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6.  アレクとなった俺、伯爵令嬢に会う

―― エミリー嬢と俺 16 ――

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 俺は、不思議に思い、たずねた。
「ビクトル公爵、あなたが死んだふりをしているのは、なぜなんです?」
 ビクトル公爵は、死んだモノとみなされ、葬式が行われ、ここの墓地に墓も作られている。生きていると名のリでないのは、なぜなのか? 

「死んだふりをしていれば、命を狙われることなく、動ける。……激しい王位継承権争いのせいで、何度も命を狙われているのだ。私は、安心して動ける状態を、作りたかったのだ」

 俺の隣にいたアリアが、急にせき込んだ。イリアが、落ち着かせようと、アリアの肩に手を置く。
 アリアは、手で口をぬぐい、青ざめた顔で問うた。
「率直に訊きます。――アレク殿下を傷つけて死なせたのは、あなたですか?」

 俺は、ハッとした。――そうか、アレクを殺す一番強い動機があるのは、このひとだ。自分を殺そうとした人間を、仕返しで殺すのは、この世界では、当たり前のことだ。死んだことになっているのだから、疑われることもない。前世の世界でいえば、完全犯罪だ。

「疑われてもしかたないが、私ではない。――アレクセイが、ニコライの指示で、密かに邪魔な人間を殺していたのは、知っている。だが、アレクセイを殺しても、ニコライは、替わりの人間をみつけ、同じことをやるだけだ……。それならば、あやつを生かしたまま、見張っていたほうがよい。――私も、あやつが殺されたとき、驚いたのだ」

 アリアが、しゃがれた声で念を押した。
「本当に、殺してないのですね?」
「本当だ。……信じる信じないは、お主らの勝手だがな」
 ビクトル公爵は、口をゆがめ、俺たちを嘲笑する一歩手前で踏みとどまったような、微妙な表情をしている。
「俺は、正直、わからない。でも、あなたは、エミリー嬢を本気で心配していた。命を、軽く考えるひとではない、とは思う」
 ビクトル公爵は、苦笑いした。
「やはり、君は、アレクセイではないな。話せば話すほど、あやつとの違いがはっきりする」

 アリアとイリアが溜め息をつき、緊張を解いた。
「……秘密を守ってもらえるということでしたね。わたしたちも、あなたのことを口外しません。互いに協力できることは、協力しましょう」

 ビクトル公爵は、首をかしげた。
「君たちは、ニコライ派ではないのか?」
「必ずしも、そうではありません。コウヘイは――アレク殿下の身体に入っている者の名ですが――ニコライ殿下の冷酷さとは、相容れません。いつまでも、殿下の下にいることは、できないでしょう」

 ビクトル公爵は、アリアの言葉を聞いて、俺の顔をのぞきこんだ。
 俺は、黙ったまま、公爵の視線に耐えた。

 アリアは、俺の内心を見透かしていた。俺は、どうにも、ニコライ殿下のやり方には、ついていけなかった、このまま、ニコライに従っていると、どこかで、人殺しになり、人を人とは思わないようになり、平気で己の利益のために、弱い立場の人間を害するようになるかもしれない。
 そんな人間には、なりたくなかった。

 ビクトル公爵は、うなずいた。
「わかった。――これからの事を話し合おう」

 それから、俺たちは、ビクトル公爵と別の場所で会うことを決め、墓地から引きあげた。

 しばらくして、アリアたちから、エミリー嬢が回復したこと、もう一度会って話がしたいといっていることを、聞いた。
 ニコライに怪しまれてはいけない。エミリー嬢と会うのも、ビクトル公爵と話すのも、絶対にバレてはいけない。俺は、慎重に行動しなければならなかった。

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