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3. アレクとなった俺、陰謀に巻きこまれる
―― 殿下の陰謀 3 ――
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俺が疲れた身体を引きずって、なんとかアレクの屋敷を探し当てると、屋敷のなかで、アリアとイリアが待っていてくれた。
「遅かったの。――寝室には、希望通り背の低い寝台を据え付けたぞ」
アリアに連れられて、一階と二階の各部屋を見てまわる。
一応、玄関から階段、廊下は掃除してくれていたらしい。アリアが執務室と呼んでいた仕事部屋は、床はきれいに拭かれていたが、机や作業台らしき細長いテーブルの上は、書類や魔道具らしきものがごちゃごちゃと置かれており、ホコリにまみれていた。
あるじが、一か月以上もかえっていなかったのだから、しかたがない。
召使たちにも、この部屋には勝手に入るなと言い含めていたらしい。
寝室には、説明通り、背の低い寝台が置かれていた。台の下側に隙間がなく、ぴったりと床に全面がくっついていた。この高さなら、寝床から落ちても、大丈夫だろう。少なくとも、頭から垂直に落ちないかぎりは。
元の世界で何度、ベッドから落ちたかわからない。人より寝返りが激しいせいで、寝る向きが逆になっていたことなど、ざらにあった。元の世界の部屋は畳だったから、落ちても打ち身になるだけだった。が、この世界みたいに硬い床だと致命傷になりかねない。
「これ以上低い寝台はなかったからの。不満かもしれんが、我慢してくれ」
アリアは、寝具のたぐいはすべて浄化魔法で、きれいにしてあるといって、ふとんをめくってみせた。
「食事は、朝は使い魔に運ばせる。昼と夜は、どうせ、屋敷にはおるまい。宮殿か王族専用のサロンでとればよい」
「実は、相談がある」
俺は、ニコライ殿下の依頼について、話した。
人ひとりを消せという依頼だ。
アレクはこんな依頼を頻繁に受けていたのだろうか? 俺は、さすがに人殺しはできない。生まれてからこの年まで、人の命は大切だと、ずっと教えられて育ってきたのだ。人を殺せるわけがない。
「病み上がりじゃし、しばらくその種の依頼は来ないと思っていたのじゃが。議会が近いし、しかたがないかの」
アリアは、頭をかかえた。コウヘイが人を殺せぬ世界からやってきたことは、わかっていた。
さて、どうしたものか……。
考えがなかったわけではない。いずれ、この種の依頼がコウヘイ(アレク)のもとに来ることは、予想できていた。
が、これほど、すぐにとは……。
俺は、椅子を二脚、引いてきた。
アリアは、眉を寄せた難しい表情をして、腕組みしながら椅子のひとつにすわった。部屋にちょうど入ってきたイリアにも、椅子を勧める。
俺自身は、テーブルに腰かけ、足をぶらぶらさせた。いろいろ迷っているときに、公園のベンチにすわり、いつも足を揺らしていた。まあ、足が短いからできることだが。
「グレイ伯様の息子には、姿を隠してもらわねばならぬな」
アリアは、しぼりだすような声でいった。
「死んだフリをさせるのじゃな?」
イリアが問いかける。
アリアが、うなずく。
「それしか、ないじゃろう……」
俺も、アリアに確かめた。
「俺が殺したように装って、グスタフ殿には、身を隠してもらうってことだな?」
「そのとおりじゃ。グスタフ殿を、説得できればの」
「遅かったの。――寝室には、希望通り背の低い寝台を据え付けたぞ」
アリアに連れられて、一階と二階の各部屋を見てまわる。
一応、玄関から階段、廊下は掃除してくれていたらしい。アリアが執務室と呼んでいた仕事部屋は、床はきれいに拭かれていたが、机や作業台らしき細長いテーブルの上は、書類や魔道具らしきものがごちゃごちゃと置かれており、ホコリにまみれていた。
あるじが、一か月以上もかえっていなかったのだから、しかたがない。
召使たちにも、この部屋には勝手に入るなと言い含めていたらしい。
寝室には、説明通り、背の低い寝台が置かれていた。台の下側に隙間がなく、ぴったりと床に全面がくっついていた。この高さなら、寝床から落ちても、大丈夫だろう。少なくとも、頭から垂直に落ちないかぎりは。
元の世界で何度、ベッドから落ちたかわからない。人より寝返りが激しいせいで、寝る向きが逆になっていたことなど、ざらにあった。元の世界の部屋は畳だったから、落ちても打ち身になるだけだった。が、この世界みたいに硬い床だと致命傷になりかねない。
「これ以上低い寝台はなかったからの。不満かもしれんが、我慢してくれ」
アリアは、寝具のたぐいはすべて浄化魔法で、きれいにしてあるといって、ふとんをめくってみせた。
「食事は、朝は使い魔に運ばせる。昼と夜は、どうせ、屋敷にはおるまい。宮殿か王族専用のサロンでとればよい」
「実は、相談がある」
俺は、ニコライ殿下の依頼について、話した。
人ひとりを消せという依頼だ。
アレクはこんな依頼を頻繁に受けていたのだろうか? 俺は、さすがに人殺しはできない。生まれてからこの年まで、人の命は大切だと、ずっと教えられて育ってきたのだ。人を殺せるわけがない。
「病み上がりじゃし、しばらくその種の依頼は来ないと思っていたのじゃが。議会が近いし、しかたがないかの」
アリアは、頭をかかえた。コウヘイが人を殺せぬ世界からやってきたことは、わかっていた。
さて、どうしたものか……。
考えがなかったわけではない。いずれ、この種の依頼がコウヘイ(アレク)のもとに来ることは、予想できていた。
が、これほど、すぐにとは……。
俺は、椅子を二脚、引いてきた。
アリアは、眉を寄せた難しい表情をして、腕組みしながら椅子のひとつにすわった。部屋にちょうど入ってきたイリアにも、椅子を勧める。
俺自身は、テーブルに腰かけ、足をぶらぶらさせた。いろいろ迷っているときに、公園のベンチにすわり、いつも足を揺らしていた。まあ、足が短いからできることだが。
「グレイ伯様の息子には、姿を隠してもらわねばならぬな」
アリアは、しぼりだすような声でいった。
「死んだフリをさせるのじゃな?」
イリアが問いかける。
アリアが、うなずく。
「それしか、ないじゃろう……」
俺も、アリアに確かめた。
「俺が殺したように装って、グスタフ殿には、身を隠してもらうってことだな?」
「そのとおりじゃ。グスタフ殿を、説得できればの」
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