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第五章
影の中で 3
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「《くねくね》……?」
くねくねはインターネットロアに登場する怪異である。体のくねらせ続ける正体不明の怪物であり、これを見続けた者は精神を破壊されるという。
「そいつらに名前なんてない。形を持てなかった我留羅の成り損ないだよ。まあ、でも見続けたらおかしくなるのは、怪談通りだけどね」
確かに静星の言う通りだ。このくねくねモドキを見続けていると、頭の中が妙になってくる。平衡感覚を失い、思考が出来なくなる。
「ぐっ……」
「おやおや。そんなのハサミ女の攻撃に比べたら何て事ないでしょうよ」
膝を突く。こいつらを見ているのはやばい。姿を見ずに何とかしないと。
「……っ、乙羽ちゃんやめて! 九宇時君にひどい事しないで!」
稲が、静星の腕の中から飛び出す。静星は呆れたような顔をした。
「稲っち……。そいつは九宇時那岐じゃない。あんたが惚れてた年下の男の子はもう死んだんだ」
「違う! この子は九宇時君だよ! 見てわからないの!?」
静星が大きくため息をつくのが聞こえた。
「イカレ女とは話していられない」
「うわっ!?」
静星が手を振るうと、稲の手首と足首が黒い紐によって拘束され、バランスを崩した稲が倒れる。
「三原さん!」
身を低くしながら、煌津は稲に駆け寄った。
「先輩、稲っち、あんたらの霊媒体質は貴重だ。この街を呪うのに使える。わたしはどうしてもこの街を呪わなきゃいけないんだ。次に進むためにね。だから……」
くねくねモドキが一斉に煌津たちのほうを向いた。
「二人仲良く触媒になりな」
稲が息を呑むのが聞こえた。体をくねらせたくねくねモドキが一斉に飛び掛かってくる。煌津は手に持った天羽々斬を放り投げ、すかさず掌から包帯を射出する。包帯が天羽々斬の柄に巻き付き、締め付ける手応えがあった。
「炫毘!」
左手から放たれた炫毘の光が、天羽々斬の刀身に移り、燃え盛る。さながら鎖分銅のように包帯の巻き付いた天羽々斬を振り回し、飛び掛かってくるくねくねモドキの群れを、炫毘の光で輝く剣で次々と斬りつけていく。
「ほーう」
静星が感心したような声を上げた。
燃えカスになったくねくねモドキの体が落ちていく。天羽々斬の柄を右手で掴み取り、稲の手足を拘束した、黒い紐を手早く切る。
くねくねモドキはまだまだ灯篭の影から出てくる。飛び掛かってくるのはやめたようだが、様子を伺っている。まるで灯篭の数だけくねくねモドキが用意されているかのようだ。そして、この空間はどこまで続いているかもわからず、灯篭の数も不明だ。
「九宇時君……」
稲がか細い声で言った。
「俺は九宇時じゃない」
ちらと、稲の顔を見る。
「でも、あなたを守る」
「はあ……。第二陣っ!」
静星がパンパンと手を叩く。くねくねモドキが体を伸ばす。まるで大蛇の群れのように鎌首をもたげて、煌津たちに突っ込んでくる。煌津は再び天羽々斬を振り回し、投げつける。一体の胴体を切り裂き、包帯を操って次の一体に一撃を加える。横から突っ込んできたくねくねモドキを左の大爪で切り裂き、飛び込んでさらに奥からやってくる一体を倒す。見なければ攻撃を与えられない以上、最速で倒すのがカギだ。
「うおおおっ!」
燃え盛る剣を振るい、最後の一体を斬り倒す。周辺のくねくねモドキは地に伏していて、その体は次々と崩れていった。
「やるねえ……」
静星が椅子から立ち上がった。
くねくねはインターネットロアに登場する怪異である。体のくねらせ続ける正体不明の怪物であり、これを見続けた者は精神を破壊されるという。
「そいつらに名前なんてない。形を持てなかった我留羅の成り損ないだよ。まあ、でも見続けたらおかしくなるのは、怪談通りだけどね」
確かに静星の言う通りだ。このくねくねモドキを見続けていると、頭の中が妙になってくる。平衡感覚を失い、思考が出来なくなる。
「ぐっ……」
「おやおや。そんなのハサミ女の攻撃に比べたら何て事ないでしょうよ」
膝を突く。こいつらを見ているのはやばい。姿を見ずに何とかしないと。
「……っ、乙羽ちゃんやめて! 九宇時君にひどい事しないで!」
稲が、静星の腕の中から飛び出す。静星は呆れたような顔をした。
「稲っち……。そいつは九宇時那岐じゃない。あんたが惚れてた年下の男の子はもう死んだんだ」
「違う! この子は九宇時君だよ! 見てわからないの!?」
静星が大きくため息をつくのが聞こえた。
「イカレ女とは話していられない」
「うわっ!?」
静星が手を振るうと、稲の手首と足首が黒い紐によって拘束され、バランスを崩した稲が倒れる。
「三原さん!」
身を低くしながら、煌津は稲に駆け寄った。
「先輩、稲っち、あんたらの霊媒体質は貴重だ。この街を呪うのに使える。わたしはどうしてもこの街を呪わなきゃいけないんだ。次に進むためにね。だから……」
くねくねモドキが一斉に煌津たちのほうを向いた。
「二人仲良く触媒になりな」
稲が息を呑むのが聞こえた。体をくねらせたくねくねモドキが一斉に飛び掛かってくる。煌津は手に持った天羽々斬を放り投げ、すかさず掌から包帯を射出する。包帯が天羽々斬の柄に巻き付き、締め付ける手応えがあった。
「炫毘!」
左手から放たれた炫毘の光が、天羽々斬の刀身に移り、燃え盛る。さながら鎖分銅のように包帯の巻き付いた天羽々斬を振り回し、飛び掛かってくるくねくねモドキの群れを、炫毘の光で輝く剣で次々と斬りつけていく。
「ほーう」
静星が感心したような声を上げた。
燃えカスになったくねくねモドキの体が落ちていく。天羽々斬の柄を右手で掴み取り、稲の手足を拘束した、黒い紐を手早く切る。
くねくねモドキはまだまだ灯篭の影から出てくる。飛び掛かってくるのはやめたようだが、様子を伺っている。まるで灯篭の数だけくねくねモドキが用意されているかのようだ。そして、この空間はどこまで続いているかもわからず、灯篭の数も不明だ。
「九宇時君……」
稲がか細い声で言った。
「俺は九宇時じゃない」
ちらと、稲の顔を見る。
「でも、あなたを守る」
「はあ……。第二陣っ!」
静星がパンパンと手を叩く。くねくねモドキが体を伸ばす。まるで大蛇の群れのように鎌首をもたげて、煌津たちに突っ込んでくる。煌津は再び天羽々斬を振り回し、投げつける。一体の胴体を切り裂き、包帯を操って次の一体に一撃を加える。横から突っ込んできたくねくねモドキを左の大爪で切り裂き、飛び込んでさらに奥からやってくる一体を倒す。見なければ攻撃を与えられない以上、最速で倒すのがカギだ。
「うおおおっ!」
燃え盛る剣を振るい、最後の一体を斬り倒す。周辺のくねくねモドキは地に伏していて、その体は次々と崩れていった。
「やるねえ……」
静星が椅子から立ち上がった。
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