ぐるりぐるりと

安田 景壹

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第三章

そしてテープは回り始める 5

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「退魔屋っていうのは……」
 頭の中で言葉を探す。きっと、退魔屋というのは。
「人を助けるのが仕事なんだね。生きていても、死んでいても」
「魂ある者全て。闇から守る」
 那美の目には決意があった。
 これが悪霊との戦いに身を置く人間の覚悟なのだ。
 那美が水を飲み干す。ふと見れば、いつの間にやら、担々麵もギョーザもなくなっている。
「食べるの早くない?」
「習慣で。いつ仕事に呼ばれるかわからないから。お水飲む?」
 煌津のグラスは空だった。
「ああいや。俺が淹れてくるよ。貸して」
「ありがとう」
 那美のグラスを受け取る。それから隣の席に座っているはずの女の子に言う。
「ごめん。ちょっと後通るから――」
 カタカタ。カタカタ。
 杏仁豆腐の皿の上のスプーンが震えていた。
 那美の表情が、一瞬で険しいものになる。
 カタカタ。カタカタ。カタン。スプーンが震えて、床に落ちた。
 店内の電灯が一瞬暗くなる。すぐに明かりがついて、また消える。
「……何だ?」
「火、消したほうがいいんじゃない」
 厨房のほうから二人のやり取りが聞こえる。
 ふと煌津は、足元でうずくまっている千恵里の姿に気付いた。何かに怯えるように、耳を塞いで震えている。
「九宇時さん」
「……何か聞こえる」
「え?」
「この音……」
 ――カッ、カッ、カッ、カッ、カッ。
 確かに耳を澄ませると、何か金属を擦り合わせるような音がする。音が次第に近付いてくるようだった。もう一つ気付いた事があった。千恵里は、まるでその音に怯えるかのように震えている、という点だ。
 ――カッ、カッ、カッ、カッ、カッ。
 電灯の明滅は止まない。ノイズのような音さえ聞こえてくる。周囲の景色に様々な色が混ざり始める。古びたクリーム色の壁には赤や、青や、緑が現れ、壁自体も歪んで波打っている。食べかけのチャーハンも歪み、米粒の一つ一つから人間の腕が生えているのが見えた。それら一本一本が煌津に向かっておいでおいでと手を振っている。カッ、カッ、カッ、カッ、カッ。金属音。そしてノイズ。
「異層転移……」
 煌津は思わず呟く。自らその事実に気付くと、異様な気配に取り込まれそうだった自分が少し楽になった気がした。いつの間に取り出したのやら、那美はすでにベルトを装着し、リボルバーを取り出していた。
「九宇時さん! ここでそんなの出したら……」
「今そんな事言っていられない。あいつは、もうそこまで来てる」
 残弾を確認し、那美は弾倉を元に戻す。
「あいつって……?」
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