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第三章
そしてテープは回り始める 4
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女将さんがお盆を持って席にやってきた。
「はい、おまちどうさま。担々麵とWギョーザね。チャーハンセットと杏仁豆腐もすぐ持ってくるから」
「はーい、ありがとうございます~」
さっきの調子とは打って変わって、明るい声で那美が答えた。
「先に食べるけど」
「大丈夫だよ。ご遠慮なく」
「では、いただきます」
箸を取った那美が上品に担々麵を食べ始める。麺を食べていたな、と思った時にはギョーザに箸が伸びている
「……お腹減ってた?」
「退魔屋チェンジはエネルギー使うの。尋常じゃなくね」
じろじろ見るな、とでも言わんばかりに那美がじろっと睨む。
「はい、おまちどう~。チャーハンセットと杏仁豆腐ね~」
湯気の立つチャーハンと杏仁豆腐のお皿が、お盆に載ってやってきた。
「あ、ありがとうございます」
「ごゆっくり~」
去り際、女将さんの目が杏仁豆腐に注がれていた気がした。
煌津は杏仁豆腐の皿を、そっと隣の席に移した。女の子の姿は、見えない。
「良かったら、食べて」
見えない少女に向かって、煌津は言い、
「いただきます」
目の前の食事に手を合わせた。
丸く盛られたチャーハンをスプーンですくって食べる。……美味しい。何だか活力が漲ってくる気がする。
「美味しいでしょ」
「うん」
「私、ここの中華好き」
「……俺も。めっちゃ美味いよ」
それから二人とも黙ってそれぞれの料理を食べた。
「……そういえば」
おもむろに、煌津は口を開く。
「静星さんは、どうしたの? その、俺が異界に行ったあと」
「唐突だね」
「いや、何か思い出してさ」
「逃げられた。穂結君を助けるので必死だったから。ヒメたちの目をかいくぐって逃げるなんて、やるね。あの子」
「ああ、それはその。何というか。ありがとう、助けてくれて。ごめん、お礼を言うのが遅くなった」
「いいよ、別にそんなのは」
那美は軽く笑った。
血は繋がっていないというが、その笑い方は何だか那岐のほうに似ている。
かちゃん、と小さな金属音がした。
隣の席に置かれた杏仁豆腐の皿に小さなスプーンが置かれた音だった。少しだけ、杏仁豆腐が食べられた形跡がある。
「出てきてくれた?」
「そうみたいだね」
少女の姿は見えない。またスプーンが置かれる音がした。
「この子はこれで幸せなのかな」
「それは私たちにはわからない。幸せかもしれないし、そうじゃないかもしれない」
「見守るしかないって事? 彼女が自分で成仏する道を選ぶまで?」
「生者であれ死者であれ、その意思には干渉できない。口を出せても、他人の気持ちは変えられない。大事なのは、その人が道を選んだ時、助けられる人間が助けを出すという事。私は彼女がこの家を離れる決心がついたなら、全霊で彼女を送ってあげる。それが私にできる手助けだから」
「はい、おまちどうさま。担々麵とWギョーザね。チャーハンセットと杏仁豆腐もすぐ持ってくるから」
「はーい、ありがとうございます~」
さっきの調子とは打って変わって、明るい声で那美が答えた。
「先に食べるけど」
「大丈夫だよ。ご遠慮なく」
「では、いただきます」
箸を取った那美が上品に担々麵を食べ始める。麺を食べていたな、と思った時にはギョーザに箸が伸びている
「……お腹減ってた?」
「退魔屋チェンジはエネルギー使うの。尋常じゃなくね」
じろじろ見るな、とでも言わんばかりに那美がじろっと睨む。
「はい、おまちどう~。チャーハンセットと杏仁豆腐ね~」
湯気の立つチャーハンと杏仁豆腐のお皿が、お盆に載ってやってきた。
「あ、ありがとうございます」
「ごゆっくり~」
去り際、女将さんの目が杏仁豆腐に注がれていた気がした。
煌津は杏仁豆腐の皿を、そっと隣の席に移した。女の子の姿は、見えない。
「良かったら、食べて」
見えない少女に向かって、煌津は言い、
「いただきます」
目の前の食事に手を合わせた。
丸く盛られたチャーハンをスプーンですくって食べる。……美味しい。何だか活力が漲ってくる気がする。
「美味しいでしょ」
「うん」
「私、ここの中華好き」
「……俺も。めっちゃ美味いよ」
それから二人とも黙ってそれぞれの料理を食べた。
「……そういえば」
おもむろに、煌津は口を開く。
「静星さんは、どうしたの? その、俺が異界に行ったあと」
「唐突だね」
「いや、何か思い出してさ」
「逃げられた。穂結君を助けるので必死だったから。ヒメたちの目をかいくぐって逃げるなんて、やるね。あの子」
「ああ、それはその。何というか。ありがとう、助けてくれて。ごめん、お礼を言うのが遅くなった」
「いいよ、別にそんなのは」
那美は軽く笑った。
血は繋がっていないというが、その笑い方は何だか那岐のほうに似ている。
かちゃん、と小さな金属音がした。
隣の席に置かれた杏仁豆腐の皿に小さなスプーンが置かれた音だった。少しだけ、杏仁豆腐が食べられた形跡がある。
「出てきてくれた?」
「そうみたいだね」
少女の姿は見えない。またスプーンが置かれる音がした。
「この子はこれで幸せなのかな」
「それは私たちにはわからない。幸せかもしれないし、そうじゃないかもしれない」
「見守るしかないって事? 彼女が自分で成仏する道を選ぶまで?」
「生者であれ死者であれ、その意思には干渉できない。口を出せても、他人の気持ちは変えられない。大事なのは、その人が道を選んだ時、助けられる人間が助けを出すという事。私は彼女がこの家を離れる決心がついたなら、全霊で彼女を送ってあげる。それが私にできる手助けだから」
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