上 下
1 / 5

第一話「ろろろろ、ロボじゃないですからっ!」

しおりを挟む
「あのさ、あのさ。話したことないのに唐突で悪いんだけど、愛朔あいさくさんって……ロボットだよね?」

 昼休み。とある事情で廊下の壁際にしゃがみ込んでいた私にクラスメイトの姫崎ひめさきという人物が声をかけてきました。

 はたして入学したばかりの高校一年生、女子同士が初めて交わす言葉なのでしょうか。疑問が残りますが、私がまず思ったのはこれです。

 ――なんでバレたのでしょうか!?

 完全に女子高生として立ち振る舞いをしていたというのに、姫崎さんはあっさりと私がロボットであることを見抜きましたよ!?

 入学して一週間、ロボットであることはバレないようにと開発者であるジジイ……いえ、博士から常日頃言われている私ですが、もう失敗なのでしょうか?

 いやいや、待ってください。もしかしたらこの姫崎さんは冗談で私をロボットなどと言っているのかも知れません。

 落ち着いて、焦らず冷静に対応しましょう。

「は、ははは、わ、わわ、私が……えーっと? な、何ですって? ちょっとよく聞き取れませんでしたよ」
「だからー、愛朔さんって実はロボットなんじゃないのって」
「ろ、ろ、ロボットなわけないでしょ! あはは、ははは……ひ、姫崎さんは、お、面白いことを言いますね!」

 区役所の窓口を思わせる冷静さ、そして機械的な対応。

 ……いえ、ロボットとバレてはいけないのですから機械的という表現はよろしくないですね。

 まぁ、とりあえず私自身が否定すれば納得してくれるはず。

 ――と、思ったのですが、しゃがんでいる私に中腰で目線を合わせてくる姫崎さんは訝しげな表情。

「ほんとかなぁ? 私、色々と愛朔さんがロボットなんじゃないかって証拠掴んで話しかけてるんだけど……それでも否定する?」
「否定します。掴まれるような証拠なんて私は残してませんから」
「あ! その言い方、やっぱりロボットじゃん! 本来なら『ロボットじゃないから証拠なんてそもそもない』って言う場面なのに!」
「――っ! は、謀りましたね! 私はまんまとあなたの仕掛けた罠に落ちたというわけですか」
「自分で掘った墓穴を落とし穴って言わないでよ……」

 私が繰り出す理路整然とした語りに圧倒されたのか、姫崎さんは引き気味な表情を浮かべました。

 しかし、この人は私がロボットだと証明して何がしたいのか……?

 よく分かりませんが、彼女が掴んでいるという証拠が何なのかは確認しておくべきでしょう。

「とりあえず、姫崎さんにチャンスをあげます。私がロボットだと言うならば証明してみせて下さい。その証拠とやらで」

 私はしたり顔を浮かべて姫崎さんの回答を待ちます。

 そもそも私は超ヤバい博士によって作られた超高性能AIを搭載した自立起動型の超ロボットでして。超技術のおかげで人間に見紛うほどの肌や柔軟な間接駆動が再現されており、外見でロボットだと見抜くのは超困難な超最先端技術の集大成なのです。

 さて、姫崎さんはどう私をロボットだと見抜いてくるのか!

「愛朔さんちって確かロボット研究所でしょ。小学校、中学と愛朔なんて苗字の子いなかったのに、突然高校に上がって現れるなんてロボットだよ。きっと」
「何で私の実家が何を営んでいるか把握してるんですか! 姫崎さんはクラスに秒の速さで溶け込んだ陽キャ――失礼、中心人物なのですから私のような末端的生徒のことなど知る必要ないでしょうに!」
「いや、クラスの中心人物だからこそみんなのことを知ってるんだよ。私のコミュ力は『一手で駒を二個打ってくる将棋』って言われてるからね。仲良くなるためのリサーチは欠かさないよ」
「そうですか。あなたのことは『飛車角同時打ちの女』として私の記憶に深く刻んでおきます……」

 とりあえず相手の握っていたカードはなかなかでしたが、恐れるほどのものではなかったと言えるでしょう。

「しかし、私の家がロボット研究所だからそこの娘がロボット、というのは発想が飛躍しすぎていませんか?」
「あ、ネジ落ちてる。誰のだろう」
「え、えぇ! どこですか!? 今日、博士にきちんと閉めてもらったはずなのになぁ……」
「やっぱりロボットじゃん」
「え? ……あ、ネジなんてどこにも落ちてない! またもや謀りましたね!」

 足元を慌てて探し回る私を見てお腹を抱えて笑う姫崎さん。

 どうやら発する言葉一つ一つを的確に言い返されて笑うしかなくなっているようです。。

 とはいえ、先ほどのフェイントはなかなかのもの。ネジが落ちていたらまず言うべきは「どこのだろう」でしたね。

「とりあえず、私はロボットではありません。確かに実家はそういったものを研究していますが、それと私個人は無関係です」
「そっかぁ。流石に実家がロボット研究所ってだけじゃ弱いかぁ~。でもね、愛朔さんをロボットだと断定する証拠はまだ色々とあるからね!」
「ポケットから何を取り出したのですか! 薄い板のようなもの……?」
「あれ、もしかして愛朔さんってスマホ持ってないの?」

 スマホ、という単語を聞いて私は今が分からず口を噤んでしまいます。

 どういう意味でしたでしょうか……?

