フラワーガールズ 『さよならを言う前に』

安田 景壹

文字の大きさ
上 下
6 / 11

『さよならを言う前に』5

しおりを挟む
 いつものように、患者のこない診療所の待合室でゆったりとコーヒーを飲んでいると、珍しいことに診療所の扉が外から開いた。
 もしかしたら誰かの紹介で、新規の利用者がやってきたのかと思っていたら、洗濯カゴを持ったニュウだったので、

「何でそっから入ってくるのよ?」

 と、いつもは診療所の裏手から入ってくる彼女の行動に珍妙さを感じて言葉を発したが、にんまりと笑顔を浮かべる彼女の背後に立つ二人の少女を見て、思わず飲んでいたコーヒーを吐き出しそうになった。

「そ、その……お久しぶりでしゅ」
「……でしゅ?」

 恐らく彼女もまた緊張していたのだろう。ムリもない。あんな別れ方になったのだから。
 そこにいたのは、四日ほど前に【アルトーゴの森】で出会った少女たちだった。確かランテとリリノールと言った。

 噛んだことに思わず声を発してしまうと、カーッと顔を赤らめるランテ。隣に立つリリノールもまた「やっちゃったぁ」というような表情を浮かべている。
 得も言われぬ沈黙がしばらく続く……。

「……ま、まあ入れば?」
「は、はい……」
「お邪魔します」

 と、二人が診療所内へと入って来た。
 ニュウがコーヒーが飲めるか二人に聞いて、紅茶ならばということで、二人に紅茶を淹れるべく診察室の奥へと消えていく。奥には階段があり、そこが生活空間となっていてキッチンなどもあるのだ。
 三人が立ったまま。沈黙が何だか痛い。

(おいぃぃ……早く戻って来てくれぇぇ、ニュウ~!)

 表情には出さずに、できるだけコーヒーカップで顔を隠して祈りを捧げる。
 すると静寂を割ったのは、リリノールだった。

「改めまして、先日は助けて頂きありがとうございました」
「え……あ、いや。別にいいって」
「これ、そのお礼に」

 彼女が手に持っていたのは一つの袋。その中には多分菓子折りであろうものが入っていた。

「別に気を遣わなくて良かったのに」
「すみません。何だか変なお別れ方になってしまったので」
「あ……まあ、そうかな」

 それはリントにも身に覚えがあったので反論はできない。ただ菓子折りはありがたい。甘いものならニュウが好きなので。
 リリノールから袋ごと受け取って「ありがとな」と短く礼を言う。

 流れでチラリとランテの方を見ると、彼女もチラチラとこちらを窺っていた。
 ここは年長者らしく、先にきっかけを作るべきなのかもしれない。

「……あ~っと……前は悪か――」
「ごめんなさいっ!」
「……!?」

 先に謝罪とともに頭を下げられてしまった。

「すっごく不謹慎でした! 本当にごめんなさい!」

 ……何だかホッと胸を撫で下ろせた。張りつめていた緊張が一気に解けたかのように。

「……いいって。オレも言い過ぎたし。悪かったな」
「いいえ。病院内で言うようなことじゃなかった」
「……そうだな。それはこれから気を付けてくれればそれでいいよ」

 こうして謝れる女の子なのだから、きっと今後は間違わないようにしてくれると思うし。

「だからもう気にしなくていい。だから楽にしてくれ」

 そう言葉を投げかけると、「良かったね」とリリノールがランテに言い、ランテもまたホッとしたような顔を見せた。
 そこへタイミングを見計らったようにニュウが、トレイを持って現れる。その上にはカップが二つとお茶菓子の羊かんがあった。

「お待ちどう様なのであります! お二人とも、どうぞごゆっくりしてくださいませ~!」

 そう言って、彼女たちに待合室にある一つだけのテーブルへ誘導し、そこに座らせる。
 リントとニュウもまた、その近くのソファに腰を下ろした。

「あ、そうだニュウ。これもらったぞ」
「? それは何でありますか?」
「ふふ、それはね~、最近国で流行ってるカステラなんだよぉ~」

 リリノールの説明に、獣耳をピンと立てて顔を上気させるニュウ。

「おお、カステラ!? それはとてもおいしそうなのであります!」
「おいしいよぉ~」
「そのようなもの、頂いていいのでありますか!?」
「うん、食べてほしいなぁ~。今開けてみる?」
「いいのでありますか!?」

 リリノールとが袋に入っていた箱を取り出して開ける。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ぬらりひょんのぼんくら嫁〜虐げられし少女はハイカラ料理で福をよぶ〜

蒼真まこ
キャラ文芸
生贄の花嫁は、あやかしの総大将と出会い、本当の愛と生きていく喜びを知る─。 時は大正。 九桜院さちは、あやかしの総大将ぬらりひょんの元へ嫁ぐために生まれた。生贄の花嫁となるために。 幼い頃より実父と使用人に虐げられ、笑って耐えることしか知らぬさち。唯一の心のよりどころは姉の蓉子が優しくしてくれることだった。 「わたくしの代わりに、ぬらりひょん様に嫁いでくれるわね?」 疑うことを知らない無垢な娘は、ぬらりひょんの元へ嫁ぎ、驚きの言葉を発する。そのひとことが美しくも気難しい、ぬらりひょんの心をとらえてしまう。 ぬらりひょんに気に入られたさちは、得意の洋食を作り、ぬらりひょんやあやかしたちに喜ばれることとなっていく。 「こんなわたしでも、幸せを望んでも良いのですか?」 やがて生家である九桜院家に大きな秘密があることがわかり──。 不遇な少女が運命に立ち向い幸せになっていく、大正あやかし嫁入りファンタジー。 ☆表紙絵は紗倉様に描いていただきました。作中に出てくる場面を元にした主人公のイメージイラストです。 ※エブリスタと小説家になろうにも掲載しておりますが、こちらは改稿版となります。

高校生なのに娘ができちゃった!?

まったりさん
キャラ文芸
不思議な桜が咲く島に住む主人公のもとに、主人公の娘と名乗る妙な女が現われた。その女のせいで主人公の生活はめちゃくちゃ、最初は最悪だったが、段々と主人公の気持ちが変わっていって…!? そうして、紅葉が桜に変わる頃、物語の幕は閉じる。

京都鴨川まねき亭~化け猫さまの愛され仮嫁~

汐埼ゆたか
キャラ文芸
はじまりは、京都鴨川にかかる『賀茂大橋』 再就職先に行くはずが迷子になり、途方に暮れていた。 けれど、ひょんなことからたどり着いたのは、アンティークショップのような古道具屋のような不思議なお店 『まねき亭』 見たことがないほどの端正な容姿を持つ店主に「嫁になれ」と迫られ、即座に断ったが時すでに遅し。 このときすでに、璃世は不思議なあやかしの世界に足を踏み入れていたのだった。 ・*:.。 。.:*・゚✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚ 『観念して俺の嫁になればいい』 『断固としてお断りいたします!』  平凡女子 VS 化け猫美男子  勝つのはどっち? ・*:.。 。.:*・゚✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚ ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。 ※他サイトからの転載作品 ※無断転載禁止

処理中です...