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6.  アレクとなった俺、伯爵令嬢に会う

―― エミリー嬢と俺 13 ――

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 俺は、彼女を助けること以外、何も考えられなくなっていた。この世界は、前世の世界に比べて、あまりにも、死が多すぎる。
 魔法という便利このうえないものがあるのに、それらは恣意的に使われ、魔力のない者や、身分の低い者は、すぐに命を奪われてしまう。敵対する者に死を与えるのは、当たり前のことで、誰も後悔したりしない。

 俺の身体は、魔力の放出によって熱くなったが、どうしようもなく理不尽な、この世界への怒りが、さらに身体を熱くさせた。
 俺は、怒りながら、泣きながら、魔力をそそぎ続けた。

 気がつくと、誰かが、俺の肩に手をかけていた。
  暗殺者のビルが、奇妙なモノをみているような表情で、俺に声をかけた。
「君は、解毒魔法が使えるのか?」
 俺は、首を振った。
「まさか。使えたら良かったが……」
 アリアとイリアが、驚いた顔で、俺をみている。
「使えているぞ。……エミリー様をみてみろ」
 ビルが、俺の肩に置いた手に力を入れて、肩をつかんでゆすった。

 俺は、血のついた腹部から目をはなし、エミリー嬢の顔をみた。
 顔に血色が戻り、呼吸も、おだやかに、ゆっくりと一定のリズムで行うようになっている。

「彼女は、助かるのか……?」
 魔力をそそぎながら、俺は、恐る恐る訊いた。
「ああ、助かる」
 そういいながら、ビルは、アリアたちの方をみた。
 驚いた顔で、エミリー嬢の手を握っていたイリアが、
「……うん、うん、助かるぞ!」
 強くうなずいた。少し涙ぐんでいる。
「ああ、助かるぞ! お主の力のおかげじゃ!」
 アリアも、大声をあげ、何度もうなずいている。
 さらに、続けていう。
「驚いたの、お主の属性は〝光〟と思っておったが……。〝聖〟の属性も持っておったのじゃの!」

 俺は、魔力をそそぐのをやめ、立ち上がった。身体がふらふらする。どれだけ、魔力をそそぎこめばよいか、わからなかったので、これ以上そそぎこみようがない、魔力が枯渇する寸前までそそぎこんだのだ。
 魔力が完全に無くなると、この世界での人間は、意識を失くしてしまう。まわりに誰も居なければ、助けてもらえず、そのまま死んでしまうこともありうる。魔法の使い始めの頃、そのことがよくわからず、気絶するまで魔法を使い、アリアたちによく怒られたものだった。 

「姫さま! 姫さま!」
 気がついた侍女が、跳ねるように飛び起き、エミリー嬢に、すがりついた。
 エミリー嬢がゆっくりと呼吸し、血色も良いことに気づくと、安心したのか、大きく息をついた。
 侍女は、きっとした眼差しで、こちらをにらみ、問いただした。
「姫さまに、何をしたのですか?」
「何もしていないぞ……」
 俺は、言いかけたが、目まいがして、ふらついた。一歩踏み出した足に力が入らず、膝をついた。

「アレク殿は、怪我を負われたエミリー様を、そこの二人とともに助けたのだ。――何か含むところがあるかもしれぬが、まず感謝の言葉を述べるのが筋ではないか?」
 暗殺者のビルが、俺を立ち上がらせようとしながら、いった。

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