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第一話 まずはプレイしてみましょう。
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「あ、本千葉さん。こいつ今倒さなくていいよ。こいつに効く武器ないし」
画面の中で動き回るボスキャラを見て、蘇我さんはあっさりとそう言った。
「え?」
「大丈夫だよ。こいつスルーしても先進めるし」
クッションの上に座った蘇我さんが何て事のない様子で言った。
わたしが操作するキャラクターは物陰から、四時間苦戦した挙句倒せなかったボスを眺めている。わたしは蘇我さんの顔を眺めた。
「…………うそでしょ」
「いや、ホントホント。このゲーム、オープンワールドだし」
「ボス倒さないと次の面に進めないんじゃないの?」
「自由自由。こいつ倒さずにラスボスも倒せるし」
「ラスボスを倒せる???」
「まー楽しみ方の一つっていうか、全要素やった人がチャレンジでやるっていうか。自由だよ、とにかく」
ずず、と蘇我さんはお茶をすする。
「……わたし、このボス倒せなくて八か月放置したんだよね、このゲーム」
「そりゃ長い。良かったよ、今日あたし来て」
まあ放置しちゃうよねー普段やらないと、と蘇我さんは呟く。
「本千葉さん、そこでジャンプしたら武器振るボタン押してみて」
「え、あ、うん」
言われた通り操作してみる。プレイキャラクターである冒険者が全く知らないアクションをした。
ボスキャラはすでに遠ざかり、遠方でドスンドスンと動き回る音が聞こえるだけだ。
「何この動き知らない」
「かっこいいでしょ。このアクション好きなんだよねー。ていうか、うまいじゃん」
「あ、ありがとう」
初めてゲームのプレイを褒められた。幼馴染のみやちゃんは隣で爆笑しているだけだったのに。まあ、みやちゃんは笑い上戸だから仕方ないけど。
「本千葉さん、ゲーム苦手っていうか、アクションが苦手なだけな気がする。ちょっと緊張してるっていうか」
「だってほら、失敗すると爆笑されるし。失敗すると怒られるし」
二言目の『失敗すると』からは、ちょっとだけ声が小さくなってしまった。
「怒られる? ゲームで?」
「いや、何ていうか。うち、小さい頃はすごい厳しくて。算数の問題とか間違えるとめちゃくちゃ怒られたんだよね。順位悪いだけで嫌味言われたし」
「うわ……すげえな」
「教育ママだったの。昔は。ゲームも古いのしかなかったし」
「古いの?」
「スーホミ」
「え? 古典じゃん」
古典っていうのかな、とわたしは思わず笑ってしまう。
「今は違うの? お母さん」
「うん。色々あってね。まあ、お母さんもプレッシャーがかかっていたっていうか」
「ふうん」
それが興味のない『ふうん』なのか、ずけずけ立ち入るまいとするための『ふうん』なのか、わたしにはよくわからない。
「じゃあゲーム、ほとんどやった事ないんだ」
「幼馴染の家で遊ぶ時は、ゲームやってた。あの、何だっけ、箱みたいなやつ」
「QBね。小さいやつでしょ」
「うん。そうそう」
箱といえば。わたしはふと思い出した。
聞くべきか、聞かないべきか迷う。
聞けば、おそらくあの話題に触れる事になる。そういう流れになるだろう。
けれど、もしかしたら。蘇我さんがもし、あのゲームの事を知っているのなら、わたしの胸のつっかえも、少しは取れたりするかもしれない。
キャラクターを動かす手が、つい止まってしまった。
画面の中で動き回るボスキャラを見て、蘇我さんはあっさりとそう言った。
「え?」
「大丈夫だよ。こいつスルーしても先進めるし」
クッションの上に座った蘇我さんが何て事のない様子で言った。
わたしが操作するキャラクターは物陰から、四時間苦戦した挙句倒せなかったボスを眺めている。わたしは蘇我さんの顔を眺めた。
「…………うそでしょ」
「いや、ホントホント。このゲーム、オープンワールドだし」
「ボス倒さないと次の面に進めないんじゃないの?」
「自由自由。こいつ倒さずにラスボスも倒せるし」
「ラスボスを倒せる???」
「まー楽しみ方の一つっていうか、全要素やった人がチャレンジでやるっていうか。自由だよ、とにかく」
ずず、と蘇我さんはお茶をすする。
「……わたし、このボス倒せなくて八か月放置したんだよね、このゲーム」
「そりゃ長い。良かったよ、今日あたし来て」
まあ放置しちゃうよねー普段やらないと、と蘇我さんは呟く。
「本千葉さん、そこでジャンプしたら武器振るボタン押してみて」
「え、あ、うん」
言われた通り操作してみる。プレイキャラクターである冒険者が全く知らないアクションをした。
ボスキャラはすでに遠ざかり、遠方でドスンドスンと動き回る音が聞こえるだけだ。
「何この動き知らない」
「かっこいいでしょ。このアクション好きなんだよねー。ていうか、うまいじゃん」
「あ、ありがとう」
初めてゲームのプレイを褒められた。幼馴染のみやちゃんは隣で爆笑しているだけだったのに。まあ、みやちゃんは笑い上戸だから仕方ないけど。
「本千葉さん、ゲーム苦手っていうか、アクションが苦手なだけな気がする。ちょっと緊張してるっていうか」
「だってほら、失敗すると爆笑されるし。失敗すると怒られるし」
二言目の『失敗すると』からは、ちょっとだけ声が小さくなってしまった。
「怒られる? ゲームで?」
「いや、何ていうか。うち、小さい頃はすごい厳しくて。算数の問題とか間違えるとめちゃくちゃ怒られたんだよね。順位悪いだけで嫌味言われたし」
「うわ……すげえな」
「教育ママだったの。昔は。ゲームも古いのしかなかったし」
「古いの?」
「スーホミ」
「え? 古典じゃん」
古典っていうのかな、とわたしは思わず笑ってしまう。
「今は違うの? お母さん」
「うん。色々あってね。まあ、お母さんもプレッシャーがかかっていたっていうか」
「ふうん」
それが興味のない『ふうん』なのか、ずけずけ立ち入るまいとするための『ふうん』なのか、わたしにはよくわからない。
「じゃあゲーム、ほとんどやった事ないんだ」
「幼馴染の家で遊ぶ時は、ゲームやってた。あの、何だっけ、箱みたいなやつ」
「QBね。小さいやつでしょ」
「うん。そうそう」
箱といえば。わたしはふと思い出した。
聞くべきか、聞かないべきか迷う。
聞けば、おそらくあの話題に触れる事になる。そういう流れになるだろう。
けれど、もしかしたら。蘇我さんがもし、あのゲームの事を知っているのなら、わたしの胸のつっかえも、少しは取れたりするかもしれない。
キャラクターを動かす手が、つい止まってしまった。
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