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第二章
運悪くこの世界にたどり着いてしまった方へ 22
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「魔物喰らいの帯が、訓練場を構成していた魔力も持っていったのね。それが全部、穂結君の中にあるのが見える。 魔力の量が多過ぎて、他人が外に出そうとすればバランスを壊してしまう……」
頭が熱でぼんやりする。体内でエネルギーが暴れている。
「どう……したらいい?」
「それはもう穂結君の魔力。穂結君がコントロールして外に出すしかない。何かイメージして。それだけの魔力量なら、何かを造り出す事で消費出来るはず」
手足が震える。立っていられない。がたがたと震えるが、心身の高揚が止まらない。
「どうしたら――」
「手を前にかざして。目を閉じて、イメージして。強いエネルギーが込められた何かを。内なる魔力が形となるに相応しいものを!」
「ぐっ――!」
目を閉じる。極彩色がどろどろと蠢くイメージ。溶岩の爆発。力強い鬼のような者のシルエット。無数の色彩の糸が何か形を成そうとしている。溶岩の爆発。内に潜むのは、包帯。魔物喰らいの帯。那美を食おうとした。それは、駄目だ。彼女は関係ない。彼女は魔物ではないのだ。だから、今度もしそんな事をしようとしたら、俺が、俺がこの手でこいつを――!
――何かが、ぎゅるぎゅるぎゅると音を立てて回転する――
自分の中で爆発しようとしていた魔力が外に飛び出したのがわかった。相当な量だ。それが空中で形を成し、回転しながら落ちて来た。まるでそうなる事が計算されていたかのように、カン! と音を立てて、煌津と那美のちょうど間に突き刺さる。
「これは……」
それは、長方形の箱だった。掌よりは大きく、真っ黒で、プラスチックのような透明な板の内側に、綺麗に巻かれた二つのテープが見える。
「ビデオ……?」
那美が、思いっきり眉根を寄せて言った。
「いや、何でビデオ?」
「え……いや、わかんない」
「私、強いエネルギーが込められたものって言ったよね? 穂結君的にビデオってそういうものなの?」
「え……ほらだって、呪いのビデオとか」
――――――エッチな奴とか。
「ベイビーめ」
那美が忌々しそうに言う。えぇ……と、声にならない声が煌津の口から漏れた。
「ビデオはともかく、九宇時さん……平気?」
「私は大丈夫。魔力を循環させれば肉体は治せるから」
言うが早いか、桜色の光が仄かに那美を包み、そして消える。心なしか、那美の血色が良くなった気がする。
「九宇時さん、このビデオ……」
「それはこちらで預かる。君はこれ以上、こっちの世界に立ち入らなくていい」
那美の手が突き刺さったビデオに伸びる。その動きよりも一瞬速く、煌津はビデオを掴み取った。
「穂結君?」
那美の目が静かに煌津を見つめる。
「これ……俺の魔力が込められたものなんでしょ? てことは、俺がこれをどうにかして使う事が出来れば……」
「……邪悪なモノたちと戦える、と?」
こくりと、煌津は頷く。
「そう。それは正しい」
那美は冷たい声で答える。
「でもそれは、穂結君の仕事じゃない」
「あいつは、俺と同い年なのにその仕事をしていた。だったら俺も――」
「義兄さんはほかの人とは持っているものが違った。だからやれていたんだよ。自分にも同じ事が出来ると思うなんて、思い上がりだよ」
「そりゃ、あいつとは違うさ。だけど……」
「塩と読経で追い払うのとはレベルが違う」
「そんな事はわかる! 君の戦いを見ていれば」
「では、何故」
那美が問う。何故だろう。頭の中を探っても、うまい言葉が見つからない。
ただ、瞼に、友人の姿が焼き付いて離れない。
「……他人が怖い思いをするのは嫌だ。俺は幽霊が見えるようになってから、ずっと恐ろしかったんだ。そんな思いを、ほかの人もするなんて耐えられない」
ビデオを持つ手に力が入る。
「これは、俺の力なんだ。これを使ってあの日、九宇時が俺を助けてくれたみたいに、誰かを助けられるなら、君に預けるわけにはいかない」
那美は射殺すような目で煌津を見た。リボルバーのグリップを握る手に力が入っている。
「そう……そうか。言ってもわからないようなら」
排莢。空の薬莢が金属的な音を立てて地面に落ちる。
煌津は身構える。おそらく次はリロード。そして早撃ちだ。譲らない態度は見せたものの、果たしてそれが正解だったかどうか。内側の包帯は当てにならない以上、頼りはこのビデオだけだが、実際問題、ビデオなんてどう使えば……。
那美は銃弾の入っていないリボルバーをくるくると回し、ホルスターに収める。
「うん……?」
「今は言い合いになってもしょうがないから」
桜色の光が一瞬強く光る。光が収まった時には、那美は銀髪に戻り、服装もさっきのものに戻っていた。
「お昼、食べに行こうか」
「……え」
煌津は腕時計を見た。時計の針は、十二時ちょっと過ぎを指している。
頭が熱でぼんやりする。体内でエネルギーが暴れている。
「どう……したらいい?」
「それはもう穂結君の魔力。穂結君がコントロールして外に出すしかない。何かイメージして。それだけの魔力量なら、何かを造り出す事で消費出来るはず」
手足が震える。立っていられない。がたがたと震えるが、心身の高揚が止まらない。
「どうしたら――」
「手を前にかざして。目を閉じて、イメージして。強いエネルギーが込められた何かを。内なる魔力が形となるに相応しいものを!」
「ぐっ――!」
目を閉じる。極彩色がどろどろと蠢くイメージ。溶岩の爆発。力強い鬼のような者のシルエット。無数の色彩の糸が何か形を成そうとしている。溶岩の爆発。内に潜むのは、包帯。魔物喰らいの帯。那美を食おうとした。それは、駄目だ。彼女は関係ない。彼女は魔物ではないのだ。だから、今度もしそんな事をしようとしたら、俺が、俺がこの手でこいつを――!
