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第二話 シャッフル・カット・ドロー。シールドセット、そして挨拶。
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「さ、本千葉さんの先攻だ。まずは何かカードを出してみて」
言われて、わたしは手札からカードを出す。どうしても手つきがぎこちない。
「水オド、セット。使用、【知識の泉のスライム】を出します」
青で描かれた水滴のようなカードを横に倒し、森の中の泉から出てきたスライムが描かれたカードを場に出す。
【知識の泉のスライム】 水/スライム
パワー・1/ストレングス・1/シールド・1
知識の泉のスライムを手札から捨てる:あなたのオドゾーンに水オド一点を加える。
知識の泉のスライムが死亡した時、あなたはカードを一枚引く。
彼方ノ国物語カードゲームは、二人対戦を基本とするゲームである。プレイヤーはお互い初期ライフ四十点を持ち、三枚のシールドを持つ。クリーチャーの攻撃やスペル・カードによって対戦相手にダメージを与えられる。先に四十点のライフを失うか、山札(ライブラリー)からカードを引けなくなる、または対戦相手が特殊勝利の条件を満たした場合、プレイヤーは敗北する。
カードの種類は大別してエネルギー源となるオド・カードとそれ以外に分かれ、オド・カード以外のカードにはそのカードを使うためのコストが設定されている。
「ターン終了です」
「オッケー。あたしのターン」
蘇我さんは山札からカードを一枚引いた。
「闇オド、セット。使用、【量産型機械ゾンビ】」
オド・カードは縦向きにセットされ、使用の宣言とともに横向きに倒される。闇のエネルギーにより召喚された、半機械の不気味なゾンビ兵が姿を現す。
【量産型機械ゾンビ】 闇/ゾンビ・機械
パワー・1/ストレングス・1/シールド・〇
量産型機械ゾンビが死亡した時、歯車トークンを生成する。歯車トークンは「これを生け贄にささげる:あなたのオドゾーンに無オド一点を加える」を持つレリックである。
「ターン終了だよ」
蘇我さんが言った。
「わたしのターン」
わたしは横にしていた水オドのカードを縦向きに戻す。
「ドロー」
山札から引いたカードを見た瞬間、ドクン、と心臓が高鳴った。
卵が描かれたカード。
『京もやろうよ。二人で最強になろう――』
あの日、お姉ちゃんからもらったカード。
デッキに一枚しか入っていないというのに。まるで出番を待っていたかのように、カードがわたしの手札に加わる。
「炎オド、セット。水と炎を使用。【幻の卵】を出します」
【幻の卵】 水炎/卵
パワー・〇/ストレングス・4/シールド・4
幻の卵は攻撃に参加できない。
幻の卵は破壊されない。
幻の卵は封印カウンターが四個乗った状態で場に出る。あなたがスペルを唱えるたび、封印カウンターをひとつ取り除く。封印カウンターが全て取り除かれたら、幻の卵を裏向きにする。
「おー。幻の卵だ」
蘇我さんが感嘆の声を上げた。
「知っているの?」
「ひと昔前、このカードが初めて収録された時に流行ったからね。そのあと何度か再録されたけど、これは初版だ。レアだね」
「このカード、お姉ちゃんからもらったんだ」
蘇我さんが盤面から顔を上げてわたしを見た。
「思い出のカードってわけね」
「……まあ、そうだね。何でこのカードをくれたのかはわからないけど」
「いいカードだよ。それ」
「そうなのかな」
わたしには、カードの事はよくわからない。
相手の場には機械ゾンビがいる。このままスライムで攻撃しても相打ちになるだけだ。いや、でもここで相手のクリーチャーを減らしておくべきかも……。
「戦闘フェイズに入ります」
わたしは宣言した。
「スライムで攻撃!」
わたしはスライムのカードを横に倒す。蘇我さんは頷いた。
「機械ゾンビでブロックするよ」
戦闘ダメージの処理を解決する。スライムのパワーは1。ゾンビの体力を示すストレングスも1。逆も同様だ。つまり、相打ちとなる。
「スライムが死亡したので、カードを一枚引きます」
「どうぞ」
スライムを墓地ゾーンに置き、わたしは山札から一枚引く。蘇我さんは機械ゾンビが死亡したため、歯車トークンを示すカードを場に出した。わたしはそのままターンを終了する。
「あたしのターン」
蘇我さんが自分のターンに入った。
「幻の卵を使うなら、デッキカラーは必然水と炎だよね。対抗オドだ。つまり連携はできない」
