35 / 74
5. アレクとなった俺、暗殺者に会う
―― 父と兄の秘密 ――
しおりを挟む
エミリーのあわただしい退出を、唖然としてみていたグレイ伯とダニエルは、顔を見あわせ、深々と溜め息をついた。
「エミリーに、グスタフが生きていることを言わなくてよいのですか?」
ダニエルが今日、ここへ来たのは、グスタフの従者のマリンから、エルフの里を介してグスタフ生存の連絡がきたことを、父に知らせるためだった。
ダニエルは、騎士団の副団長であり、騎士団内の探索係を束ねる立場だ。マリンも配下のひとりで、彼女のおかげで、エルフ族から、様々な助けを得られていた。
今回も、直接手紙を届けるのは、リスクが大きすぎるため、エルフの里の協力で、里にマリンがつたえた情報を、マリンの家族のひとりが(おそらく、マリンの兄だろう)、言伝してきたのだ。
「あれに告げれば、喜ぶだろうが、すぐに態度が変わってしまう」
グレイ伯は、困ったやつだとつぶやき、また、溜め息をついた。
「あれに、悲しみ続けるフリをしろといっても無理だ。――観察力の鋭い者が身近にいたら、沈んでいたのが、コロッと明るくなるのだから、丸わかりだろう」
ダニエルもしかたがないと思ったのか、それ以上は追求しなかった。
「ニコライ派に潜りこませている者からの伝言では、ニコライ殿下は、グスタフを殺させるつもりだったようです。――アレク殿下は、命令通りには、しなかった」
グレイ伯は、息子の言葉を黙って聞いている。眼を細くして、顔は王宮の方角に向いていた。
「――アレク殿の真意は、どこにあるのでしょう?」
ダニエルは、問いかけた。きちんとした答えがかえってこないことを予測しているような口調だった。
「わからんな。あの冷酷な男が、何の計算もなく、ヒトを助けるとは思えん」
グレイ伯は、何かアレク殿下の得になるような理由があるに違いないと確信していた。
「ひきつづき、アレク殿下の動向は探ってゆきます。何かわかれば、父上に伝えます。なにはともわれ、グスタフが無事でよかった……」
グレイ伯もうなずき、厳しくなっていた表情を、わずかにゆるませた。
★
「これは、ひさしぶりですね」
ソフィア王女は、尋ねてきたエミリーに微笑みかけた。
元々、エミリーの侍女のクリスが、ソフィア王女のいとこの公爵家で働いていたことがあり、その縁で、エミリーが社交界デビューしたときから、親しくさせてもらっていた。
ただ、王位争いが始まってからは、王位争いとは距離を置くという伯爵家の方針で、疎遠になっていた。
ソフィア王女の顔には、王位争いで出遅れてしまった自分たちの派閥を支援してくれるのかと、強い期待感が現れていた。
「おひさしぶりです。ソフィアさま。会いに来られず、申し訳ありませんでした。――実は、お願いがあるのです」
エミリーは、自分が不躾な願いをしようとしていることがわかっていた。でも、グスタフ兄さまの仇を討ちたいのだ。少々の非礼など、かまっていられなかった。
「アレク殿下のことです」
「アレクセイの? どういうことなの?」
ソフィア王女の表情が、一気に険しくなった。聞きたくない名前を聞き不快だと、あからさまに示していた。
「エミリーに、グスタフが生きていることを言わなくてよいのですか?」
ダニエルが今日、ここへ来たのは、グスタフの従者のマリンから、エルフの里を介してグスタフ生存の連絡がきたことを、父に知らせるためだった。
ダニエルは、騎士団の副団長であり、騎士団内の探索係を束ねる立場だ。マリンも配下のひとりで、彼女のおかげで、エルフ族から、様々な助けを得られていた。
今回も、直接手紙を届けるのは、リスクが大きすぎるため、エルフの里の協力で、里にマリンがつたえた情報を、マリンの家族のひとりが(おそらく、マリンの兄だろう)、言伝してきたのだ。
「あれに告げれば、喜ぶだろうが、すぐに態度が変わってしまう」
グレイ伯は、困ったやつだとつぶやき、また、溜め息をついた。
「あれに、悲しみ続けるフリをしろといっても無理だ。――観察力の鋭い者が身近にいたら、沈んでいたのが、コロッと明るくなるのだから、丸わかりだろう」
ダニエルもしかたがないと思ったのか、それ以上は追求しなかった。
「ニコライ派に潜りこませている者からの伝言では、ニコライ殿下は、グスタフを殺させるつもりだったようです。――アレク殿下は、命令通りには、しなかった」
グレイ伯は、息子の言葉を黙って聞いている。眼を細くして、顔は王宮の方角に向いていた。
「――アレク殿の真意は、どこにあるのでしょう?」
ダニエルは、問いかけた。きちんとした答えがかえってこないことを予測しているような口調だった。
「わからんな。あの冷酷な男が、何の計算もなく、ヒトを助けるとは思えん」
グレイ伯は、何かアレク殿下の得になるような理由があるに違いないと確信していた。