 私は搭載されているネット検索機能を使用して言葉の意味を探ります。人間でいうところの脳内でする感覚でグー○ルの検索窓を表示し、検索を開始。

「あ、それがスマートフォンなのですね。博士が要るか聞いてきましたが、ネット検索は自前で出来てしまうので不要かと思い欲しがりませんでした」
「やっぱりロボットじゃん。博士とか言ってるし!」
「ち、違いますから! 私は断じてロボットなどではありません!」

 私の言葉の端々に片っ端から噛みついて論破しようとしてくる姫崎さん。努力も虚しく敗北感が行き過ぎたのか笑い出します。

「さっきからボロ出しまくりだよ~。あ、そういえばボロって逆から呼んだらロボだよね」
「むむ! またしても謀りましたね!」
「いや、これは流石に謀ってないよ……くだらない冗談未満のものだって」
「そうですか。ですが、そのスマートフォンで何をしようと言うのですか!」
「メモ帳に愛朔さんのロボ疑惑を裏付ける証拠を残しててね。他に何があったかなぁと思って」
「くぅ……いいでしょう! 受けて立ちます、何でも言ってみて下さい!」

 ――と、私が姫崎さんを指差し堂々と語った時、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響きました。

「あらら、残念。愛朔さんをロボットだと証明するのはまたの機会だね」
「また機械って言いましたね。ですから、私はロボではありません」
「流石に過敏だって。ほら、教室戻ろっか」

 姫崎さんは手を引いて廊下の壁に背を預けしゃがんでいた私を立ち上がらせて教室へ一緒に戻ろうとします。

 ――あ、マズい!

 私がそう思った時にはすでに遅く、プンッという音が響きます。そして、立ち上がった私の状態を見て姫崎さんは絶句――の後、すぐさま持っていたスマートフォンで写真撮影。

「こ、こら! 何を撮っているんですか!」
「いや……それが愛朔さんの昼食だったんだなぁって。やっぱりロボットじゃん」
「いや、これは……その」

 いくらでも論破のしようがありましたが、この時私は姫崎さんへのハンデという気持ちもあったのか何も言いませんでした。

 私の足の間、ゆらゆらと揺れているのは廊下の壁にあるコンセントと接続されていたプラグ。それは人間でいう尾てい骨あたりから伸びて、掃除機のコードのように収納機能をもった私の充電手段。

 そう――お昼休みということで私は昼食のため盗電していたのです。

 まぁ、こんなピンチでも冷静に対応して、姫崎さんの印象を操作していきましょう。

「ろ、ろ、ろろろろ、ロボじゃないですからっ! ほ、本当ですからねっ! いいですか、他の人にこのことはどうか――どうか内密にっ!」

 姫崎さんの肩を掴んで揺らし、威圧的に攻めていく私。
 一方で姫崎さんは「どうしよっかなー」と楽しげに笑んでいます。

 そしてしゅるしゅるとスカートの中に戻っていくプラグ。

 まぁ、大した障害ではないと思います。
 しかし、万が一のことがありますから気をつけないと。

 私は高校三年間、ロボットであることを隠して生活しなければならず、発覚したら――廃棄処分されてしまうのですから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

エロゲソムリエの女子高生~私がエロゲ批評宇宙だ~

新浜 星路
キャラ文芸
エロゲ大好き少女佐倉かなたの学園生活と日常。 佐倉 かなた 長女の影響でエロゲを始める。 エロゲ好き、欝げー、ナキゲーが好き。エロゲ通。年間60本を超えるエロゲーをプレイする。 口癖は三次元は惨事。エロゲスレにもいる、ドM 美少女大好き、メガネは地雷といつも口にする、緑髪もやばい、マブラヴ、天いな 橋本 紗耶香 ツンデレ。サヤボウという相性がつく、すぐ手がでてくる。 橋本 遥 ど天然。シャイ ピュアピュア 高円寺希望 お嬢様 クール 桑畑 英梨 好奇心旺盛、快活、すっとんきょう。口癖は「それ興味あるなぁー」フランク 高校生の小説家、素っ頓狂でたまにかなたからエロゲを借りてそれをもとに作品をかいてしまう、天才 佐倉 ひより かなたの妹。しっかりもの。彼氏ができそうになるもお姉ちゃんが心配だからできないと断る。

