ぐるりぐるりと

安田 景壹

文字の大きさ
上 下
43 / 100
第二章

運悪くこの世界にたどり着いてしまった方へ 21

しおりを挟む
「魔物喰らいの帯が、訓練場を構成していた魔力も持っていったのね。それが全部、穂結君の中にあるのが見える。 魔力の量が多過ぎて、他人が外に出そうとすればバランスを壊してしまう……」
 頭が熱でぼんやりする。体内でエネルギーが暴れている。
「どう……したらいい?」
「それはもう穂結君の魔力。穂結君がコントロールして外に出すしかない。何かイメージして。それだけの魔力量なら、何かを造り出す事で消費出来るはず」
 手足が震える。立っていられない。がたがたと震えるが、心身の高揚が止まらない。
「どうしたら――」
「手を前にかざして。目を閉じて、イメージして。強いエネルギーが込められた何かを。内なる魔力が形となるに相応しいものを!」
「ぐっ――!」
 目を閉じる。極彩色がどろどろと蠢くイメージ。溶岩の爆発。力強い鬼のような者のシルエット。無数の色彩の糸が何か形を成そうとしている。溶岩の爆発。内に潜むのは、包帯。魔物喰らいの帯。那美を食おうとした。それは、駄目だ。彼女は関係ない。彼女は魔物ではないのだ。だから、今度もしそんな事をしようとしたら、俺が、俺がこの手でこいつを――!
 ――何かが、ぎゅるぎゅるぎゅると音を立てて回転する――
 自分の中で爆発しようとしていた魔力が外に飛び出したのがわかった。相当な量だ。それが空中で形を成し、回転しながら落ちて来た。まるでそうなる事が計算されていたかのように、カン! と音を立てて、煌津と那美のちょうど間に突き刺さる。
「これは……」
 それは、長方形の箱だった。掌よりは大きく、真っ黒で、プラスチックのような透明な板の内側に、綺麗に巻かれた二つのテープが見える。
「ビデオ……?」
 那美が、思いっきり眉根を寄せて言った。
「いや、何でビデオ?」
「え……いや、わかんない」
「私、強いエネルギーが込められたものって言ったよね? 穂結君的にビデオってそういうものなの?」
「え……ほらだって、呪いのビデオとか」
 ――――――エッチな奴とか。
「ベイビーめ」
 那美が忌々しそうに言う。えぇ……と、声にならない声が煌津の口から漏れた。
「ビデオはともかく、九宇時さん……平気?」
「私は大丈夫。魔力を循環させれば肉体は治せるから」
 言うが早いか、桜色の光が仄かに那美を包み、そして消える。心なしか、那美の血色が良くなった気がする。
「九宇時さん、このビデオ……」
「それはこちらで預かる。君はこれ以上、こっちの世界に立ち入らなくていい」
 那美の手が突き刺さったビデオに伸びる。その動きよりも一瞬速く、煌津はビデオを掴み取った。
「穂結君?」
 那美の目が静かに煌津を見つめる。
「これ……俺の魔力が込められたものなんでしょ? てことは、俺がこれをどうにかして使う事が出来れば……」
「……邪悪なモノたちと戦える、と?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

小児科医、姪を引き取ることになりました。

sao miyui
キャラ文芸
おひさまこどもクリニックで働く小児科医の深沢太陽はある日事故死してしまった妹夫婦の小学1年生の娘日菜を引き取る事になった。 慣れない子育てだけど必死に向き合う太陽となかなか心を開こうとしない日菜の毎日の奮闘を描いたハートフルストーリー。

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

処理中です...