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5.  アレクとなった俺、暗殺者に会う

―― 父と兄の秘密 ――

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 エミリーのあわただしい退出を、唖然としてみていたグレイ伯とダニエルは、顔を見あわせ、深々と溜め息をついた。

「エミリーに、グスタフが生きていることを言わなくてよいのですか?」
 ダニエルが今日、ここへ来たのは、グスタフの従者のマリンから、エルフの里を介してグスタフ生存の連絡がきたことを、父に知らせるためだった。
 ダニエルは、騎士団の副団長であり、騎士団内の探索係を束ねる立場だ。マリンも配下のひとりで、彼女のおかげで、エルフ族から、様々な助けを得られていた。
 今回も、直接手紙を届けるのは、リスクが大きすぎるため、エルフの里の協力で、里にマリンがつたえた情報を、マリンの家族のひとりが(おそらく、マリンの兄だろう)、言伝ことづてしてきたのだ。

「あれに告げれば、喜ぶだろうが、すぐに態度が変わってしまう」
 グレイ伯は、困ったやつだとつぶやき、また、溜め息をついた。
「あれに、悲しみ続けるフリをしろといっても無理だ。――観察力の鋭い者が身近にいたら、沈んでいたのが、コロッと明るくなるのだから、丸わかりだろう」

 ダニエルもしかたがないと思ったのか、それ以上は追求しなかった。
「ニコライ派に潜りこませている者からの伝言では、ニコライ殿下は、グスタフを殺させるつもりだったようです。――アレク殿下は、命令通りには、しなかった」
 グレイ伯は、息子の言葉を黙って聞いている。眼を細くして、顔は王宮の方角に向いていた。
「――アレク殿の真意は、どこにあるのでしょう?」
 ダニエルは、問いかけた。きちんとした答えがかえってこないことを予測しているような口調だった。

「わからんな。あの冷酷な男が、何の計算もなく、ヒトを助けるとは思えん」
 グレイ伯は、何かアレク殿下の得になるような理由があるに違いないと確信していた。
「ひきつづき、アレク殿下の動向は探ってゆきます。何かわかれば、父上に伝えます。なにはともわれ、グスタフが無事でよかった……」
 グレイ伯もうなずき、厳しくなっていた表情を、わずかにゆるませた。
 
                                                    ★

「これは、ひさしぶりですね」
 ソフィア王女は、尋ねてきたエミリーに微笑みかけた。
 元々、エミリーの侍女のクリスが、ソフィア王女のいとこの公爵家で働いていたことがあり、その縁で、エミリーが社交界デビューしたときから、親しくさせてもらっていた。
 ただ、王位争いが始まってからは、王位争いとは距離を置くという伯爵家の方針で、疎遠になっていた。

 ソフィア王女の顔には、王位争いで出遅れてしまった自分たちの派閥を支援してくれるのかと、強い期待感が現れていた。
「おひさしぶりです。ソフィアさま。会いに来られず、申し訳ありませんでした。――実は、お願いがあるのです」
 エミリーは、自分が不躾な願いをしようとしていることがわかっていた。でも、グスタフ兄さまの仇を討ちたいのだ。少々の非礼など、かまっていられなかった。

「アレク殿下のことです」
「アレクセイの? どういうことなの?」
 ソフィア王女の表情が、一気に険しくなった。聞きたくない名前を聞き不快だと、あからさまに示していた。

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