ぐるりぐるりと

安田 景壹

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第三章

そしてテープは回り始める 16

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 左手で刀印を作り、右腕の腕で晴明桔梗を描く。右腕に憑りつこうとしていた小さな白い腕が何本か解呪されるものの、まだ腕を引く力は強い。
 考えなければ。このまま引っ張り合いをしていても埒が明かない。そもそも呪力量が多過ぎるのだ。減らさなければ。こちらで対処できるほどの量に――……
 那美の目が、煌津の包帯で止まった。湯気を立てるほど呪力を侵食する魔力の包帯。自分でも閃くものがあったのはわかる。何を閃いたのか。具体化するまでのコンマ一秒が長く感じる。
「いや、駄目。それは……」
「九宇時さん」
 煌津が那美の目を見ていた。とても静かな目で。
「穂結君……?」
「これってさ……もしかして、出来るんじゃないの? ビデオに」
 煌津の目が確信に満ちていた。何故それに気付いたのだ。那美が見たからか。煌津の包帯を。たったそれだけで気付いたというのか。
 煌津が包帯を力いっぱいに引っ張る。だが、白い腕の本体はびくともしない。
「俺、やってみるよ。この腕もエネルギーなら、包帯で取り込んでビデオに――」
「駄目!」
 白い腕の引っ張る力がさらに増す。那美の足がずりずりと滑る。
「万が一、呪力を穂結君が吸収してしまったら、今度は君が呪われる! そんな事になったら――」
 煌津は、何故だか笑っていた。
「九宇時さん。言い合いしてる暇、ないでしょ?」
 ――その笑顔が、誰かに似ている気がした。
「ああ、本当にもう――」
 左手の刀印で白い腕の本体に晴明桔梗を描く。
「アチメ! オーオーオー!」
 白い腕の本体のほとんどが、一瞬消し飛ぶ。が、すぐにまた再生が始まる。ここで端緒を失うわけにはいかない。
「今! 傷口に包帯を突っ込んで! 早く!」
 那美がそう言うと同時に、煌津はこくりと頷く。と、煌津の背中から無数の包帯が飛び出し、白い腕の本体に出来た傷口に突き刺さっていく。
「いい!? ビデオにする事だけを考えて! 吸い上げたら即射出! 余計な雑念は捨てて!」
「わかった!」
 煌津が応ずるのと同時に、白い腕の本体に突き刺さった包帯が、何かを吸い上げるように動き始めた。煌津の体のあちこちから、ビデオテープの中身である黒いテープが噴き出し始める。この動作に慣れていないのもあるだろうが、呪力量が多過ぎて形にしづらいのだろう。
「ああああっ、これ、まじできついっ!」
「頑張れ! 何とか耐えて!」
 那美の主となる攻撃手段である術は、浄力を使用する。浄力は魔力や呪力をゼロへと変換させる力であるので、今、下手に白い腕本体に使えば、煌津の包帯も巻き込んで消えてしまう。
 カン! ビデオテープの成り損ないのような物体が、地面にぶつかって消える。
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