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7. アレクとなった俺、殿下から逃げる
―― ソフィア殿下と俺 1 ――
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エミリー嬢の動きは、早かった。
俺と会った翌日には、ソフィアに会い、俺と会う約束を取りつけてきた。
今日が、その日なのだ。
昨日からよく眠れず、寝不足のまま、朝早く起きた。
俺は、喉が渇き、何度も水を飲んでいた。
今日は、貴族議会が始まる前に行われる、貴族院議員の親睦パーティーの日でもあった。
パーティー会場は、伝統的に、王都の中心部、王城のすぐ隣に建てられている貴族院議事堂内の小会議室で行われる。
パーティーで飲みつかれた者たちが休む、休憩室のひとつで、ソフィア殿下と会うことになった。
俺は、ニコライに、金魚の糞のようにくっついている副官たちに混じって、パーティー会場に入った。
議事堂内には、ニコライ殿下を始めとする王族の個室も用意されているが、ソフィア殿下の個室に出入りするところを、ニコライ派の者にみられたら、言い訳がきかない。
なるべく、人目につかないような場所で会うことが望ましかった。
ニコライは、俺との会話では、パーティーは苦手だなどといっているが、会場に入るや否や、有力者である公爵家や、王族たちの談笑の輪のなかに入りこみ、にこやかな顔で、相手の肩をポンポン叩いたりしながら、盛んにしゃべっている。
見た目は、本当に生まれついてのお調子者、という感じだ。が、その顔の裏には、恐ろしいほど冷酷な魂が隠れている。
会場の入り口で、歓声があがった。ソフィアとセルゲイが、ほぼ同時に入ってきたのだ。
これで、会場内に、次期国王になる権利を持つ王位継承権保持者が、全員そろったことになる。
三人それぞれの派閥の者が、徐々にグループをつくり始めた。
俺は、ニコライ派の者たちと、しばらく談笑してから、大けがを負ったせいで、酒に弱くなったと言い訳をして、会場の隅に引っ込み、氷と水で薄めに薄めた、この世界の発酵酒を、ちびちびと飲んでいた。
すると、会場内で動きまわって、酒や料理を運んでいた給仕のひとりが、俺のそばに来て、囁いた。
「お疲れでしょうか? 休憩されますか?」
「ああ。けがをしてから、疲れやすくてな」
「――こちらへ」
給仕は、会場の外の広い廊下に面している小部屋の一室に、俺を案内した。
部屋に入ると、口を真一文字にむすび、手を固く握りあわせたエミリー嬢が、待っていた。
エミリー嬢は無言で俺の手をつかむと、さらに奥の部屋へと、俺を案内した。
予想通り、そこには、アレク(俺)の姉である、ソフィアが待っていた。
俺は、眼を見開いた。
ソフィアの隣に、あのビクトルが、ひっそりと立っている。
エミリー嬢は、ソフィアとビクトルに、頭を下げながら告げた。
「――お連れしました」
ソフィアは、険しい眼で、俺をみている。
思っていた通り、俺に対する見方を変えてはいないようだ。
俺は、口を開いた。
「姉上、お招き、ありがとうございます」
俺と会った翌日には、ソフィアに会い、俺と会う約束を取りつけてきた。
今日が、その日なのだ。
昨日からよく眠れず、寝不足のまま、朝早く起きた。
俺は、喉が渇き、何度も水を飲んでいた。
今日は、貴族議会が始まる前に行われる、貴族院議員の親睦パーティーの日でもあった。
パーティー会場は、伝統的に、王都の中心部、王城のすぐ隣に建てられている貴族院議事堂内の小会議室で行われる。
パーティーで飲みつかれた者たちが休む、休憩室のひとつで、ソフィア殿下と会うことになった。
俺は、ニコライに、金魚の糞のようにくっついている副官たちに混じって、パーティー会場に入った。
議事堂内には、ニコライ殿下を始めとする王族の個室も用意されているが、ソフィア殿下の個室に出入りするところを、ニコライ派の者にみられたら、言い訳がきかない。
なるべく、人目につかないような場所で会うことが望ましかった。
ニコライは、俺との会話では、パーティーは苦手だなどといっているが、会場に入るや否や、有力者である公爵家や、王族たちの談笑の輪のなかに入りこみ、にこやかな顔で、相手の肩をポンポン叩いたりしながら、盛んにしゃべっている。
見た目は、本当に生まれついてのお調子者、という感じだ。が、その顔の裏には、恐ろしいほど冷酷な魂が隠れている。
会場の入り口で、歓声があがった。ソフィアとセルゲイが、ほぼ同時に入ってきたのだ。
これで、会場内に、次期国王になる権利を持つ王位継承権保持者が、全員そろったことになる。
三人それぞれの派閥の者が、徐々にグループをつくり始めた。
俺は、ニコライ派の者たちと、しばらく談笑してから、大けがを負ったせいで、酒に弱くなったと言い訳をして、会場の隅に引っ込み、氷と水で薄めに薄めた、この世界の発酵酒を、ちびちびと飲んでいた。
すると、会場内で動きまわって、酒や料理を運んでいた給仕のひとりが、俺のそばに来て、囁いた。
「お疲れでしょうか? 休憩されますか?」
「ああ。けがをしてから、疲れやすくてな」
「――こちらへ」
給仕は、会場の外の広い廊下に面している小部屋の一室に、俺を案内した。
部屋に入ると、口を真一文字にむすび、手を固く握りあわせたエミリー嬢が、待っていた。
エミリー嬢は無言で俺の手をつかむと、さらに奥の部屋へと、俺を案内した。
予想通り、そこには、アレク(俺)の姉である、ソフィアが待っていた。
俺は、眼を見開いた。
ソフィアの隣に、あのビクトルが、ひっそりと立っている。
エミリー嬢は、ソフィアとビクトルに、頭を下げながら告げた。
「――お連れしました」
ソフィアは、険しい眼で、俺をみている。
思っていた通り、俺に対する見方を変えてはいないようだ。
俺は、口を開いた。
「姉上、お招き、ありがとうございます」
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