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第五章
影の中で 14
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「いやあ、先輩。追いついたよ」
静星乙羽がにやりと笑った。
何故こいつがいる。いや、何故こいつしかゲートから出てこない。
「お前……九宇時さんはどうした」
剣を構えたまま、煌津は問うた。
「はあ……先輩」
静星が呆れたようにため息をつき、しかしすぐに可笑しそうに笑い声を上げる。
「そんなわかりきった事、聞くまでもないでしょう」
ひゅっ、と。静星が床に向かって何かを投げた。
それが、何かはすぐにわかった。血で汚れているが、間違いようがなかった。銀色のリボルバー。
「九宇時先輩なら、わたしがこの手で殺してやりましたよ」
――一瞬、思考が働かなくなった。
赤い血がついたリボルバーを見つめる。那美の顔が頭をよぎる。次々と。この思いを煌津は知っている。この衝撃を煌津は知っている。
こんな、こんな思いを二度も――……
「うぁああああああああっ!!」
爆発した感情は煌津の体の中を駆け巡り、一直線に静星へと向かわせた。怒気を込めた連撃は、しかし全てをハサミ女のハサミによって防がれる。
「お前、お前、お前ぇぇぇっ!」
「うわあ、すっごい顔だなあ先輩。まるで……」
静星が嘲笑う。
「我留羅みたい」
「ああああああああぁああっ!」
もはや振り方も何も滅茶苦茶だったが、煌津の中にあるのは殺意だけだった。自分が物凄いスピードで怪物になっていくのを感じる。怪物とは、姿形が変わる事でも、呪力に塗(まみ)れる事でもなかった。強い憎しみ、強い殺意に身を任せる時、それを自身の使命だとさえ感じる時、人は怪物になるのだった。
「はあ……もういい。ハサミ女!」
振りが大き過ぎたせいで、胴ががら空きだった。鋭利なハサミの先端が、ずぶりとそこに突き刺さり、腹部を破り、背中まで貫通する。
「がはっ……!」
せり上がってきた大量の血を、煌津は口から吐き出す。ハサミが引き抜かれる。体を支えられるはずもなく、煌津は床に倒れ込む。
「はあ、はあ……」
視界が真っ暗になっていくのは、血が急速に失われているからだろう。今の煌津は変身していない。この出血量では万に一つも助からない。
「千恵里を連れてきて」
静星の声が聞こえる。少しして、短い悲鳴。閉ざされつつある視界で、ハサミ女が千恵里の首根っこを掴んでいるのがわかる。
「ま、こんなものだよ。先輩。呪詛で街が満たされるのを見てもらえないのは残念だけど」
静星が、耳元で言った。
「せいぜい自分を呪って死にな」
何かを言い返したかったが、もはや体に力が入らない。
静星の哄笑が、いつまでも聞こえていた。
静星乙羽がにやりと笑った。
何故こいつがいる。いや、何故こいつしかゲートから出てこない。
「お前……九宇時さんはどうした」
剣を構えたまま、煌津は問うた。
「はあ……先輩」
静星が呆れたようにため息をつき、しかしすぐに可笑しそうに笑い声を上げる。
「そんなわかりきった事、聞くまでもないでしょう」
ひゅっ、と。静星が床に向かって何かを投げた。
それが、何かはすぐにわかった。血で汚れているが、間違いようがなかった。銀色のリボルバー。
「九宇時先輩なら、わたしがこの手で殺してやりましたよ」
――一瞬、思考が働かなくなった。
赤い血がついたリボルバーを見つめる。那美の顔が頭をよぎる。次々と。この思いを煌津は知っている。この衝撃を煌津は知っている。
こんな、こんな思いを二度も――……
「うぁああああああああっ!!」
爆発した感情は煌津の体の中を駆け巡り、一直線に静星へと向かわせた。怒気を込めた連撃は、しかし全てをハサミ女のハサミによって防がれる。
「お前、お前、お前ぇぇぇっ!」
「うわあ、すっごい顔だなあ先輩。まるで……」
静星が嘲笑う。
「我留羅みたい」
「ああああああああぁああっ!」
もはや振り方も何も滅茶苦茶だったが、煌津の中にあるのは殺意だけだった。自分が物凄いスピードで怪物になっていくのを感じる。怪物とは、姿形が変わる事でも、呪力に塗(まみ)れる事でもなかった。強い憎しみ、強い殺意に身を任せる時、それを自身の使命だとさえ感じる時、人は怪物になるのだった。
「はあ……もういい。ハサミ女!」
振りが大き過ぎたせいで、胴ががら空きだった。鋭利なハサミの先端が、ずぶりとそこに突き刺さり、腹部を破り、背中まで貫通する。
「がはっ……!」
せり上がってきた大量の血を、煌津は口から吐き出す。ハサミが引き抜かれる。体を支えられるはずもなく、煌津は床に倒れ込む。
「はあ、はあ……」
視界が真っ暗になっていくのは、血が急速に失われているからだろう。今の煌津は変身していない。この出血量では万に一つも助からない。
「千恵里を連れてきて」
静星の声が聞こえる。少しして、短い悲鳴。閉ざされつつある視界で、ハサミ女が千恵里の首根っこを掴んでいるのがわかる。
「ま、こんなものだよ。先輩。呪詛で街が満たされるのを見てもらえないのは残念だけど」
静星が、耳元で言った。
「せいぜい自分を呪って死にな」
何かを言い返したかったが、もはや体に力が入らない。
静星の哄笑が、いつまでも聞こえていた。
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