言いながら、蘇我さんは手札からカードを出す。
「闇オド」
場に、二枚目の闇オドが置かれた。
初心者のわたしでも、基本のルールは知っている。何となく予感がして身構える。
通常、オド・カードを出せるのは一ターンに一枚だけだ。
だが、彼方ノ国物語には、多くの複雑な要素が存在する。デッキ構成を多様化させ、ゲームをよりエキサイティングにする要素が。
ゲームスピードの高速化要素。
「さらにオド連携! 炎、鋼!」
蘇我さんは、さらに続けて二枚のオド・カードを出す。
彼方ノ国において、魔術師は世界に満ちたエネルギーであるオドを用いて魔術を行使する。多種多様なオドはそれぞれ特徴を持つが、一番大きな特徴は友好的なオド同士は繋がりあう、という点だ。それをゲーム上で表現すると、一ターンに一枚というルールのオド・カードが、条件を満たせば複数枚出せる、というルールになる。
オド連携。このゲームの大きな特徴だ。これで二ターン目にして蘇我さんは四つのオドを扱えるようになった。わたしの場にはまだオドが二つしかなく、しかもどちらも使用してしまったので、次のわたしのターンまで使う事はできない。
「闇オドから【量産型機械ゾンビ】! 闇、炎、鋼オドから【邪悪な火焔狼】!」
蘇我さんの場に、二体目の機械ゾンビと、炎を纏ったサイボーグ狼が現れる。
「狼で攻撃!」
出たターンにすぐ攻撃できる狼がすかさず攻撃してくる。だが、わたしの場には幻の卵がある。狼のパワーは4。卵なら耐えられる。
「卵でブロック!」
「ごめんよ。狼は二体以上のクリーチャーでないとブロックできない」
「え? あ、そっか」
よく見ればテキストにそう書いてある。というわけで、狼の攻撃が通る。
シールドが場にある場合、まずダメージはライフではなく自動的にシールドに与えられる。三枚縦に並べたシールドのうち、上から順にダメージ処理が行われる。
「シールドにダメージ。チェック」
シールドは、設定上身を守るための防護結界だ。結界を維持するために、中に魔術が入っている。
一番上のシールドをめくる。【知識の泉のスライム】だ。スライムのシールド値は1。狼のパワーとの差分三点がライフにダメージとして与えられる。
ダメージによってシールドが破壊された場合、カードは墓地に置かれず手札に加えられる。
「ライフ、三十七」
破壊されたシールドである【知識の泉のスライム】を手札に加え、わたしは宣言した。
言われて、わたしは手札からカードを出す。どうしても手つきがぎこちない。
「水オド、セット。使用、【知識の泉のスライム】を出します」
青で描かれた水滴のようなカードを横に倒し、森の中の泉から出てきたスライムが描かれたカードを場に出す。
【知識の泉のスライム】 水/スライム
パワー・1/ストレングス・1/シールド・1
知識の泉のスライムを手札から捨てる:あなたのオドゾーンに水オド一点を加える。
知識の泉のスライムが死亡した時、あなたはカードを一枚引く。
彼方ノ国物語カードゲームは、二人対戦を基本とするゲームである。プレイヤーはお互い初期ライフ四十点を持ち、三枚のシールドを持つ。クリーチャーの攻撃やスペル・カードによって対戦相手にダメージを与えられる。先に四十点のライフを失うか、山札(ライブラリー)からカードを引けなくなる、または対戦相手が特殊勝利の条件を満たした場合、プレイヤーは敗北する。
カードの種類は大別してエネルギー源となるオド・カードとそれ以外に分かれ、オド・カード以外のカードにはそのカードを使うためのコストが設定されている。
「ターン終了です」
「オッケー。あたしのターン」
蘇我さんは山札からカードを一枚引いた。
「闇オド、セット。使用、【量産型機械ゾンビ】」
オド・カードは縦向きにセットされ、使用の宣言とともに横向きに倒される。闇のエネルギーにより召喚された、半機械の不気味なゾンビ兵が姿を現す。
【量産型機械ゾンビ】 闇/ゾンビ・機械
パワー・1/ストレングス・1/シールド・〇
量産型機械ゾンビが死亡した時、歯車トークンを生成する。歯車トークンは「これを生け贄にささげる:あなたのオドゾーンに無オド一点を加える」を持つレリックである。
「ターン終了だよ」
蘇我さんが言った。
「わたしのターン」
わたしは横にしていた水オドのカードを縦向きに戻す。
「ドロー」
山札から引いたカードを見た瞬間、ドクン、と心臓が高鳴った。
卵が描かれたカード。
『京もやろうよ。二人で最強になろう――』
