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第三章
そしてテープは回り始める 13
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「嘘……」
白い腕が拳を握り、煌津の体を殴り飛ばした。衝撃にさえ反応する事が出来ない。何故、どうして。急に動かなくなったのか……。
影が煌津を呑み込もうと、まとわりつき始める。白い腕がまた、何本も迫っていた。
「あ……」
閃くものがあった。
ビデオテープだ。再生したテープは早送りする事で先の場面を見る事が出来るが、テープの終わりまで行けば勝手に停止するようになっている。
つまり、今、煌津が押すべきボタンは――
「巻き……戻し……」
痛みを訴える筋肉を無視しながら、煌津は早送りのボタンとは反対の位置にあるボタンを押した。
【巻き戻し】
ボタンを押した瞬間、物凄いスピードで煌津の体は立ち上がった。今の今まで大暴れしていた動作を勝手に体が逆再生するかのように動いていく。同時に、筋肉や疲労が物凄いスピードで回復していくのがわかる。
あっという間に、煌津の体は地上から飛び上がり、再び中華料理屋の屋根の上に着地する。
「はあ、はあ、はあ……っ」
敵は蹴散らしたが、立ち位置は振り出しだ。おまけに影はすぐまた再生する。
「使い辛い……っ!」
精神統一し、那美は左足から踏み出す。穢れに満ちた異界から、抜け出すために。
「臨」――獨古印を結び、唱える。
次に右足を出す。左足と揃える。同時に印を組み替える。
「兵」――大金剛輪印を結び、唱える。
右足を出す。また手を組み替える。
「闘」――外師子印を結ぶ。
左足と右足を揃える。
「者」――内師子印。
左足を出す。
「皆」――外縛印。
右足を揃える。
「陣」――内縛印。
右足を出す。
「烈」――智拳印。
左足を揃える。
「在」――日輪印。
左足を前へ。
「前」――隠形印。
右足を揃える。
「まずは――反閇」
その場で刀印を結び、四縦五横の形に空を切る。那美が九字を切る動作に合わせて、空間に光の線が走る。四縦五横。異界それ自体に九字が切られる。
巨大な顔面は、何もしない。不気味なにやにや笑いを浮かべるだけだ。
反閇は空間の邪気を祓う術である。異界に切られた九字の線によって、呪力量に変動が起きる。血のように真っ赤な空が揺らぎ、青や緑や紫の光が空中に滲み出す。
呪力の減少を察知した影が、一斉に標的を那美に絞って迫ってくる。まるで刃物で出来た黒い津波のようだ。那美はその様子を冷静に、いやまるで他人事のように見ている。精神は術に集中し、体は精神に追従する。
「おおぉぉ――っ!」
包帯姿の煌津が跳躍する。射出される幾条もの包帯が、黒い津波の侵攻を防ごうと次々と伸ばされていく。
白い腕が拳を握り、煌津の体を殴り飛ばした。衝撃にさえ反応する事が出来ない。何故、どうして。急に動かなくなったのか……。
影が煌津を呑み込もうと、まとわりつき始める。白い腕がまた、何本も迫っていた。
「あ……」
閃くものがあった。
ビデオテープだ。再生したテープは早送りする事で先の場面を見る事が出来るが、テープの終わりまで行けば勝手に停止するようになっている。
つまり、今、煌津が押すべきボタンは――
「巻き……戻し……」
痛みを訴える筋肉を無視しながら、煌津は早送りのボタンとは反対の位置にあるボタンを押した。
【巻き戻し】
ボタンを押した瞬間、物凄いスピードで煌津の体は立ち上がった。今の今まで大暴れしていた動作を勝手に体が逆再生するかのように動いていく。同時に、筋肉や疲労が物凄いスピードで回復していくのがわかる。
あっという間に、煌津の体は地上から飛び上がり、再び中華料理屋の屋根の上に着地する。
「はあ、はあ、はあ……っ」
敵は蹴散らしたが、立ち位置は振り出しだ。おまけに影はすぐまた再生する。
「使い辛い……っ!」
精神統一し、那美は左足から踏み出す。穢れに満ちた異界から、抜け出すために。
「臨」――獨古印を結び、唱える。
次に右足を出す。左足と揃える。同時に印を組み替える。
「兵」――大金剛輪印を結び、唱える。
右足を出す。また手を組み替える。
「闘」――外師子印を結ぶ。
左足と右足を揃える。
「者」――内師子印。
左足を出す。
「皆」――外縛印。
右足を揃える。
「陣」――内縛印。
右足を出す。
「烈」――智拳印。
左足を揃える。
「在」――日輪印。
左足を前へ。
「前」――隠形印。
右足を揃える。
「まずは――反閇」
その場で刀印を結び、四縦五横の形に空を切る。那美が九字を切る動作に合わせて、空間に光の線が走る。四縦五横。異界それ自体に九字が切られる。
巨大な顔面は、何もしない。不気味なにやにや笑いを浮かべるだけだ。
反閇は空間の邪気を祓う術である。異界に切られた九字の線によって、呪力量に変動が起きる。血のように真っ赤な空が揺らぎ、青や緑や紫の光が空中に滲み出す。
呪力の減少を察知した影が、一斉に標的を那美に絞って迫ってくる。まるで刃物で出来た黒い津波のようだ。那美はその様子を冷静に、いやまるで他人事のように見ている。精神は術に集中し、体は精神に追従する。
「おおぉぉ――っ!」
包帯姿の煌津が跳躍する。射出される幾条もの包帯が、黒い津波の侵攻を防ごうと次々と伸ばされていく。
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