を見たのだ」

「夢…ですか」

神妙な面持ちになるクロス。

「あの二人が裏切り、この国が滅ぶ夢だった」

「なんと…」

「正直、あの二人は信用できない。婚姻が済んだら兵士の前で処刑するつもりだが…どうだろうか…」

「…処刑…ですか…見せしめにするおつもりでしょうか」

暗黒と恐怖が一緒なら勝てる、
と兵士の士気を上昇させるのが目的の婚姻、のはずが何故、処刑する必要があるのかブラクはわからなかった。

「ここは強者が支配する国だ。ゆえに私が絶対強者であるということを証明する必要があると思う」

「恐怖で支配していた騎士をクロスが屈服させたという事実ですか…」

「うむ、アイ殿はかつての荒々しさが失くなりより洗練されたような感じだ」

「それはわかる。演説でもされたら兵士は心酔し絶大なカリスマ性を発揮しそうだ」

二人は帰還したアイに恐怖しつつ、その力を何とか利用しようと考えていた。
アイの策略は見事に成功したのだ。


そして翌日の昼


「それでは明日の段取りを説明する」

軍略室のような部屋に集まった黒い国の首脳陣。

クロス、ブラク、現在の王ロク、
兵士長のマクロなど国のトップに交じり、アイとコトがそこにいた。


首脳陣はアイが戻ったことに恐怖し怯えている。それだけ恐怖の騎士はこの国全体に噂が広まり恐れられているのだ。

ブラクとマクロが当日の集合時間などを決めている。

「アイ様、やはりこの国はクロスとアイ様の存在が非常に大きい。クロスを無力化さえすれば争いは終わると確信しました」

統率のない集団がまとまらない議論をしている様子や、退屈そうにそっぽをむく王など、コトはこの国の根幹を見たようだ。

「マクロは叩き上げで、名家のクロスとは犬猿の仲よ。私が消えてから兵士たちの指揮をとっているようね。その兵士含めた軍部をまるごとクロスは掌握した。これは好都合ね」


二人のひそひそ話を指摘する者は誰もいない。
それはヒートアップするブラクとマクロがいるからだ。
考え方が違う二人は顔を会わすと毎回言い争いとなる。
場の雰囲気は一気に悪くなり、アイとコトの会話など問題ではない。


よくわからないまま集まりは解散した。
集まりの後、二人はすぐに門の設計者の元へ向かった。

当日は呼ばれるまで二人は待機。
コトは市街へと出て、白い国の状況を確認しつつ信号弾を担当する。

「コトさんの合図後、私は門を崩落させます。明日はタイミングがよく、メンテナンスをすると事前に申請しているので周囲には誰も近づけないですし、出入りも許可のある者のみで制限があるため市民の被害はないでしょう」

設計者の孫、ゲートはハキハキと説明し、全ては合図次第であると伝えた。

「ゲート君、先祖の建造物を破壊することになり申し訳ない」

二人はゲートに謝罪した。
この計略を成功させるには門の崩落は必須でそれは一族の功績を破壊することと同義。

「この国は強固で我々市民は普通の生活ができています。最近は白い国と歩みよろうという風潮さえあります」

黒い国は大きな決断を迫られているようだ。
クロスが推す旧体制を継続し勝利して支配するのか…。

「ゲート殿、よろしくお願い致します」

「世界は広いのよ。合う合わないはあるでしょうが、いろいろな人や様々な文化をみるべきだと私は思うわ」


「…」


アイのセリフに突然沈黙するゲート。

「どうかしたのかしら」

「…いえ…その……なんというか…」

「ああ、人が変わったようにみえるのね」

「…はい…別の方と話しているようで…」

「ふふっ、私は私よ。もう騎士ではないけどね」



その日の夜遅くにアイたちは戻った。
ブラクから軽はずみな行動は控えるよう注意されるが、クロスは無言だった。


それぞれの思惑が渦巻くなか、
ワイト率いる白い部隊は確実に接近している。

果たして争いは終わるのか。
それは夜が明ければわかるだろう。
しおりを挟む

処理中です...