ぐるりぐるりと

安田 景壹

文字の大きさ
上 下
60 / 100
第三章

そしてテープは回り始める 16

しおりを挟む
 左手で刀印を作り、右腕の腕で晴明桔梗を描く。右腕に憑りつこうとしていた小さな白い腕が何本か解呪されるものの、まだ腕を引く力は強い。
 考えなければ。このまま引っ張り合いをしていても埒が明かない。そもそも呪力量が多過ぎるのだ。減らさなければ。こちらで対処できるほどの量に――……
 那美の目が、煌津の包帯で止まった。湯気を立てるほど呪力を侵食する魔力の包帯。自分でも閃くものがあったのはわかる。何を閃いたのか。具体化するまでのコンマ一秒が長く感じる。
「いや、駄目。それは……」
「九宇時さん」
 煌津が那美の目を見ていた。とても静かな目で。
「穂結君……?」
「これってさ……もしかして、出来るんじゃないの? ビデオに」
 煌津の目が確信に満ちていた。何故それに気付いたのだ。那美が見たからか。煌津の包帯を。たったそれだけで気付いたというのか。
 煌津が包帯を力いっぱいに引っ張る。だが、白い腕の本体はびくともしない。
「俺、やってみるよ。この腕もエネルギーなら、包帯で取り込んでビデオに――」
「駄目!」
 白い腕の引っ張る力がさらに増す。那美の足がずりずりと滑る。
「万が一、呪力を穂結君が吸収してしまったら、今度は君が呪われる! そんな事になったら――」
 煌津は、何故だか笑っていた。
「九宇時さん。言い合いしてる暇、ないでしょ?」
 ――その笑顔が、誰かに似ている気がした。
「ああ、本当にもう――」
 左手の刀印で白い腕の本体に晴明桔梗を描く。
「アチメ! オーオーオー!」
 白い腕の本体のほとんどが、一瞬消し飛ぶ。が、すぐにまた再生が始まる。ここで端緒を失うわけにはいかない。
「今! 傷口に包帯を突っ込んで! 早く!」
 那美がそう言うと同時に、煌津はこくりと頷く。と、煌津の背中から無数の包帯が飛び出し、白い腕の本体に出来た傷口に突き刺さっていく。
「いい!? ビデオにする事だけを考えて! 吸い上げたら即射出! 余計な雑念は捨てて!」
「わかった!」
 煌津が応ずるのと同時に、白い腕の本体に突き刺さった包帯が、何かを吸い上げるように動き始めた。煌津の体のあちこちから、ビデオテープの中身である黒いテープが噴き出し始める。この動作に慣れていないのもあるだろうが、呪力量が多過ぎて形にしづらいのだろう。
「ああああっ、これ、まじできついっ!」
「頑張れ! 何とか耐えて!」
 那美の主となる攻撃手段である術は、浄力を使用する。浄力は魔力や呪力をゼロへと変換させる力であるので、今、下手に白い腕本体に使えば、煌津の包帯も巻き込んで消えてしまう。
 カン! ビデオテープの成り損ないのような物体が、地面にぶつかって消える。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

盲目剣士と鍛冶見習い

陸亜
ファンタジー
怨霊や怪物といった異形のものがはびこる世界を旅する青年たちを描いた、伝奇ファンタジー長編。「祭刀」と呼ばれる特殊な刀を持つ盲目の青年「晄」と、刀鍛冶の弟子である少年「八雲」の二人が主人公。探し物をして旅する晄に、成り行きでついていくこととなった八雲。旅の中で絆を深めながら、晄が探す物の正体、八雲に負わされた役目が明らかになってゆく。

僕の名前は、猫将軍眠留

初山七月
キャラ文芸
近未来の、並行世界の話です。新時代の助けになればと思い、書きました。

Postman AAA

オーバエージ
ファンタジー
謎のハッカー集団にインターネットと電話を止められた、荒廃した近未来。もはや連絡手段は皮肉にも郵便に頼るほか無かった。厳しい訓練を受けた郵便屋は、C~AAAに選別し、手紙を配達していた。AAAは大統領の証書・手紙を扱う重要な約束だ。 だが手紙は闇市で高く売れた。そのことを受けて郵便屋にはたくさんの強盗団に狙われることに…

丸藤さんは推理したい

鷲野ユキ
ミステリー
慣れぬ土地に越してきたナオ。クラスメイトが噂する場所で出会ったのは、まさかの幽霊? 他にもナオの周りでは不可解なことばかり起こる。これらはやっぱり霊のせいなのか。 けれど警察に相談するわけにもいかないし、と意を決してナオが叩いたのは、丸藤探偵事務所の扉。 だけどこの探偵、なんだか怪しい……。

冷泉堂大学剣道部改め剣道サークル

Karasumaru
キャラ文芸
京都を舞台に大学生達が激闘を繰り広げる青春剣道ストーリー。笑いと戦いが満載。ある者はモテるために、そして、ある者は本物のサムライになるために竹刀を振るう。スカッとした小説を読みたい方、ちょっと笑いたい方、そして、京都が好きな方にお薦め!さぁ、若者よ、竹刀を持て!

パクチーの王様 ~俺の弟と結婚しろと突然言われて、苦手なパクチー専門店で働いています~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 クリスマスイブの夜。  幼なじみの圭太に告白された直後にフラれるという奇異な体験をした芽以(めい)。 「家の都合で、お前とは結婚できなくなった。  だから、お前、俺の弟と結婚しろ」  え?  すみません。  もう一度言ってください。  圭太は今まで待たせた詫びに、自分の弟、逸人(はやと)と結婚しろと言う。  いや、全然待ってなかったんですけど……。  しかも、圭太以上にMr.パーフェクトな逸人は、突然、会社を辞め、パクチー専門店を開いているという。  ま、待ってくださいっ。  私、パクチーも貴方の弟さんも苦手なんですけどーっ。

♡ちょっとエッチなアンソロジー〜おっぱい編〜♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート詰め合わせ♡

伊藤さんと善鬼ちゃん~最強の黒少女は何故弟子を取ったのか~

寛村シイ夫
キャラ文芸
実在の剣豪・伊藤一刀斎と弟子の小野善鬼、神子上典膳をモチーフにしたラノベ風小説。 最強の一人と称される黒ずくめの少女・伊藤さんと、その弟子で野生児のような天才拳士・善鬼ちゃん。 テーマは二人の師弟愛と、強さというものの価値観。 お互いがお互いの強さを認め合うからこその愛情と、心のすれ違い。 現実の日本から分岐した異世界日ノ本。剣術ではない拳術を至上の存在とした世界を舞台に、ハードな拳術バトル。そんなシリアスな世界を、コミカルな日常でお送りします。 【普通の文庫本小説1冊分の長さです】

処理中です...