ぐるりぐるりと

安田 景壹

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第三章

そしてテープは回り始める 8

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 煌津は、ビデオに魔力が籠っているのを確認する。これであいつらを叩くだけでも効果はあるだろうか。いや、やるしかない。最悪の場合、煌津の中の魔物喰らいの帯が暴れ出すだろう。他力本願だし、その結果煌津がどうなるかもわからないが……このまま何もしないよりかはましだ。ただ唯一の懸念は、千恵里が無事であるかどうかだが……。
「おにい……ちゃん」
 小さな声がした。千恵里の声だ。煌津は手早く、彼女を腕の中から下ろした。
「ごめんね。千恵里ちゃん。少しだけ待っ――」
 ――ヒュッ! と、空を切る音が聞こえた。
 背中から胸の辺りにかけて、一瞬で熱いものが貫いていった。
 度を越えた痛みというものは、脳の認識を破壊するのだと、煌津は思い知った。胸の辺りを太く、黒い鋭利な杭のようなものが貫いていた。
「あ……」
 ヒュッ! ヒュッ! ヒュッ! 風切り音だけがいやによく聞こえる。手や足が、刃物のようなもので切り裂かれていくのがわかる。痛い。痛すぎて、頭が吹っ飛びそうなくらいに。
「あ……あ……」
 千恵里がこっちを見ているのが見えた。助ける。彼女を助けるはずだったのに、このざまだ。何が、助ける? 手に握ったままのビデオテープは、何の役にも立ちはしない。
 ――カッ、カッ、カッ、カッ、カッ。
 嘲笑うかのような金属音。体勢を維持し切れずに、煌津は膝を突く。血が流れ過ぎている。死ぬ。赤い空がどんよりと蠢いた気がした。
 ――終わりだ。人生の。全ての。
 何も出来ないまま。
「呼んでるよ」
 声が聞こえた。千恵里の目が、煌津の目を見ていた。
「あの人が」
 ――その瞬間、煌津の意識に、無限の魔力の糸が織りなす情報が流れ込んだ――設計。開発。構築――時間が止まる。煌津の意識は、いや、これは魂だろうか。物質的な肉体。内在する魔力の総量。それらを他人事のように認識しつつも自分は自分であるという意識が存在する――魂で、今、煌津は事象を認知している――
「はあ、はあ、はあ……」
 現実に、認識が帰る。出血は相変わらず。痛みは五感の全てを支配しているかのようだ。
 だが、まだ生きている。
「おにいちゃん」
 千恵里が呼んでいる。何か、煌津の下腹部の辺りを指差している。
「な……」
 煌津の下腹部、へその下あたりに、奇妙な物が出来ていた。パカパカと動く長方形の蓋。その奥には空洞になっている。どうやら内蔵は見当たらない。そして、その横の五つのボタン。横に倒れた三角形、真四角、二重の縦線、それぞれ逆方向を向いた二つの三角形の連なり。
「これまさか……ビデオデッキ、か?」
 こくりと、千恵里が頷く。
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