フラワーガールズ 『さよならを言う前に』

安田 景壹

文字の大きさ
上 下
1 / 11

フラワーガールズ『プロローグ』

しおりを挟む
 そうしてようやく、雨が降ってきました。予報よりもかなり遅く、でも降り出せばあっという間に、この視界を覆い尽くしていく。
「……来たね」
 道の向こうにわたしは彼女の姿を見つけます。遅かった。やっと来てくれた。これまでの付き合いからわかった事ですが、彼女は大事なところでは決断が鈍るようです。早く決めなければいけない事を、何故か躊躇して考え込んでしまいます。優柔不断というやつでしょうか。


「遅かったですね、忍冬にんどうさん」
 ようやくお互いの姿が見える位置になって、わたしは彼女に声をかけます。
 雨に濡れた白い髪。その間から生えた黒い犬の耳。スカートの中から伸びた尻尾。
初めて会った時を思い出します。わたしを助けた女の子。この街で一番長く一緒に過ごしたお友達。わたしの親友。親愛なる、《フュージョナー》。
 彼女は何も言いません。じっとわたしの顔を見ています。悲しそうな、暗い瞳で。


 ……ああ、すごく苛々する。
「手紙、読んでくれましたか? 雨が降る前にって、書いたじゃないですか」
 濡れるのは嫌いです。ぐしょぐしょになると気持ち悪くて、何も考えられなくなります。
「さあ、早く始めましょう。雨がひどくなる前に」
 彼女がわたしを睨みます。そう、それでいい。さっきより、まだましな面構えです。
「……本当に、あんな結末しか見えていないの?」
 激しくなり出した雨音よりも大きな声で、ようやく彼女は言いました。


 今さら何を言うのでしょう。何もかも、きちんと書いたではないですか。
「結末は変えられないんですよ。わたしは、この目で見たんですから」
 そう、この目で。この左目で。
「もう、こんな物も必要ない」
 今まで左目を覆っていた眼帯にわたしは手をかけます。
 どこにでもある普通の眼帯。彼女にもらった、初めての品。


「馬鹿な子ね。本当に、馬鹿な子……」
 忍冬さんが左手に持った剣に手をかけます。以前見せてもらった、赤い鞘のレイピア。
 嬉しくなりました。スカートのポケットから、わたしはナイフを取り出します。
 この時のために用意した、特別切れ味の良いナイフ。やや大振りなその刃に、わたしの二つの瞳が映っています。黒と琥珀色の二つの瞳が。
 ようやく望みが叶えられます。


「手加減はしませんよ。本気で来てください。本気の剣で」
 わたしはナイフを構えます。もちろん負けるはずはありません。この左目がある限り、わたしは全てを見通せるのだから。
 彼女は一度目を閉じて、小さく息をします。そして、言いました。
「――その忌々しい目に止めを刺すわ」
 鞘からレイピアが抜かれます。雨に晒される白銀の剣。さながら中世の騎士のように、彼女はそれを自らの前に構えます。


 わたしを見つめる彼女の瞳。何度その目を見た事でしょう。
 初めて会った時から、何度その眼差しに魅了された事か。
 勝つのは、わたしです。その剣を打ち破り、あなたの目を閉ざすのは――……
「きっと言えないだろうから、先に言っておくわ」
 叩き付けられる雨音の中で、彼女の声が聞こえました。
「さようなら……花桃はなも
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ぐるりぐるりと

安田 景壹
キャラ文芸
あの日、親友と幽霊を見た。それが、全ての始まりだった。 高校二年生の穂結煌津は失意を抱えたまま、友の故郷である宮瑠璃市に越して来た。 煌津は宮瑠璃駅前に遺棄された捩じれた死体を目にした事で、邪悪な感情に囚われる。心が暴走するまま悪を為そうとした煌津の前に銀髪の少女が現れ、彼を邪気から解放する。 だが、この日から煌津は、宮瑠璃市に蠢く邪悪な霊との戦いに巻き込まれていく――……

高校生なのに娘ができちゃった!?

まったりさん
キャラ文芸
不思議な桜が咲く島に住む主人公のもとに、主人公の娘と名乗る妙な女が現われた。その女のせいで主人公の生活はめちゃくちゃ、最初は最悪だったが、段々と主人公の気持ちが変わっていって…!? そうして、紅葉が桜に変わる頃、物語の幕は閉じる。

AV研は今日もハレンチ

楠富 つかさ
キャラ文芸
あなたが好きなAVはAudioVisual? それともAdultVideo? AV研はオーディオヴィジュアル研究会の略称で、音楽や動画などメディア媒体の歴史を研究する集まり……というのは建前で、実はとんでもないものを研究していて―― 薄暗い過去をちょっとショッキングなピンクで塗りつぶしていくネジの足りない群像劇、ここに開演!!

処理中です...