――何かが、ぎゅるぎゅるぎゅると音を立てて回転する――
自分の中で爆発しようとしていた魔力が外に飛び出したのがわかった。相当な量だ。それが空中で形を成し、回転しながら落ちて来た。まるでそうなる事が計算されていたかのように、カン! と音を立てて、煌津と那美のちょうど間に突き刺さる。
「これは……」
それは、長方形の箱だった。掌よりは大きく、真っ黒で、プラスチックのような透明な板の内側に、綺麗に巻かれた二つのテープが見える。
「ビデオ……?」
那美が、思いっきり眉根を寄せて言った。
「いや、何でビデオ?」
「え……いや、わかんない」
「私、強いエネルギーが込められたものって言ったよね? 穂結君的にビデオってそういうものなの?」
「え……ほらだって、呪いのビデオとか」
――――――エッチな奴とか。
「ベイビーめ」
那美が忌々しそうに言う。えぇ……と、声にならない声が煌津の口から漏れた。
「ビデオはともかく、九宇時さん……平気?」
「私は大丈夫。魔力を循環させれば肉体は治せるから」
言うが早いか、桜色の光が仄かに那美を包み、そして消える。心なしか、那美の血色が良くなった気がする。
「九宇時さん、このビデオ……」
「それはこちらで預かる。君はこれ以上、こっちの世界に立ち入らなくていい」
那美の手が突き刺さったビデオに伸びる。その動きよりも一瞬速く、煌津はビデオを掴み取った。
「穂結君?」
那美の目が静かに煌津を見つめる。
「これ……俺の魔力が込められたものなんでしょ? てことは、俺がこれをどうにかして使う事が出来れば……」
「……邪悪なモノたちと戦える、と?」
こくりと、煌津は頷く。
「そう。それは正しい」
那美は冷たい声で答える。
「でもそれは、穂結君の仕事じゃない」
「あいつは、俺と同い年なのにその仕事をしていた。だったら俺も――」
「義兄さんはほかの人とは持っているものが違った。だからやれていたんだよ。自分にも同じ事が出来ると思うなんて、思い上がりだよ」
「そりゃ、あいつとは違うさ。だけど……」
「塩と読経で追い払うのとはレベルが違う」
「そんな事はわかる! 君の戦いを見ていれば」
「では、何故」
那美が問う。何故だろう。頭の中を探っても、うまい言葉が見つからない。
ただ、瞼に、友人の姿が焼き付いて離れない。
「……他人が怖い思いをするのは嫌だ。俺は幽霊が見えるようになってから、ずっと恐ろしかったんだ。そんな思いを、ほかの人もするなんて耐えられない」
ビデオを持つ手に力が入る。
「これは、俺の力なんだ。これを使ってあの日、九宇時が俺を助けてくれたみたいに、誰かを助けられるなら、君に預けるわけにはいかない」
那美は射殺すような目で煌津を見た。リボルバーのグリップを握る手に力が入っている。
「そう……そうか。言ってもわからないようなら」
排莢。空の薬莢が金属的な音を立てて地面に落ちる。
煌津は身構える。おそらく次はリロード。そして早撃ちだ。譲らない態度は見せたものの、果たしてそれが正解だったかどうか。内側の包帯は当てにならない以上、頼りはこのビデオだけだが、実際問題、ビデオなんてどう使えば……。
那美は銃弾の入っていないリボルバーをくるくると回し、ホルスターに収める。
「うん……?」
「今は言い合いになってもしょうがないから」
桜色の光が一瞬強く光る。光が収まった時には、那美は銀髪に戻り、服装もさっきのものに戻っていた。
「お昼、食べに行こうか」
「……え」
煌津は腕時計を見た。時計の針は、十二時ちょっと過ぎを指している。
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