「ひきつづき、アレク殿下の動向は探ってゆきます。何かわかれば、父上に伝えます。なにはともわれ、グスタフが無事でよかった……」
グレイ伯もうなずき、厳しくなっていた表情を、わずかにゆるませた。
★
「これは、ひさしぶりですね」
ソフィア王女は、尋ねてきたエミリーに微笑みかけた。
元々、エミリーの侍女のクリスが、ソフィア王女のいとこの公爵家で働いていたことがあり、その縁で、エミリーが社交界デビューしたときから、親しくさせてもらっていた。
ただ、王位争いが始まってからは、王位争いとは距離を置くという伯爵家の方針で、疎遠になっていた。
ソフィア王女の顔には、王位争いで出遅れてしまった自分たちの派閥を支援してくれるのかと、強い期待感が現れていた。
「おひさしぶりです。ソフィアさま。会いに来られず、申し訳ありませんでした。――実は、お願いがあるのです」
エミリーは、自分が不躾な願いをしようとしていることがわかっていた。でも、グスタフ兄さまの仇を討ちたいのだ。少々の非礼など、かまっていられなかった。
「アレク殿下のことです」
「アレクセイの? どういうことなの?」
ソフィア王女の表情が、一気に険しくなった。聞きたくない名前を聞き不快だと、あからさまに示していた。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
断罪の暗殺者~なんか知らんが犯罪ギルドのトップになってた~
流優
ファンタジー
どうやら俺は、異世界に転生したらしい。――ゲームで作った、犯罪ギルドのギルドマスターとして。
マズい、どうしてこうなった。自我を獲得したらしいギルドのNPC達は割と普通に犯罪者思考だし、俺も技能として『暗殺』しか出来ねぇ!
そうしてゲームで作ったキャラ――暗殺者として転生を果たしたギルドマスター『ユウ』は、物騒な性格のNPC達のトップとして裏社会に名を轟かせ、やがては世界へと影響を及ぼしてゆく――。
対象年齢は少し高めかもしれません。ご注意を。
おばあちゃんが孫とVRmmoをしてみた
もらわれっこ
ファンタジー
孫にせがまれて親の代わりに一緒にログイン、のんびりしてます
初めてなのでのんびり書きます
1話1話短いです
お気に入り 4 百人突破!ありがとうございます
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
あいつに無理矢理連れてこられた異世界生活
mio
ファンタジー
なんやかんや、無理矢理あいつに異世界へと連れていかれました。
こうなったら仕方ない。とにかく、平和に楽しく暮らしていこう。
なぜ、少女は異世界へと連れてこられたのか。
自分の中に眠る力とは何なのか。
その答えを知った時少女は、ある決断をする。
長い間更新をさぼってしまってすいませんでした!
【完結】おじいちゃんは元勇者
三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話…
親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。
エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…
モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい(完結)
優摘
ファンタジー
※プロローグ以降の各話に題名をつけて、加筆、減筆、修正をしています。(’23.9.11)
<内容紹介>
ある日目覚めた「私」は、自分が乙女ゲームの意地悪で傲慢な悪役令嬢アリアナになっている事に気付いて愕然とする。
しかもアリアナは第一部のモブ系悪役令嬢!。悪役なのに魔力がゼロの最弱キャラだ。
このままではゲームの第一部で婚約者のディーンに断罪され、学園卒業後にロリコン親父と結婚させられてしまう!
「私」はロリコン回避の為にヒロインや婚約者、乙女ゲームの他の攻略対象と関わらないようにするが、なぜかうまく行かない。
しかもこの乙女ゲームは、未知の第3部まであり、先が読めない事ばかり。
意地悪で傲慢な悪役令嬢から、お人よしで要領の悪い公爵令嬢になったアリアナは、頭脳だけを武器にロリコンから逃げる為に奮闘する。
だけど、アリアナの身体の中にはゲームの知識を持つ「私」以外に本物の「アリアナ」が存在するみたい。
さらに自分と同じ世界の前世を持つ、登場人物も現れる。
しかも超がつく鈍感な「私」は周りからのラブに全く気付かない。
そして「私」とその登場人物がゲーム通りの動きをしないせいか、どんどんストーリーが変化していって・・・。
一年以上かかりましたがようやく完結しました。
また番外編を書きたいと思ってます。
カクヨムさんで加筆修正したものを、少しずつアップしています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる