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第四章
ハサミ女 19
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ハサミ女の背中や腹や足の付け根から、灰色の腕が生えた。手に持っているのは、小さなハサミ、カッター、包丁。斬って人を傷つける事が出来る物ばかり。
「嘘だろ……」
驚く間もなく、カッターが煌津の目を狙ってくる。床を蹴って後ろへ跳ぶ。とても昨日までの煌津には出来なかった反応だ。夢の中で受けた特訓を体が覚えている。
「絡み付く包帯!」
右手と左手の両方から、うじゃうじゃと蠢く包帯を射出する。目くらましも兼ねた攻撃だ。一本一本が蛇か蚯蚓のように蠢く包帯はハサミ女の攻撃を防ぐ壁であり、ハサミ女の腕を絡め取る罠でもある。
ぬらり、とハサミ女の影が動く。骨でさえ柔らかく曲がっているような奇怪な動きで、ハサミ女の得物を持った数本の腕が蠢く包帯の隙間を縫って煌津の体を狙う。煌津の包帯はあくまでも野性的であり、ハサミ女の腕は怪物のそれでありながら明確に狙いをつけていた。
「うわっ!」
正確に太腿を狙ってきたカッターの突きを躱すと同時に、射出し続けていた包帯を切って、煌津は後方へ跳ぶ。
「爪の包帯!」
掌から発生する包帯がぐるぐると巻き付いて、あっという間に分厚く、大きな十本の爪を形成する。ハサミ女の腕はさらに増えていて、絡み付く包帯をかいくぐって迫ってくる刃物を十本の爪を大雑把に振って払い落とす。
「このっ!」
振りかぶった右手の大きな爪がハサミ女の頭部へと襲い掛かる。が、ハサミ女の背から瞬時に生えた灰色の不気味な腕が、煌津の爪を掴んだ。増えた腕の指先がずるり、と爪の包帯の中へ沈み込む。
「やばっ!」
慌てて爪を解除して、右手を引き戻す。先日の二の舞になるところだった。ハサミ女を煌津の力だけで倒すのは無理だ。やはり、必要なのは……
「天羽々斬……」
アタッシェケースは少し後ろだ。左後方。
包帯の壁をズタズタに切り裂いて、ハサミ女が進んでくる。あまり距離はない。迷っている暇も。
「うおおおっ!」
左の爪を横殴りに叩きつける。ハサミ女は余裕だ。右手一本でそれを受け止め、すかさず反撃の蹴りを繰り出してくる。右手を包帯で厚く防護し、そのまま手の甲から落としてハサミ女の前蹴りを防ぐ。勢いそのままロケットのように突き上げた右拳でハサミ女を狙うが、相手はさっと身を傾けてカッターの刃を煌津の胴体めがけて突き込んでくる。だが、その位置にはすでに左手がある。
「絡み付け!」
うじゃっと飛び出した包帯がハサミ女の腕を絡め取る。途端に内側から切り裂かれる。ハサミ女の腕からさらに小さな腕が生えていて、それらが皆ハサミやカッターを持っていた。
「うっ――」
その異様さに呻いたのも束の間、ハサミ女のハイキックが側頭部に叩き込まれ、煌津は廊下の端まで吹っ飛ばされる。ポケットからスマホが落ちて、床に硬い音を立てた。角にぶつかり、背中が痛むのも束の間、煌津は床に落ちる。アタッシェケースを飛び越していた。
「すごいでしょ、この子。ボクが生き返らせたんだよ」
いつの間にかハサミ女の傍らに、三原稲が立っていた。
「もう九宇時君に頼らなくてもいいの。この子でボクを苦しめた奴らを皆殺しにするの。今はビビらせるだけビビらせてね。あとで、殺すの」
三原稲の目は完全に煌津を捉えながら、九宇時君と煌津の事を呼んでいた。
「嘘だろ……」
驚く間もなく、カッターが煌津の目を狙ってくる。床を蹴って後ろへ跳ぶ。とても昨日までの煌津には出来なかった反応だ。夢の中で受けた特訓を体が覚えている。
「絡み付く包帯!」
右手と左手の両方から、うじゃうじゃと蠢く包帯を射出する。目くらましも兼ねた攻撃だ。一本一本が蛇か蚯蚓のように蠢く包帯はハサミ女の攻撃を防ぐ壁であり、ハサミ女の腕を絡め取る罠でもある。
ぬらり、とハサミ女の影が動く。骨でさえ柔らかく曲がっているような奇怪な動きで、ハサミ女の得物を持った数本の腕が蠢く包帯の隙間を縫って煌津の体を狙う。煌津の包帯はあくまでも野性的であり、ハサミ女の腕は怪物のそれでありながら明確に狙いをつけていた。
「うわっ!」
正確に太腿を狙ってきたカッターの突きを躱すと同時に、射出し続けていた包帯を切って、煌津は後方へ跳ぶ。
「爪の包帯!」
掌から発生する包帯がぐるぐると巻き付いて、あっという間に分厚く、大きな十本の爪を形成する。ハサミ女の腕はさらに増えていて、絡み付く包帯をかいくぐって迫ってくる刃物を十本の爪を大雑把に振って払い落とす。
「このっ!」
振りかぶった右手の大きな爪がハサミ女の頭部へと襲い掛かる。が、ハサミ女の背から瞬時に生えた灰色の不気味な腕が、煌津の爪を掴んだ。増えた腕の指先がずるり、と爪の包帯の中へ沈み込む。
「やばっ!」
慌てて爪を解除して、右手を引き戻す。先日の二の舞になるところだった。ハサミ女を煌津の力だけで倒すのは無理だ。やはり、必要なのは……
「天羽々斬……」
アタッシェケースは少し後ろだ。左後方。
包帯の壁をズタズタに切り裂いて、ハサミ女が進んでくる。あまり距離はない。迷っている暇も。
「うおおおっ!」
左の爪を横殴りに叩きつける。ハサミ女は余裕だ。右手一本でそれを受け止め、すかさず反撃の蹴りを繰り出してくる。右手を包帯で厚く防護し、そのまま手の甲から落としてハサミ女の前蹴りを防ぐ。勢いそのままロケットのように突き上げた右拳でハサミ女を狙うが、相手はさっと身を傾けてカッターの刃を煌津の胴体めがけて突き込んでくる。だが、その位置にはすでに左手がある。
「絡み付け!」
うじゃっと飛び出した包帯がハサミ女の腕を絡め取る。途端に内側から切り裂かれる。ハサミ女の腕からさらに小さな腕が生えていて、それらが皆ハサミやカッターを持っていた。
「うっ――」
その異様さに呻いたのも束の間、ハサミ女のハイキックが側頭部に叩き込まれ、煌津は廊下の端まで吹っ飛ばされる。ポケットからスマホが落ちて、床に硬い音を立てた。角にぶつかり、背中が痛むのも束の間、煌津は床に落ちる。アタッシェケースを飛び越していた。
「すごいでしょ、この子。ボクが生き返らせたんだよ」
いつの間にかハサミ女の傍らに、三原稲が立っていた。
「もう九宇時君に頼らなくてもいいの。この子でボクを苦しめた奴らを皆殺しにするの。今はビビらせるだけビビらせてね。あとで、殺すの」
三原稲の目は完全に煌津を捉えながら、九宇時君と煌津の事を呼んでいた。
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