グリモワールと文芸部

夢草 蝶
キャラ文芸
 八瀬ひまわりは文芸部に所属する少女。  ある日、部室を掃除していると見たことのない本を見つける。  本のタイトルは『グリモワール』。  何気なくその本を開いてみると、大きな陣が浮かび上がって……。

君と歩いた、ぼくらの怪談 ~新谷坂町の怪異譚~

Tempp
キャラ文芸
東矢一人(とうやひとり)は高校一年の春、新谷坂山の怪異の封印を解いてしまう。その結果たくさんの怪異が神津市全域にあふれた。東矢一人が生存するにはこれらの怪異から生き残り、3年以内に全ての怪異を再封印する必要がある。 これは東矢一人と5人の奇妙な友人、それからたくさんの怪異の3年間の話。 ランダムなタイミングで更新予定です

午後の紅茶にくちづけを

TomonorI
キャラ文芸
"…こんな気持ち、間違ってるって分かってる…。…それでもね、私…あなたの事が好きみたい" 政界の重鎮や大御所芸能人、世界をまたにかける大手企業など各界トップクラスの娘が通う超お嬢様学校──聖白百合女学院。 そこには選ばれた生徒しか入部すら認められない秘密の部活が存在する。 昼休みや放課後、お気に入りの紅茶とお菓子を持ち寄り選ばれし7人の少女がガールズトークに花を咲かせることを目的とする──午後の紅茶部。 いつも通りガールズトークの前に紅茶とお菓子の用意をしている時、一人の少女が突然あるゲームを持ちかける。 『今年中に、自分の好きな人に想いを伝えて結ばれること』 恋愛の"れ"の字も知らない花も恥じらう少女達は遊び半分でのっかるも、徐々に真剣に本気の恋愛に取り組んでいく。 女子高生7人(+男子7人)による百合小説、になる予定。 極力全年齢対象を目標に頑張っていきたいけど、もしかしたら…もしかしたら…。 紅茶も恋愛もストレートでなくても美味しいものよ。

225日のコウフク論

青山惟月
キャラ文芸
宇宙人に人類が降伏させられた近未来。 宇宙人が町中を歩くことはごく当たり前の日常。 ヒロイン、逢瀬 真都(おうせ まこと)は大の男嫌いな女子高生。幼い頃から男性に触れられただけで呼吸が苦しくなる症状を抱えていた。 そんな彼女の元に、小さい頃自宅でホームステイをしていた女の子が現れる。 しかし、彼女には絶対にバレてはいけない秘密があった。 このお話には百合要素を含みます。苦手な方はご注意ください。

平凡な僕の家に可愛いメイドさんが来ました

けろよん
キャラ文芸
平凡な僕の家に可愛い知らない女の子がやってきた。彼女はメアリと名乗りメイドとして働きに来たと言う。 僕は戸惑いながらも彼女に家の事を教える事にした。

求不得苦 -ぐふとくく-

こあら
キャラ文芸
看護師として働く主人公は小さな頃から幽霊の姿が見える体質 毎日懸命に仕事をする中、ある意識不明の少女と出会い不思議なビジョンを見る 少女が見せるビジョンを読み取り解読していく 少女の伝えたい想いとは…

秘密兵器猫壱号

津嶋朋靖(つしまともやす)
キャラ文芸
日本国内のとある研究施設で動物を知性化する研究が行われていた。 その研究施設で生み出された知性化猫のリアルは、他の知性化動物たちとともに政府の対テロ組織に入れられる。 そこでは南氷洋での捕鯨活動を妨害している環境テロリストをつぶす計画が進行中だった。リアル達もその計画に組み込まれたのだ。  計画は成功して環境テロリストたちはほとんど逮捕されるのだが、逮捕を免れたメンバーたちによって『日本政府は動物に非人道的な改造手術をして兵器として使用している』とネットに流された  世界中からの非難を恐れた政府は証拠隠滅のためにリアル達、知性化動物の処分を命令するのだが…… その前にリアルはトロンとサムと一緒に逃げ出す。しかし、リアルは途中仲間とはぐれてしまう。 仲間とはぐれたリアル町の中で行き倒れになっていたところを、女子中学生、美樹本瑠璃華に拾われる。そして…… 注:途中で一人称と三人称が入れ替わるところがあります。 三人称のところでは冒頭に(三人称)と入ります。 一人称で進むところは、リアルの場合(リアル視点)瑠璃華の一人称部分では(瑠璃華視点)と表記してます。 なお、大半の部分は瑠璃華視点になっています。

処理中です...