あの日、お姉ちゃんからもらったカード。
デッキに一枚しか入っていないというのに。まるで出番を待っていたかのように、カードがわたしの手札に加わる。
「炎オド、セット。水と炎を使用。【幻の卵】を出します」
【幻の卵】 水炎/卵
パワー・〇/ストレングス・4/シールド・4
幻の卵は攻撃に参加できない。
幻の卵は破壊されない。
幻の卵は封印カウンターが四個乗った状態で場に出る。あなたがスペルを唱えるたび、封印カウンターをひとつ取り除く。封印カウンターが全て取り除かれたら、幻の卵を裏向きにする。
「おー。幻の卵だ」
蘇我さんが感嘆の声を上げた。
「知っているの?」
「ひと昔前、このカードが初めて収録された時に流行ったからね。そのあと何度か再録されたけど、これは初版だ。レアだね」
「このカード、お姉ちゃんからもらったんだ」
蘇我さんが盤面から顔を上げてわたしを見た。
「思い出のカードってわけね」
「……まあ、そうだね。何でこのカードをくれたのかはわからないけど」
「いいカードだよ。それ」
「そうなのかな」
わたしには、カードの事はよくわからない。
相手の場には機械ゾンビがいる。このままスライムで攻撃しても相打ちになるだけだ。いや、でもここで相手のクリーチャーを減らしておくべきかも……。
「戦闘フェイズに入ります」
わたしは宣言した。
「スライムで攻撃!」
わたしはスライムのカードを横に倒す。蘇我さんは頷いた。
「機械ゾンビでブロックするよ」
戦闘ダメージの処理を解決する。スライムのパワーは1。ゾンビの体力を示すストレングスも1。逆も同様だ。つまり、相打ちとなる。
「スライムが死亡したので、カードを一枚引きます」
「どうぞ」
スライムを墓地ゾーンに置き、わたしは山札から一枚引く。蘇我さんは機械ゾンビが死亡したため、歯車トークンを示すカードを場に出した。わたしはそのままターンを終了する。
「あたしのターン」
蘇我さんが自分のターンに入った。
「幻の卵を使うなら、デッキカラーは必然水と炎だよね。対抗オドだ。つまり連携はできない」
言いながら、蘇我さんは手札からカードを出す。
「闇オド」
場に、二枚目の闇オドが置かれた。
初心者のわたしでも、基本のルールは知っている。何となく予感がして身構える。
通常、オド・カードを出せるのは一ターンに一枚だけだ。
だが、彼方ノ国物語には、多くの複雑な要素が存在する。デッキ構成を多様化させ、ゲームをよりエキサイティングにする要素が。
ゲームスピードの高速化要素。
「さらにオド連携! 炎、鋼!」
蘇我さんは、さらに続けて二枚のオド・カードを出す。
彼方ノ国において、魔術師は世界に満ちたエネルギーであるオドを用いて魔術を行使する。多種多様なオドはそれぞれ特徴を持つが、一番大きな特徴は友好的なオド同士は繋がりあう、という点だ。それをゲーム上で表現すると、一ターンに一枚というルールのオド・カードが、条件を満たせば複数枚出せる、というルールになる。
オド連携。このゲームの大きな特徴だ。これで二ターン目にして蘇我さんは四つのオドを扱えるようになった。わたしの場にはまだオドが二つしかなく、しかもどちらも使用してしまったので、次のわたしのターンまで使う事はできない。
「闇オドから【量産型機械ゾンビ】! 闇、炎、鋼オドから【邪悪な火焔狼】!」
蘇我さんの場に、二体目の機械ゾンビと、炎を纏ったサイボーグ狼が現れる。
「狼で攻撃!」
出たターンにすぐ攻撃できる狼がすかさず攻撃してくる。だが、わたしの場には幻の卵がある。狼のパワーは4。卵なら耐えられる。
「卵でブロック!」
「ごめんよ。狼は二体以上のクリーチャーでないとブロックできない」
「え? あ、そっか」
よく見ればテキストにそう書いてある。というわけで、狼の攻撃が通る。
シールドが場にある場合、まずダメージはライフではなく自動的にシールドに与えられる。三枚縦に並べたシールドのうち、上から順にダメージ処理が行われる。
「シールドにダメージ。チェック」
シールドは、設定上身を守るための防護結界だ。結界を維持するために、中に魔術が入っている。
一番上のシールドをめくる。【知識の泉のスライム】だ。スライムのシールド値は1。狼のパワーとの差分三点がライフにダメージとして与えられる。
ダメージによってシールドが破壊された場合、カードは墓地に置かれず手札に加えられる。
「ライフ、三十七」
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