ダークライトラブストーリー

【本編】館での生活

「ここがお家だよ」

「とても大きいのね」

アイは小さな家でも想像していたのだが、目の前にあるのは立派な館だ。

「上層部が管理しているらしく、今、提案できるお家はここだけらしいよ。最初見た時は確かにびっくりするよね」

びっくりというか、ここに住んで良いのかという疑問がアイにはあった。

「二人だとかなり広いわね。私はもっと小さくて質素なお家かと思っていたわ」

「そうね、上層部に相談し、タイミングみて小さな家に住もうか。とりあえず中に入ろう」

スルは車椅子を押し玄関扉を開ける。
中には執事のような女性と正装した使用人らしき四人が並んでいた。

「お疲れ様です。私はコトと申します。アイ様とスル様が快適に暮らせるように生活の支援をいたします」

二人は何が起きているのか理解できなかった。

「ちょっとスル、こんな生活なんて聞いてないわよ。こんなに集まってもらって申し訳ないでしょう」

「いや…執事や使用人がいるのは初めて聞いたけど…」

戸惑う二人にコトは続ける。

「これだけ広いといろいろ大変です。アイ様は通院されるでしょうし、スル様はお仕事があると思います。この件は本当に急遽決定したことで、どうすればよいのかわからないのは私たちも同じでございます」

「…そうよね。コトさんだって上から言われて派遣されたのだろうし、皆さんもどうしていいかわからないわよね」

アイは自分たちのために働いてくれる方々へ敬意を表した。そういう優しさをすぐさま察してスルは言う。

「まあみんなで仲良くやっていこうよ」

なんともゆるいこの感じは、アイや執事たちの緊張感を解いた。思わず吹き出す使用人もいた。


他人でもお互いに歩み寄ればきっと仲良くなれる。
そして大勢での共同生活は楽しい。
スルは農業の経験から協力することの大切さを十分理解していた。強制や命令はしないでゆるく構えることが疲れない人間関係のコツだ。

「ではお部屋にご案内致します」

コトは使用人の一人に合図した。
それを待ってましたと言わんばかりに前に出て挨拶する。

「…使用人のユウです…ではこちらへ…」

少しお堅い印象だが初対面ではそうだろうと思うアイとスルであったが…

「私は料理が得意なので献立の希望があればいつでもどうぞ」

「それは楽しみだわ。でもたまには一緒に料理もしてみたいわ。いいかしら」

アイの不意打ちかと思う一言に戸惑うユウ。

「使用人っていうけど私たちは同じ屋根の下に住む者よ。ユウたちだけが家事をやり続けるのはどうかと思うわ」

「…」

「…いや、まあいちょうユウの仕事だからねぇ…」

冷静なスルのツッコミだが、アイは聞いちゃいない。この不思議な空気にユウはすっかり魅力されているようだ。

「そんなことを言われたのは初めてです。たいてい私たちはご主人様に命令されたりして黙々と仕事をします」

「…まあそうだと思います。そういう仕事でしょうし…」

「それはわかるけど…なんというかもう少し気軽な関係にはなれないのかなと…」

アイの言いたいことは二人ともわかっていた。

そうこうしているうちに部屋に着く。

「ここは寝室です。この部屋を挟むようにアイ様スル様の部屋がございます。簡単にこの館の説明を致します」

するとユウはこの館のフロアマップを取り出した。大きい建物だが、構造はいたってシンプルである。

「アイ様スル様の部屋は二階で、館を正面から見た時の西側です。階段は正面玄関入口のみです。二階の東側はコト様の部屋と執事室です」

「よかった、私は複雑な構造だと迷っちゃう…」

照れて恥ずかしそうに話すアイ。

「ええ、私もです。未使用な部屋はひとまず封鎖しており、動きやすいように組分けしました」

「一階も構造は同じですね」

スルはフロアマップを見て構造を理解したようだ。広いが部屋数はそれほど多くはないようだ。

「はい。この西側の一階は食堂や調理場、医務室など生活の基礎がまとまっております。東側は私たち使用人の部屋になります。非番の時はたいていここにいます。ざっと説明致しましたが…」

スルはフロアマップを追いながら館の構造を頭にたたき込んでいるようだが、アイは方向音痴らしく、この分野は完全お任せ状態だ。

「そのうち慣れると思うので大丈夫ですよアイ様」

ニコニコ笑うユウだが、少し嫌みっぽくてアイをからかっているようだ。
その様子をみてスルは和んでいるなぁと実感していた。

「お疲れかと思うので少し休憩してくださいね。お食事の時間になりましたら連絡致します」

一礼して去るユウ。
ひとまず寝室に二人で入る。
部屋の中はとても広くきれいに整っている。

「ちょっと疲れたね…」

いろいろなことがあって一気に疲労がくる。

「このまま寝れそうだわ」

スルはあくびをしながら言った。
落ち着くと急に睡魔が襲ってきた。

「ねえちょっと…スル?」

スルはそのまま寝てしまった。

「疲れていたのね。こんな立派な館に住めて私は幸せ者だわ、スル。これからも一緒に…」

アイも急な睡魔により寝入ってしまった。



二人にとってはとても長い一日だった。
その夜、ユウが呼びにくるまで二人は熟睡してたそうだ。