ぐるりぐるりと

安田 景壹

文字の大きさ
上 下
61 / 100
第三章

そしてテープは回り始める 17

しおりを挟む
「頭、、、あた、、おかしく、、、、、なってるっっ!!」
 煌津の声がおかしい。これは、やばいか……!
「頭に流れる情報を見るな! 呪力を外に出す事だけを考えろ!」
「ぐる、、、、あっっ、、、おおおおぉっ!」
 カン! カン! カン! カン! カン! ぐるぐる巻きで積み重なっていく黒いテープの山と、ビデオテープの成り損ないの破片が次々と弾き出されていく。
 那美の腕ももう限界だ。小さな白い腕は、すでに肩にまで迫っている。ほどなく、右腕が食われる。
「バックアップは――苦手だけど!」
 那美は左手の刀印で、三角形を素早く二つ描く。一つは正三角形。一つは逆三角形。重ねて、六芒星ヘキサグラム
「私の魔力を受け取って!」
 六芒星越しに那美は魔力を放出する。桜色の光が六芒星から煌津の体に流れ込む。
「ぐ、、、っ、、、、何か……・元気、でたかも!」
 那美の豊潤な魔力を受け取った煌津の体から、桜色の包帯が飛び出した。幾条もの桜色の包帯は、白い腕の本体はおろか、柳田先生の体にまで伸びていき、呪力を発するあらゆる部分に突き刺さる。
「ビデオビデオビデオ! ビデオになれぇええええええええええっ!」
 豪風が吹いた。凄まじい風切り音がして、煌津の体がぐらりと崩れる。
「穂結君!」
 倒れかかったところを、煌津は何とか踏み止まった。
「っ、大丈夫……」
 カン! と音を立てて、何かが地面に落ちた。
 全面が真っ白の、ビデオテープだ。見た目こそ真っ白だが、呪力の塊だ。
「な、な、な、な、な、な、」
 おそらくは核を抜かれたためだろう。白い腕は今やその形を保てなくなりつつある。
「アチメ! オーオーオー!」
 邪霊除去の言霊を叫ぶと、先生から生えていた白い腕が吹き飛んでいく。
 支えるものを失った空中の柳田先生の体が、ぐらりと落下を始める。
「先生!」
「フジバカマノヒメ!」
 那美が叫ぶのと同時に、フジバカマノヒメが飛び出して先生の体をキャッチする。息はあるようだが、無事かどうかはあとで調べてみないとわからないだろう。
「……よかった」
 煌津がほっと胸をなでおろした。
「穂結君、平気?」
「あー……頭がすごい痛い。まあ、何とか……」
 煌津は包帯姿のままだ。という事は、魔力はまだ保たれている。
「ありがとう、穂結君。助かった」
「ははは。どういたしま……いや、まだだ! あのでかい顔!」
 はっとした様子で煌津は辺りを見回す。巨大な顔面は、どこにもいない。
「ああ、それなら大丈夫」
 何でもない事のように言って、那美は銃把を軽く握る。
「どこから来るかは、わかっているから」
 那美がそう言った、その瞬間――
「あっあっああっああ――――――――――!?」
 真上から、巨大な顔面の影が那美と煌津に落ち――
「掛けまくも畏き伊邪那岐、伊邪那美大神の大前に畏み畏みも白さく、諸の罪、穢れ、禍事に囚われ、我留羅と成りし魂魄を憐れみ給い、慈しみ給い、導き給え。セイ、ジン、チ、ジャ、タイ、ウン、メイ――」
 那美はリボルバーの銃口を真上へと向けた。
「ぐるりぐるりと」
 煌津が真上に顔を向ける。銃声が響き渡る。
「見たいものは見れた?」
 那美が独り言のように呟いたその瞬間、桜色の光が爆発する。
「うぎぃやああああああああああああ」
 巨大な顔面の断末魔とともに、周囲の光景に波紋が生まれる。ぐねぐねと空間自体が転がされ、発光はさらに、さらに強くなり――……
 一瞬の間を置いて、那美と煌津は太陽の光が眩しい、中華料理屋の屋根の上に立っていた。
 フジバカマノヒメは、中華料理屋の前の道路で、柳田先生を抱えたままだ。
「帰ってきた?」
「ええ。……千恵里ちゃん、出てきて大丈夫だよ」
 那美の言葉に、透明になって姿を消していた千恵里が姿を現す。まだ少し怯えている様子だ。無理もないが。
「くっ……」
「九宇時さん、平気?」
「大丈夫……」
 さすがに力を使い過ぎた。大きな術を連発したうえに異界との繋がりも切ったのだ。
「……いや、ごめん。やっぱ無理。悪いけど穂結君、その包帯でうちまで抱えて――」
 ――カッ、カッ、カッ、カッ、カッ。
 ぞわり、と鳥肌が立った。
 千恵里が那美を見上げている。フードの中の怯えた目が見えた。
「穂結君、逃げて!」
 次の瞬間、全身に走ったのは刃物で切り付けられた時の痛みだった。それが何箇所も、何十か所も同時に、深く、鋭く、那美の全身を切り刻む。
「あ……」
 体が崩れ落ちていく。血液を一度に大量に失ったせいで、視界が真っ暗闇に閉ざされていく。
 ほう ほう ほたるこい 
 あっちのみずは にがいぞ
 こっちのみずは あまいぞ
 童謡が聞こえる。視界の端に、黒く長い髪が見える。大きな刃物を持って、灰色のワンピース一枚の、腰まで伸びた長い髪の女――
  ……ああ、やはり。
「――――ハサミ女」
 那美の意識は途切れた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

踊る阿呆は螺旋の救世者

藤原ぴーまん
キャラ文芸
 “星詠みの巫女”・フォーチュンは、“地球の化身(ホメヲスタシス)”の神託を受け、日本国・四国東方/徳島県に訪れる。  その際、彼女の身柄を狙う国家指定暴力団/極龍會に襲われるが、たまたま通りがかった徳島県民・真神正義に助けられる。  一方、国際テロ組織/“黙示録の獣(アポカリプスビースト)”の元首領・黒十字(リベリオン)もまた徳島県に潜伏しており、彼は四国に眠る“ソロモン王の秘宝”を探していた――――  踊る阿保に見る阿保。  同じ阿保なら、踊らにゃ損損!  踊る阿保は螺旋の救世者(メシア)。  略して、あほめし。これより、開幕!

Lunatic tears(ルナティックティアーズ)

AYA
ミステリー
世界は時を止める、君の瞳に宿る僕のために。  2023年8月。東京で起きた、トーキョーアタックと呼ばれる同時多発テロ。東京の空港で遭遇しながらも助かった高校生の宇奈月流雫は、しかし渋谷で恋人、欅平美桜を失う。  それから半年、日本では護身のために所持が認められるようになり、世界一銃に厳しかった国は一転、銃社会となる。  流雫は美桜を失って以降、学校では孤独だったが、オンライン上で知り合ったミオと名乗る少女にだけ、心を開いていた。メッセンジャーアプリでの文字のやりとりだけが、心の支えだった。  やがて、ミオと台場の商業施設で初めて逢うことになる。しかし待ち合わせの時間になって、突如銃声が鳴り響き……。  ゲーテの戯曲「ファウスト」をモチーフに、銃社会となった2024年の日本を舞台に、テロで恋人を失った少年が少女と出逢い、生き死にの本質や人を撃つことに苦悩しながらテロに立ち向かう……。  頭をフル回転させて読む、モキュメンタリー形式で描かれる恋愛ミステリーアクションの最高傑作「ルナティックティアーズ」(小説家になろうで完結済)に大幅修正を入れた、完全版がついに連載開始! 今回はact3に関連するスピンオフ「世界のキリトリ線」を「Cross Line of the World」として掲載!

雪ごいのトリプレット The Lovers

梅室しば
キャラ文芸
鍾乳洞の内部に造られた『書庫』を管理する旧家・佐倉川邸で開かれる年越しの宴に招かれた潟杜大学三年生の熊野史岐と冨田柊牙。彼らをもてなす為に、大晦日の朝から準備に奔走していた長女・佐倉川利玖は、気分転換の為に訪れた『書庫』の中で異様な存在を目撃する。一部の臓器だけが透けて見える、ヒト型をした寒天状のその存在は、利玖に気づいて声を発した。「おおみそかに、ほん──を──いただきに。まいり、ました」 ※本作は「pixiv」「カクヨム」「小説家になろう」「エブリスタ」にも掲載しています。

スーパーシティ ~放置国家~

タミケン
大衆娯楽
 内閣府が2018年に発表したムーンショット計画を題材にしたガンアクション作品。 あらすじ 無政府状態の2050年の日本、そこは奪いたい放題、殺したい放題の暴力集団の戦国時代だった。成り行きからたった一人で裏社会に立ち向かう事になった元自衛隊員の男は、日本を地獄に貶めた利権屋どもの始末を決意する。

【完結】月華麗君とりかへばや物語~偽りの宦官が記す後宮事件帳~

葵一樹
キャラ文芸
【性別逆転・ツンデレラブ(?)バディミステリ】 病弱な帝姫の宮。姫の寝台の上では小柄な宦官が下着姿の姫君に追い詰められていた。 とある事情から自分に成りすませと迫る姫君に対し、必死に抵抗する宦官の少年へ女官たちの魔の手が伸びる。 ★ ★ ★ ★ ★ 「ちょっと待て! 俺は女装なんかしねえぞ!」 「いい加減観念しろ。なんでもやると言っただろう」 「そうはいったが女装は嫌だ!」 「女装女装って、お前、本当は女じゃないか」 「うるせえ、この腹黒女装皇子!」 ★ ★ ★ ★ ★ 宦官のはだけた胸元にはさらしに巻かれたささやかな胸。 姫君の下着の下には滑らかな胸板。 性別を偽って生きる二人の互いの利害が一致するとき後宮に渦巻く陰謀が牙を剥く。 腹黒「姫」に翻弄されながら、姫の命を狙う陰謀に巻きこまれていく白狼。 後宮に巣くう敵を二人は一掃できるのか――。

堕天使の詩

ピーコ
キャラ文芸
堕天使をモチーフにして詩や、気持ちを書き綴ってみました。 ダークな気持ちになるかも知れませんが、天使と悪魔ーエクスシアーと一緒に読んでいただければ、幸いです!( ^ω^ )

フリーの祓い屋ですが、誠に不本意ながら極道の跡取りを弟子に取ることになりました

あーもんど
キャラ文芸
腕はいいが、万年金欠の祓い屋────小鳥遊 壱成。 明るくていいやつだが、時折極道の片鱗を見せる若頭────氷室 悟史。 明らかにミスマッチな二人が、ひょんなことから師弟関係に発展!? 悪霊、神様、妖など様々な者達が織り成す怪奇現象を見事解決していく! *ゆるゆる設定です。温かい目で見守っていただけると、助かります*

処理中です...