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第二話 シャッフル・カット・ドロー。シールドセット、そして挨拶。
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《彼方ノ国物語》は、アメリカ生まれの異世界ファンタジーを世界観とするゲームだ。いわゆる剣と魔法の世界からはじまり、そこにスチームパンクやSF、古き冒険物語、ホラー、ヒューマンドラマ、ギリシャ神話、海洋アクション、航空アクション、ガンアクション、中国四大奇書、ケルト神話、北欧神話、ローマ神話、また剣と魔法に戻って今度は日本のアニメ的な、青春、謎解き、学園もの、時代劇、ロボ、アイドルと果てしなく要素を継ぎ足して四十年間のその世界を広げてきた。最初のTCGにして最長のTCG。それが彼方ノ国物語だ。
――わたしがデッキを揃えたのは一年前。
一度目の、ゲームに対する挑戦のつもりだった。
「ルールはわかる? だいたいでいいんだけど」
カードをローテーブルの上に広げながら、蘇我さんが言った。
顔を洗って、部屋着に着替え(わたしの服が蘇我さんにサイズが合ってよかった)、わたしたちはゲームの準備を進めている。
ローテーブルの上には、蘇我さんのプレイマットが広げられ、その上に、蘇我さんはデッキを構成するカードを、少しずつ落とすようにして広げていく。盤上のカードは一見乱雑に見えるが無作為に積み重なっていく。
これはディール・シャッフルの一種、なのだそうだ。カードの山を、小さな山に分けて混ぜ合わせるシャッフルだ。蘇我さんがカードゲームをはじめた頃、この切り方をするプレイヤーが周りにいて、覚えたのだという。
七つの小さな塊に分かれたデッキを、無造作に重ね合わせ、蘇我さんは手元を見ないようにしながらデッキを二つの塊に分けては差し合わせて混ぜ、また二つの塊に分けては差し合わせる、を繰り返す。これはファロー・シャッフル、俗に横入れと呼ばれるやり方である。
「何となくは覚えている。何度かルールを見ながら自分で並べてみたから」
ぎこちないディール・シャッフル(わたしは蘇我さんと同じやり方は無理なので、無難に一枚ずつ並べて山を作っている)をしながら、わたしは答えた。複数に分けた山を重ね合わせて、今度はファロー・シャッフルを試みる。
「オーケー。じゃあゆっくりやろう。わからない事があったら聞いてね」
「ありがとう」
ヒンズー・シャッフル(カードを山の中腹から抜いて上に重ねる、いわゆる普通のシャッフル)に移り、よく切る。
「カット、お願いします」
蘇我さんが言った。わたしもそれに倣う。
「お、お願いします」
カット。相手のデッキを切る行為だ。シャッフルしてもいいそうだが、わたしは無難にカードを取って山を分け、簡単に重ね直すだけにとどめた。カードに触るのは慣れていないし、人のものだ。扱いには気を遣う。
「先攻後攻は普段はダイスの目で決めるんだけど、今回は練習だから、本千葉さんが先攻でいこう。まず、カードを七枚引いて」
彼方ノ国物語カードゲームでは、デッキの枚数は六十枚以上とルールで決まっている。初期の手札は七枚。まず手札を見て、先攻から順番に手札を引き直すかどうかを決められる。
「マリガン(引き直し)なしです」
「こっちもなし。それじゃあ、デッキの上から三枚取って、シールドをセットしよう」
わたしは言われた通り、デッキの上から三枚のカードを取って、盤面に縦に並べる。わたしはプレイマットを持っていないので、綿混素材のランチョンマットを敷いている。
「よし。はじめよう」
あ、何ていうんだっけ。十二時が近付くにつれて深夜のテンションになっていく頭に妙なスイッチが入る。デュエ……そうだ。確かそんな感じだ。
「デュエ――」
「よろしくお願いします」
「あ、はい。そうですよね。よろしくお願いします」
うっかり言いかけた言葉を即修正して、わたしは一礼すると、自分の手札をあらためて見る。
かつてネットで記事を見ながら揃えたカードたち。そのままプレイする事なく眠っていたカードたちを、わたしは不思議な気持ちで眺めた。
――わたしがデッキを揃えたのは一年前。
一度目の、ゲームに対する挑戦のつもりだった。
「ルールはわかる? だいたいでいいんだけど」
カードをローテーブルの上に広げながら、蘇我さんが言った。
顔を洗って、部屋着に着替え(わたしの服が蘇我さんにサイズが合ってよかった)、わたしたちはゲームの準備を進めている。
ローテーブルの上には、蘇我さんのプレイマットが広げられ、その上に、蘇我さんはデッキを構成するカードを、少しずつ落とすようにして広げていく。盤上のカードは一見乱雑に見えるが無作為に積み重なっていく。
これはディール・シャッフルの一種、なのだそうだ。カードの山を、小さな山に分けて混ぜ合わせるシャッフルだ。蘇我さんがカードゲームをはじめた頃、この切り方をするプレイヤーが周りにいて、覚えたのだという。
七つの小さな塊に分かれたデッキを、無造作に重ね合わせ、蘇我さんは手元を見ないようにしながらデッキを二つの塊に分けては差し合わせて混ぜ、また二つの塊に分けては差し合わせる、を繰り返す。これはファロー・シャッフル、俗に横入れと呼ばれるやり方である。
「何となくは覚えている。何度かルールを見ながら自分で並べてみたから」
ぎこちないディール・シャッフル(わたしは蘇我さんと同じやり方は無理なので、無難に一枚ずつ並べて山を作っている)をしながら、わたしは答えた。複数に分けた山を重ね合わせて、今度はファロー・シャッフルを試みる。
「オーケー。じゃあゆっくりやろう。わからない事があったら聞いてね」
「ありがとう」
ヒンズー・シャッフル(カードを山の中腹から抜いて上に重ねる、いわゆる普通のシャッフル)に移り、よく切る。
「カット、お願いします」
蘇我さんが言った。わたしもそれに倣う。
「お、お願いします」
カット。相手のデッキを切る行為だ。シャッフルしてもいいそうだが、わたしは無難にカードを取って山を分け、簡単に重ね直すだけにとどめた。カードに触るのは慣れていないし、人のものだ。扱いには気を遣う。
「先攻後攻は普段はダイスの目で決めるんだけど、今回は練習だから、本千葉さんが先攻でいこう。まず、カードを七枚引いて」
彼方ノ国物語カードゲームでは、デッキの枚数は六十枚以上とルールで決まっている。初期の手札は七枚。まず手札を見て、先攻から順番に手札を引き直すかどうかを決められる。
「マリガン(引き直し)なしです」
「こっちもなし。それじゃあ、デッキの上から三枚取って、シールドをセットしよう」
わたしは言われた通り、デッキの上から三枚のカードを取って、盤面に縦に並べる。わたしはプレイマットを持っていないので、綿混素材のランチョンマットを敷いている。
「よし。はじめよう」
あ、何ていうんだっけ。十二時が近付くにつれて深夜のテンションになっていく頭に妙なスイッチが入る。デュエ……そうだ。確かそんな感じだ。
「デュエ――」
「よろしくお願いします」
「あ、はい。そうですよね。よろしくお願いします」
うっかり言いかけた言葉を即修正して、わたしは一礼すると、自分の手札をあらためて見る。
かつてネットで記事を見ながら揃えたカードたち。そのままプレイする事なく眠っていたカードたちを、わたしは不思議な気持ちで眺めた。
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