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第三章
そしてテープは回り始める 9
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一瞬、呆然となるも、もはや迷っている暇はなかった。手には魔力で出来たビデオテープがあり、腹にはビデオデッキがある。
ならば――……
「はあ、はあ、はあ……」
痛みが体の内側から圧迫してきて、体が破裂してしまいそうだ。ビデオを持つ手が震える。やるしかない。
「こうなったら……なるようになれとしか」
恐る恐る、手に持ったビデオテープを自分の腹のビデオデッキの中に、挿入する。
「うぅ――っ!」
ぞわっとした感触とともに、電撃が体中を駆け巡る。頭の中で、何度もスパークが起きる。体が戦慄く。心音がいやにでかい。だが、まだだ。ビデオは……ビデオテープはデッキに入れたら……。
「再生……しなくちゃ」
弾け飛びそうな頭で、煌津は三角形のボタンを押した。
【再生】
ビデオデッキが確かに、そう言った。
次の瞬間、衝撃が煌津の胴体を貫いた。骨も肉も砕けるような内側からの衝撃。それまでの痛みとは別の、全身の骨が砕かれていくかの如き痛み。筋肉が業火で焼き尽くされる痛み。眼球が破裂するかのような痛み。
「うぅううああああああがああああああああああっ!!」
全身が痛みから治癒されていく。再生していく。何かが皮膚にまとわりつく感覚。布だ。これは包帯だ。
煌津自身は見る事が出来なかったが、元々茶髪に近かった毛髪は、今まさに夕焼けのように真っ赤に染まりつつあった。目と口と鼻孔だけを残して顔面を包帯が覆っていく。魔力が黒いマスクを形作り、口元を覆う。肘と膝にはパッドのような黒い防護部品を。両手は、掌に白い亀裂のような模様の入った指ぬきグローブを。靴も分解されて再構成されていく。
ばさりと、布がはためく音がした。マントだ。
全身を包帯で覆われ、その上から魔力の防護衣とでも言うべきマントを着装した姿で、煌津は路地に立っていた。
幸いな事に、意識は失っていない。あの包帯のヒトガタに乗っ取られるでもなく、煌津のままだ。いつの間にか煌津の足元に移動していた千恵里が、そっとマントの影に身を隠す。
「何だ、この格好は……!」
その意味を知る前に、影のうちの一体が、言語とも呼べない奇声を上げて襲い掛かってきた。
「くっ!」
咄嗟に影へと向けた右手の掌から、三条の包帯が射出される。
「グギャッ!」
包帯は鋭い刃となって影の頭を貫いた。泥のように影の体が崩れ落ちる。
「これは……もしかして!」
汚らわしい爬虫類のような声を上げて、影の群れが迫ってくる。煌津は両手を左右にかざした。煌津の意思に応じて射出される両手の包帯を、伸び続けるままに振り回す。縦横無尽に白い包帯が駆け回り、無数に見えた影の群れが、瞬く間にその数を減らしていく。
「ギャアアッ!」
まさに、一瞬で、煌津は影の群れを殲滅した。
「はあっ、はあっ、はあっ」
禍々しい気配は未だ残るものの、束の間の静寂が僅かながらに気持ちを安堵させる。力を一気に使ったという感触は否めない。だが、これなら。今の煌津なら……
「戦える」
そうとわかったのなら、戻らなければ。あの店にはまだ、那美や先生や、千恵里の両親が残っているのだ。
「千恵里ちゃん、掴まって」
千恵里を抱きかかえ、落ちないようにしっかりとホールドする。
「急いで戻ろう」
足も靴さえも煌津の意思を反映したかのように、一歩踏み出すと同時に、強烈に加速した。
ならば――……
「はあ、はあ、はあ……」
痛みが体の内側から圧迫してきて、体が破裂してしまいそうだ。ビデオを持つ手が震える。やるしかない。
「こうなったら……なるようになれとしか」
恐る恐る、手に持ったビデオテープを自分の腹のビデオデッキの中に、挿入する。
「うぅ――っ!」
ぞわっとした感触とともに、電撃が体中を駆け巡る。頭の中で、何度もスパークが起きる。体が戦慄く。心音がいやにでかい。だが、まだだ。ビデオは……ビデオテープはデッキに入れたら……。
「再生……しなくちゃ」
弾け飛びそうな頭で、煌津は三角形のボタンを押した。
【再生】
ビデオデッキが確かに、そう言った。
次の瞬間、衝撃が煌津の胴体を貫いた。骨も肉も砕けるような内側からの衝撃。それまでの痛みとは別の、全身の骨が砕かれていくかの如き痛み。筋肉が業火で焼き尽くされる痛み。眼球が破裂するかのような痛み。
「うぅううああああああがああああああああああっ!!」
全身が痛みから治癒されていく。再生していく。何かが皮膚にまとわりつく感覚。布だ。これは包帯だ。
煌津自身は見る事が出来なかったが、元々茶髪に近かった毛髪は、今まさに夕焼けのように真っ赤に染まりつつあった。目と口と鼻孔だけを残して顔面を包帯が覆っていく。魔力が黒いマスクを形作り、口元を覆う。肘と膝にはパッドのような黒い防護部品を。両手は、掌に白い亀裂のような模様の入った指ぬきグローブを。靴も分解されて再構成されていく。
ばさりと、布がはためく音がした。マントだ。
全身を包帯で覆われ、その上から魔力の防護衣とでも言うべきマントを着装した姿で、煌津は路地に立っていた。
幸いな事に、意識は失っていない。あの包帯のヒトガタに乗っ取られるでもなく、煌津のままだ。いつの間にか煌津の足元に移動していた千恵里が、そっとマントの影に身を隠す。
「何だ、この格好は……!」
その意味を知る前に、影のうちの一体が、言語とも呼べない奇声を上げて襲い掛かってきた。
「くっ!」
咄嗟に影へと向けた右手の掌から、三条の包帯が射出される。
「グギャッ!」
包帯は鋭い刃となって影の頭を貫いた。泥のように影の体が崩れ落ちる。
「これは……もしかして!」
汚らわしい爬虫類のような声を上げて、影の群れが迫ってくる。煌津は両手を左右にかざした。煌津の意思に応じて射出される両手の包帯を、伸び続けるままに振り回す。縦横無尽に白い包帯が駆け回り、無数に見えた影の群れが、瞬く間にその数を減らしていく。
「ギャアアッ!」
まさに、一瞬で、煌津は影の群れを殲滅した。
「はあっ、はあっ、はあっ」
禍々しい気配は未だ残るものの、束の間の静寂が僅かながらに気持ちを安堵させる。力を一気に使ったという感触は否めない。だが、これなら。今の煌津なら……
「戦える」
そうとわかったのなら、戻らなければ。あの店にはまだ、那美や先生や、千恵里の両親が残っているのだ。
「千恵里ちゃん、掴まって」
千恵里を抱きかかえ、落ちないようにしっかりとホールドする。
「急いで戻ろう」
足も靴さえも煌津の意思を反映したかのように、一歩踏み出すと同時に、強烈に加速した。
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