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第二章
運悪くこの世界にたどり着いてしまった方へ 18
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走路の上を、何者かが這いずっている。人間のようだが、奇妙だ。上半身だけで、うつ伏せで腕を使って這いずっている。少し離れたところにある下半身は仰向けで、水泳のように地面を蹴って動いていた。
「あれは……テケテケ?」
「あ、知っている? 有名な怪異だからかな」
這いずっている上半身の頭が、こちらを向く。顔面蒼白の、異様な目つきをした女の子。そう認識した次の瞬間、ずささささっと物凄い勢いで、女の子の上半身がこちらに迫ってくる!
「ひっ――!」
「大丈夫」
上半身だけの女の子が、煌津に襲い掛かる寸前で停止していた。さながら動画の一時停止のように。
「仮想現実って言ったでしょ。この子と、このステージはかつて宮瑠璃市に現れた怪異の話を模して作ったの。この街の怪異は特別で、《我留羅》って呼ばれている」
「がるら……」
煌津は強烈な表情をしたテケテケの顔を見つめる。仮想現実とはとても思えない。すぐにでも食い殺されそうな凶暴さを感じる。
「我留羅は呪力の塊。異界より漏れ出したエネルギーが、現世の恨みつらみを取り込んで怪異となったモノ。一昨日、駅前で会った時、穂結君はあの場に蔓延した呪力を感じ取って、飲まれて掛かっていた。あのまま放っておけば、穂結君が我留羅になるところだった」
目の前のテケテケがふっと消える。周囲の景色が書き変わっていく。
遠くに稜線の見える、崖っぷちを工事して造ったような、楕円形の広いスペースの上に煌津と那美はいた。振り返ると、大きな寺院が立っている。山中に建てられた寺院のようだ。楕円形のスペースの縁には岩が並べられ、最低限人が落ちないような柵代わりになっていた。
「ここもマトリックスの訓練場の一つ。術や武芸の訓練をするところ」
「何でそんなところに……」
「戦うからだよ」
いつの間にか、那美の手にはリボルバーが握られている。そして足元には、あのポーチが連なったベルトがあった。
「戦う?」
「そう」
手の中でくるりとリボルバーを回転させ、那美は続ける。
「このリボルバーと銃弾には、浄力が込められている。魔力と呪力がそれぞれプラスとマイナスの作用を起こす力であるのに対して、浄力はそれらをゼロにする力。魔力、呪力、妖力、須らく人に影響を与えるエネルギーを無に帰す力」
銀色のリボルバーの銃口が、無機質に煌津に向けられた。
「な、何で!?」
「この銃は普通の人間相手には弾が出ないようになっている。普通の人間は魔力も呪力も妖力も眠ったままだから。ただし……」
煌津は、自身の異変に気付いた。袖口から、あの包帯が伸びていた。袖口からだけではない。背中や腹や、襟元から、衣服の隙間という隙間から、何本も何本も包帯が飛び出している。
「あれは……テケテケ?」
「あ、知っている? 有名な怪異だからかな」
這いずっている上半身の頭が、こちらを向く。顔面蒼白の、異様な目つきをした女の子。そう認識した次の瞬間、ずささささっと物凄い勢いで、女の子の上半身がこちらに迫ってくる!
「ひっ――!」
「大丈夫」
上半身だけの女の子が、煌津に襲い掛かる寸前で停止していた。さながら動画の一時停止のように。
「仮想現実って言ったでしょ。この子と、このステージはかつて宮瑠璃市に現れた怪異の話を模して作ったの。この街の怪異は特別で、《我留羅》って呼ばれている」
「がるら……」
煌津は強烈な表情をしたテケテケの顔を見つめる。仮想現実とはとても思えない。すぐにでも食い殺されそうな凶暴さを感じる。
「我留羅は呪力の塊。異界より漏れ出したエネルギーが、現世の恨みつらみを取り込んで怪異となったモノ。一昨日、駅前で会った時、穂結君はあの場に蔓延した呪力を感じ取って、飲まれて掛かっていた。あのまま放っておけば、穂結君が我留羅になるところだった」
目の前のテケテケがふっと消える。周囲の景色が書き変わっていく。
遠くに稜線の見える、崖っぷちを工事して造ったような、楕円形の広いスペースの上に煌津と那美はいた。振り返ると、大きな寺院が立っている。山中に建てられた寺院のようだ。楕円形のスペースの縁には岩が並べられ、最低限人が落ちないような柵代わりになっていた。
「ここもマトリックスの訓練場の一つ。術や武芸の訓練をするところ」
「何でそんなところに……」
「戦うからだよ」
いつの間にか、那美の手にはリボルバーが握られている。そして足元には、あのポーチが連なったベルトがあった。
「戦う?」
「そう」
手の中でくるりとリボルバーを回転させ、那美は続ける。
「このリボルバーと銃弾には、浄力が込められている。魔力と呪力がそれぞれプラスとマイナスの作用を起こす力であるのに対して、浄力はそれらをゼロにする力。魔力、呪力、妖力、須らく人に影響を与えるエネルギーを無に帰す力」
銀色のリボルバーの銃口が、無機質に煌津に向けられた。
「な、何で!?」
「この銃は普通の人間相手には弾が出ないようになっている。普通の人間は魔力も呪力も妖力も眠ったままだから。ただし……」
煌津は、自身の異変に気付いた。袖口から、あの包帯が伸びていた。袖口からだけではない。背中や腹や、襟元から、衣服の隙間という隙間から、何本も何本も包帯が飛び出している。
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