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2.  アレクとなった俺、人前に出る

―― 怪しい兄弟たち 2 ――

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「身体を大事に、とは、本当かな」
 細面で日に焼けた肌。にこやかに笑いながら眼差しだけは鋭い男が、話しかけてきた。たれぎみの眼と、あごから口にかけて生じている何本ものしわが、年齢のわりに苦労の絶えないことを示している。
 また、肖像画を思い浮かべた。
 第二王子、ニコライ。アレクが所属している派閥の長で、王位継承権争いで最有力と目される男だった。
 
「よく戻った。――一時は、本当に死んだと思ったぞ」
 銀製のコップいっぱいに満たされたこの世界の酒を、ぐいっとあおり、俺の肩を何度もたたく。
 王位継承権で対立しているが、日常の仕草は同じだな。やっぱり、兄弟だ、うん。
 そんな納得をしていると、ぐっと顔を近づけてきた。
「あとで、話がある。――私の部屋へ寄ってくれ」
 小声でいい、王女たちと談笑している国王のほうへ、去ってしまった。
 会話している集団に、すっと入り込んで、何か盛んにしゃべっている。元の世界だと、いわゆるコミュ力がある、というやつだ。
 俺が、苦手にしているタイプだった。ひとりで、ゲームばかりやっていた俺には真似できないし、常に言葉に裏があるようで、安心できない。
 ニコライに対しては、アレクの身代わりであることがバレぬよう、細心の注意が必要な気がする。
 俺は、ニコライを警戒する人物の筆頭にすえた。

「悪人ほど、殺しても死なないっていうけど、ほんとね」
 王女のひとりが、俺のそばに来た。少し赤みがかった金髪で、腰まで届くウェーブのかかった髪が、かすかに室内に吹いている風に反応し、ゆれている。
「悪人?」
 俺は、またもや、肖像画を思い浮かべる。
 正直、王女たちの肖像画は、互いによく似ていて、細かい特徴をつかむのに苦労した。
 この女は、第一王女のソフィアだろう。瞳の色が薄茶色で、あごがとても細く、とんがっているといってもいいくらいだ。
 声は柔らかいが、兄弟にたいしてとは思えないぐらい、敵意のこもった眼で俺をみている。病み上がりの弟に、何て冷たいんだ。

「魔物狩りでは、うまく逃げたものね」
「あのときは、しかたなかったのです。姉上」
「あなたから、姉とは呼ばれたくないわね。ビクトル兄さまは、最後まで逃げなかったのに」
 敵意というより、憎悪のこもった声。ビクトルというのは、彼女のいとこの事だ。アレクと一緒に魔物討伐におもむき、ビクトルだけ命を落とし、アレクは生き残った。

 アリアたちから、この事件については、聞いていた。
 ビクトルの亡くなったとき、その場にはアレクしかおらず、ビクトルを囮に逃げたのではないかと、疑いの目でみられていると話していた。
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