本千葉さんと蘇我 ~Let's enjoy play the game!~

安田 景壹

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第四話 クレーンゲームでごきげんよう 

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 三限は大教室だった。博物館学概論。固い内容の講義だが、博物館見学も予定されており、受講者は例年多いという。

「そがががー」
「いや。ごめん、ほんとそれは勘弁して」

 隣の席に座りながら最近流行りの挨拶をすると、蘇我さんは頬を赤らめながらそっぽを向いた。
〝sogagaga〟。蘇我さんの動画投稿時の名前である。初めて川崎のカード屋に行った日の帰り、試しに聞いてみたら大当たりだった。いやーわかりやすすぎる。さすがに。

「動画、伸びてる?」
「いやーそんなに。ルンマグはやっぱりマニアック過ぎるよ。カードはちょっと古いし、安定しないし、地味だし」

 ルンマグ――デッキ名《ルンルン・マグネット》の事だ。『ルンルン・マグネットぶん回し』の名前で蘇我さんが動画を投稿しており、現在シリーズ化され六本の動画がアップされている。

「まーそろそろ新弾出るし、一回ルンマグはお休みでもいいかなって」
「え!? もう出さないの?」
「え、う、うんまあ。気が向いたらまわすかも」
「デッキへの愛……」
「いやいや、あるって。複数デッキ持ちならお休みするしかないでしょ。身体ひとつしかないんだから」

 まあ、確かにせっかく新しいカードが出るなら試したいかもしれない。わたしも新弾のカードは買うつもりだし。
 教室がにわかにざわつき出したのは、そんな他愛もない会話をしていた時だった。何だろう。講義が始まるまでまだ時間はあるが……

「あれは……」

 蘇我さんが先にざわめきの原因に気付いた。
 視線の先に、ビスクドールがいた。
 いや正確には、人間だ。だが、彼女について正確に言い表す事がわたしに出来るだろうか。一度もほかの色に染まった事のない艶やかな黒髪、まさしくビスクドールのような磁器めいたなめらかな肌。大教室に咲く一輪の花のように気品のあるスカート、派手過ぎないフリルとリボンによって飾られたクラシックな装いは今風に言うならクラロリだろうが、着ている本人の雰囲気は本物だ。仮に、彼女が街角に立っていたのなら、そこはもう日本ではない。十九世紀の華の都だ。

「彼女、確か……」
安房あわ天津あまつ円花まどか。四大安房家のお嬢様だよ」

 蘇我さんが言った。

「久しぶりに見た。そういや新年度に入ってからは見てなかったなー」

 ちなみに四大安房家とは明治から続く四つの旧家の総称で、それぞれが超お金持ちの、本物の貴族である。
 噂で聞いた事はあるし、構内で見かけたような気もする。わたしの代には、本物のお嬢様がいる、と。
 そのお嬢様の人影がゆったりとした足取りで近付いてくる。人の顔をまじまじと見るものではないが、いやーでも本当に綺麗な顔をしているなー。お姉ちゃんもたいがい顔立ちは良いけど、別種だ。例えるなら野生動物と一輪の薔薇の――

「あの」

 可愛らしい声が聞こえた。

「すみません。奥の席、空いていますでしょうか」

 目の前で、お嬢様がわたしに向かって話しかけていた。
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