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第一話 まずはプレイしてみましょう。
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大事な用を済ませるべく、わたしは足早に帰路を急ぐ。大学から借りているアパートの最寄り駅までは一時間ほどかかるが、用事はどうせわたし一人のものだ。誰かを待たせるわけじゃない。最寄り駅には急行電車が止まらないが、駅周りには活気があった。この辺は住宅街で、近くには小学校や、別の大学があるのだ。
ケーキ屋で、予約していた一人用ホールケーキを受け取り、コンビニに立ち寄った。少し迷ったが、今日は良し! と自分を許して一・五リットルのジュースを買い、ついでに夕飯を手早く済ませられるよう、適当な弁当を買う。
『世界中で大人気! 《彼方ノ国物語》カードゲームは今年で四十周年! モーソンではコラボ実施中! 店内放送の音声は、あの人気配信者〝azumatsu〟が担当!』
世は空前のトレーディングカードゲームブーム、なのだそうだ。国産、舶来を問わず、多種多様なTCGが売れ、大会が開催され、コラボグッズが出ている。物理的なカードからデジタルカードゲームまで、あるいは物理的なカードゲームのデジタル版まで、実に多くのカードゲームが巷に溢れている。
当然、今や立派な職業となったゲーム配信でもカードゲームのプレイを見る事は多い……のだそうだ。
「ありがとうございましたー」
店員の声を背に、これ以上店内放送を聞かないように、コンビニを出る。
別に、長居しなくていい。今日というは自分のために使うんだから。
放送なんか、聞かなくていい。今では街のいたるところで聞けるんだから。
「ただいまー」
誰もいないけど、アパートの部屋に帰ってわたしは挨拶の言葉を口にする。鍵を閉める。部屋に上がる。荷物を置いて、手洗い、うがい。一人暮らしも一年でずいぶん慣れた。
買ってきた弁当を温め、ぱっぱと食事を済ます。洗い物を済ませると大き目の皿を出し、買ってきた一人用のホールケーキを出す。グラスにジュースを注ぐ。
ネガティブな事は考えない。今日は大事な日だ。
「誕生日おめでとう。わたし」
四月十二日。大学生。二回目の春。
わたしはとうとう二十歳になった。
今朝がた、両親からはメッセージをもらった。蘇我さんからの飲み会の誘いは断ってしまったが仕方ない。今日は金曜日。次のバイトは月曜日。それまで予定はない。これから、土曜、日曜と時間を使える。
二十歳の誕生日は、ずっと前から、こうしようと決めていた。変えるのだ。自分を。いつまでもネガティブに過ごしていては駄目だ。
苦手を、苦手のままにしていては駄目だ。
「今日で決着をつけてやる」
言って、わたしはコントローラーを手に取ると、ゲーム機の電源を入れた。
ケーキ屋で、予約していた一人用ホールケーキを受け取り、コンビニに立ち寄った。少し迷ったが、今日は良し! と自分を許して一・五リットルのジュースを買い、ついでに夕飯を手早く済ませられるよう、適当な弁当を買う。
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世は空前のトレーディングカードゲームブーム、なのだそうだ。国産、舶来を問わず、多種多様なTCGが売れ、大会が開催され、コラボグッズが出ている。物理的なカードからデジタルカードゲームまで、あるいは物理的なカードゲームのデジタル版まで、実に多くのカードゲームが巷に溢れている。
当然、今や立派な職業となったゲーム配信でもカードゲームのプレイを見る事は多い……のだそうだ。
「ありがとうございましたー」
店員の声を背に、これ以上店内放送を聞かないように、コンビニを出る。
別に、長居しなくていい。今日というは自分のために使うんだから。
放送なんか、聞かなくていい。今では街のいたるところで聞けるんだから。
「ただいまー」
誰もいないけど、アパートの部屋に帰ってわたしは挨拶の言葉を口にする。鍵を閉める。部屋に上がる。荷物を置いて、手洗い、うがい。一人暮らしも一年でずいぶん慣れた。
買ってきた弁当を温め、ぱっぱと食事を済ます。洗い物を済ませると大き目の皿を出し、買ってきた一人用のホールケーキを出す。グラスにジュースを注ぐ。
ネガティブな事は考えない。今日は大事な日だ。
「誕生日おめでとう。わたし」
四月十二日。大学生。二回目の春。
わたしはとうとう二十歳になった。
今朝がた、両親からはメッセージをもらった。蘇我さんからの飲み会の誘いは断ってしまったが仕方ない。今日は金曜日。次のバイトは月曜日。それまで予定はない。これから、土曜、日曜と時間を使える。
二十歳の誕生日は、ずっと前から、こうしようと決めていた。変えるのだ。自分を。いつまでもネガティブに過ごしていては駄目だ。
苦手を、苦手のままにしていては駄目だ。
「今日で決着をつけてやる」
言って、わたしはコントローラーを手に取ると、ゲーム機の電源を入れた。
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