90 / 100
第五章
影の中で 9
しおりを挟む
「作戦は決まったー?」
指でくるくるとリングを回しながら、静星が煽る。
「ええ。とっとと終わらせましょうか」
「はっはっはっ。とっとと、ね……」
背中越しにでも、煌津は感知出来た。静星の呪力が増した。
「やってみろよ、先輩!」
「穂結君!」
那美の声を合図に、煌津はくねくねモドキを見据え、己の中の魔力の流れを見つめた。大群を一斉に焼き払うには生半可な威力では駄目だ。炎を燃やすための大量の魔力が必要だ。だが、それだけの量が、果たして煌津の中にあるのか……
『自分の中にあるものだけでは、足りない』
「っ!?」
唐突に頭の中に響いた声に、煌津は思わず辺りを見回す。
『力を求めるなら、手段を選ぶな』
『欲せよ』
『悪を滅ぼすため』
『悪を救済せんがため』
『求めよ』
『欲せよ』
「うっ――!?」
体中に巻かれた包帯が次々と伸びる。地面に、灯篭に、倒すべきくねくねモドキに。
九宇時那美に。
「穂結君!?」
吸い取る包帯がいくつも体から伸びて、あらゆる場所に刺さり、エネルギーを吸い上げ始める。那美の腕にも絡み付き、接着面から魔力を吸収している。止めようにも、包帯は煌津の思い通りには動かなかった。煌津の頭部はすでに包帯に包まれている。口も動かない。
「はっはっはっ! ここにきて魔物喰らいの帯が暴走したか!」
哄笑を上げる静星の上にも、大きな影が落ちていた。煌津にはもはや制御が出来ない。魔物喰らいの帯は、あの巨大なヒトガタと化していた。
「お前は……」
静星の哄笑が止んだ。
「そう。どうやら適切な宿主を見つけたみたいね。わたしの物にはならなかったくせに……」
ヒトガタは虚ろな声で答えた。
『お前の事は覚えている』
『彷徨う女』
『お前の帰る場所など、ない』
「黙れ、包帯風情が! 切り刻んでやる!」
吼えた静星がリングを構え、跳躍する。
その胴体にヒトガタの爪が容赦なく突き刺さった。
「ぐぅっ!?」
『ここでは足りない』
吸い上げられた魔力と呪力が絡み合い、大きなエネルギーの塊となるのを煌津は感じた。
「何を……する! この、やめろ! 包帯め! お前なんかがわたしに――」
煌津の視界からでは絶対に見る事は出来なかったが、包帯で出来たヒトガタが笑っているのを煌津は脳裏に描いた。
吸い上げられたエネルギーが放たれる。空間に亀裂が入り、瞬間的に、三人が亀裂の中に吸い込まれる。
組み替えられた三原の家は瓦礫の山となり、曇天の下に晒されていた。くねくねモドキもおらず、灯篭はなくなっていた。瓦礫の中で、三原稲の母親が気を失っている。
指でくるくるとリングを回しながら、静星が煽る。
「ええ。とっとと終わらせましょうか」
「はっはっはっ。とっとと、ね……」
背中越しにでも、煌津は感知出来た。静星の呪力が増した。
「やってみろよ、先輩!」
「穂結君!」
那美の声を合図に、煌津はくねくねモドキを見据え、己の中の魔力の流れを見つめた。大群を一斉に焼き払うには生半可な威力では駄目だ。炎を燃やすための大量の魔力が必要だ。だが、それだけの量が、果たして煌津の中にあるのか……
『自分の中にあるものだけでは、足りない』
「っ!?」
唐突に頭の中に響いた声に、煌津は思わず辺りを見回す。
『力を求めるなら、手段を選ぶな』
『欲せよ』
『悪を滅ぼすため』
『悪を救済せんがため』
『求めよ』
『欲せよ』
「うっ――!?」
体中に巻かれた包帯が次々と伸びる。地面に、灯篭に、倒すべきくねくねモドキに。
九宇時那美に。
「穂結君!?」
吸い取る包帯がいくつも体から伸びて、あらゆる場所に刺さり、エネルギーを吸い上げ始める。那美の腕にも絡み付き、接着面から魔力を吸収している。止めようにも、包帯は煌津の思い通りには動かなかった。煌津の頭部はすでに包帯に包まれている。口も動かない。
「はっはっはっ! ここにきて魔物喰らいの帯が暴走したか!」
哄笑を上げる静星の上にも、大きな影が落ちていた。煌津にはもはや制御が出来ない。魔物喰らいの帯は、あの巨大なヒトガタと化していた。
「お前は……」
静星の哄笑が止んだ。
「そう。どうやら適切な宿主を見つけたみたいね。わたしの物にはならなかったくせに……」
ヒトガタは虚ろな声で答えた。
『お前の事は覚えている』
『彷徨う女』
『お前の帰る場所など、ない』
「黙れ、包帯風情が! 切り刻んでやる!」
吼えた静星がリングを構え、跳躍する。
その胴体にヒトガタの爪が容赦なく突き刺さった。
「ぐぅっ!?」
『ここでは足りない』
吸い上げられた魔力と呪力が絡み合い、大きなエネルギーの塊となるのを煌津は感じた。
「何を……する! この、やめろ! 包帯め! お前なんかがわたしに――」
煌津の視界からでは絶対に見る事は出来なかったが、包帯で出来たヒトガタが笑っているのを煌津は脳裏に描いた。
吸い上げられたエネルギーが放たれる。空間に亀裂が入り、瞬間的に、三人が亀裂の中に吸い込まれる。
組み替えられた三原の家は瓦礫の山となり、曇天の下に晒されていた。くねくねモドキもおらず、灯篭はなくなっていた。瓦礫の中で、三原稲の母親が気を失っている。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
【R18】もう一度セックスに溺れて
ちゅー
恋愛
--------------------------------------
「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」
過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。
--------------------------------------
結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる