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第三章
そしてテープは回り始める 17
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「頭、、、あた、、おかしく、、、、、なってるっっ!!」
煌津の声がおかしい。これは、やばいか……!
「頭に流れる情報を見るな! 呪力を外に出す事だけを考えろ!」
「ぐる、、、、あっっ、、、おおおおぉっ!」
カン! カン! カン! カン! カン! ぐるぐる巻きで積み重なっていく黒いテープの山と、ビデオテープの成り損ないの破片が次々と弾き出されていく。
那美の腕ももう限界だ。小さな白い腕は、すでに肩にまで迫っている。ほどなく、右腕が食われる。
「バックアップは――苦手だけど!」
那美は左手の刀印で、三角形を素早く二つ描く。一つは正三角形。一つは逆三角形。重ねて、六芒星。
「私の魔力を受け取って!」
六芒星越しに那美は魔力を放出する。桜色の光が六芒星から煌津の体に流れ込む。
「ぐ、、、っ、、、、何か……・元気、でたかも!」
那美の豊潤な魔力を受け取った煌津の体から、桜色の包帯が飛び出した。幾条もの桜色の包帯は、白い腕の本体はおろか、柳田先生の体にまで伸びていき、呪力を発するあらゆる部分に突き刺さる。
「ビデオビデオビデオ! ビデオになれぇええええええええええっ!」
豪風が吹いた。凄まじい風切り音がして、煌津の体がぐらりと崩れる。
「穂結君!」
倒れかかったところを、煌津は何とか踏み止まった。
「っ、大丈夫……」
カン! と音を立てて、何かが地面に落ちた。
全面が真っ白の、ビデオテープだ。見た目こそ真っ白だが、呪力の塊だ。
「な、な、な、な、な、な、」
おそらくは核を抜かれたためだろう。白い腕は今やその形を保てなくなりつつある。
「アチメ! オーオーオー!」
邪霊除去の言霊を叫ぶと、先生から生えていた白い腕が吹き飛んでいく。
支えるものを失った空中の柳田先生の体が、ぐらりと落下を始める。
「先生!」
「フジバカマノヒメ!」
那美が叫ぶのと同時に、フジバカマノヒメが飛び出して先生の体をキャッチする。息はあるようだが、無事かどうかはあとで調べてみないとわからないだろう。
「……よかった」
煌津がほっと胸をなでおろした。
「穂結君、平気?」
「あー……頭がすごい痛い。まあ、何とか……」
煌津は包帯姿のままだ。という事は、魔力はまだ保たれている。
「ありがとう、穂結君。助かった」
「ははは。どういたしま……いや、まだだ! あのでかい顔!」
はっとした様子で煌津は辺りを見回す。巨大な顔面は、どこにもいない。
「ああ、それなら大丈夫」
何でもない事のように言って、那美は銃把を軽く握る。
「どこから来るかは、わかっているから」
那美がそう言った、その瞬間――
「あっあっああっああ――――――――――!?」
真上から、巨大な顔面の影が那美と煌津に落ち――
「掛けまくも畏き伊邪那岐、伊邪那美大神の大前に畏み畏みも白さく、諸の罪、穢れ、禍事に囚われ、我留羅と成りし魂魄を憐れみ給い、慈しみ給い、導き給え。セイ、ジン、チ、ジャ、タイ、ウン、メイ――」
那美はリボルバーの銃口を真上へと向けた。
「ぐるりぐるりと」
煌津が真上に顔を向ける。銃声が響き渡る。
「見たいものは見れた?」
那美が独り言のように呟いたその瞬間、桜色の光が爆発する。
「うぎぃやああああああああああああ」
巨大な顔面の断末魔とともに、周囲の光景に波紋が生まれる。ぐねぐねと空間自体が転がされ、発光はさらに、さらに強くなり――……
一瞬の間を置いて、那美と煌津は太陽の光が眩しい、中華料理屋の屋根の上に立っていた。
フジバカマノヒメは、中華料理屋の前の道路で、柳田先生を抱えたままだ。
「帰ってきた?」
「ええ。……千恵里ちゃん、出てきて大丈夫だよ」
那美の言葉に、透明になって姿を消していた千恵里が姿を現す。まだ少し怯えている様子だ。無理もないが。
「くっ……」
「九宇時さん、平気?」
「大丈夫……」
さすがに力を使い過ぎた。大きな術を連発したうえに異界との繋がりも切ったのだ。
「……いや、ごめん。やっぱ無理。悪いけど穂結君、その包帯でうちまで抱えて――」
――カッ、カッ、カッ、カッ、カッ。
ぞわり、と鳥肌が立った。
千恵里が那美を見上げている。フードの中の怯えた目が見えた。
「穂結君、逃げて!」
次の瞬間、全身に走ったのは刃物で切り付けられた時の痛みだった。それが何箇所も、何十か所も同時に、深く、鋭く、那美の全身を切り刻む。
「あ……」
体が崩れ落ちていく。血液を一度に大量に失ったせいで、視界が真っ暗闇に閉ざされていく。
ほう ほう ほたるこい
あっちのみずは にがいぞ
こっちのみずは あまいぞ
童謡が聞こえる。視界の端に、黒く長い髪が見える。大きな刃物を持って、灰色のワンピース一枚の、腰まで伸びた長い髪の女――
……ああ、やはり。
「――――ハサミ女」
那美の意識は途切れた。
煌津の声がおかしい。これは、やばいか……!
「頭に流れる情報を見るな! 呪力を外に出す事だけを考えろ!」
「ぐる、、、、あっっ、、、おおおおぉっ!」
カン! カン! カン! カン! カン! ぐるぐる巻きで積み重なっていく黒いテープの山と、ビデオテープの成り損ないの破片が次々と弾き出されていく。
那美の腕ももう限界だ。小さな白い腕は、すでに肩にまで迫っている。ほどなく、右腕が食われる。
「バックアップは――苦手だけど!」
那美は左手の刀印で、三角形を素早く二つ描く。一つは正三角形。一つは逆三角形。重ねて、六芒星。
「私の魔力を受け取って!」
六芒星越しに那美は魔力を放出する。桜色の光が六芒星から煌津の体に流れ込む。
「ぐ、、、っ、、、、何か……・元気、でたかも!」
那美の豊潤な魔力を受け取った煌津の体から、桜色の包帯が飛び出した。幾条もの桜色の包帯は、白い腕の本体はおろか、柳田先生の体にまで伸びていき、呪力を発するあらゆる部分に突き刺さる。
「ビデオビデオビデオ! ビデオになれぇええええええええええっ!」
豪風が吹いた。凄まじい風切り音がして、煌津の体がぐらりと崩れる。
「穂結君!」
倒れかかったところを、煌津は何とか踏み止まった。
「っ、大丈夫……」
カン! と音を立てて、何かが地面に落ちた。
全面が真っ白の、ビデオテープだ。見た目こそ真っ白だが、呪力の塊だ。
「な、な、な、な、な、な、」
おそらくは核を抜かれたためだろう。白い腕は今やその形を保てなくなりつつある。
「アチメ! オーオーオー!」
邪霊除去の言霊を叫ぶと、先生から生えていた白い腕が吹き飛んでいく。
支えるものを失った空中の柳田先生の体が、ぐらりと落下を始める。
「先生!」
「フジバカマノヒメ!」
那美が叫ぶのと同時に、フジバカマノヒメが飛び出して先生の体をキャッチする。息はあるようだが、無事かどうかはあとで調べてみないとわからないだろう。
「……よかった」
煌津がほっと胸をなでおろした。
「穂結君、平気?」
「あー……頭がすごい痛い。まあ、何とか……」
煌津は包帯姿のままだ。という事は、魔力はまだ保たれている。
「ありがとう、穂結君。助かった」
「ははは。どういたしま……いや、まだだ! あのでかい顔!」
はっとした様子で煌津は辺りを見回す。巨大な顔面は、どこにもいない。
「ああ、それなら大丈夫」
何でもない事のように言って、那美は銃把を軽く握る。
「どこから来るかは、わかっているから」
那美がそう言った、その瞬間――
「あっあっああっああ――――――――――!?」
真上から、巨大な顔面の影が那美と煌津に落ち――
「掛けまくも畏き伊邪那岐、伊邪那美大神の大前に畏み畏みも白さく、諸の罪、穢れ、禍事に囚われ、我留羅と成りし魂魄を憐れみ給い、慈しみ給い、導き給え。セイ、ジン、チ、ジャ、タイ、ウン、メイ――」
那美はリボルバーの銃口を真上へと向けた。
「ぐるりぐるりと」
煌津が真上に顔を向ける。銃声が響き渡る。
「見たいものは見れた?」
那美が独り言のように呟いたその瞬間、桜色の光が爆発する。
「うぎぃやああああああああああああ」
巨大な顔面の断末魔とともに、周囲の光景に波紋が生まれる。ぐねぐねと空間自体が転がされ、発光はさらに、さらに強くなり――……
一瞬の間を置いて、那美と煌津は太陽の光が眩しい、中華料理屋の屋根の上に立っていた。
フジバカマノヒメは、中華料理屋の前の道路で、柳田先生を抱えたままだ。
「帰ってきた?」
「ええ。……千恵里ちゃん、出てきて大丈夫だよ」
那美の言葉に、透明になって姿を消していた千恵里が姿を現す。まだ少し怯えている様子だ。無理もないが。
「くっ……」
「九宇時さん、平気?」
「大丈夫……」
さすがに力を使い過ぎた。大きな術を連発したうえに異界との繋がりも切ったのだ。
「……いや、ごめん。やっぱ無理。悪いけど穂結君、その包帯でうちまで抱えて――」
――カッ、カッ、カッ、カッ、カッ。
ぞわり、と鳥肌が立った。
千恵里が那美を見上げている。フードの中の怯えた目が見えた。
「穂結君、逃げて!」
次の瞬間、全身に走ったのは刃物で切り付けられた時の痛みだった。それが何箇所も、何十か所も同時に、深く、鋭く、那美の全身を切り刻む。
「あ……」
体が崩れ落ちていく。血液を一度に大量に失ったせいで、視界が真っ暗闇に閉ざされていく。
ほう ほう ほたるこい
あっちのみずは にがいぞ
こっちのみずは あまいぞ
童謡が聞こえる。視界の端に、黒く長い髪が見える。大きな刃物を持って、灰色のワンピース一枚の、腰まで伸びた長い髪の女――
……ああ、やはり。
「――――ハサミ女」
那美の意識は途切れた。
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