ぐるりぐるりと

安田 景壹

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第二章

運悪くこの世界にたどり着いてしまった方へ 15

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「お義父さん。穂結君来たよ。那岐が向こうでお世話になっていた」
「……おお」
 台所で新聞を読んでいた宮司らしい格好の壮年の男性が振り向く。細身で、心なしか九宇時那岐に顔立ちが似ている。白衣に紫の袴。袴には紫色の紋も入っている。紫の袴の神職は上級の位階なのだと、昔何かの本で読んだ。
「はじめまして。那岐の父です」
「あの……穂結煌津です。九宇時君とは仲良くさせてもらっていました。この度は……」
 急な事でとも、とんだ事でとも、言葉が出てこなかった。舌が急に重くなったかのようだった。
「いえ。まあ、まずはあちらへどうぞ」
 那岐の父親に促され、煌津は居間のほうへと向かった。
 広い居間の奥、神棚に下に祭壇が作られていた。そこには、遺骨を納めた骨壺、那岐が良く飲んでいたエナジードリンクの缶、花瓶に生けられた花、使っていたスマートフォン、そして那岐の写真が写真立てに入って飾られていた。
 三月五日。夜。未明。九宇時那岐は宮瑠璃市の端にある灯台の下で亡くなった。
 転んだ拍子に頭を打ったのだと煌津は聞いていたが、詳しい状況は知らされていない。MMAの返事が一週間近くなかったので、引っ越す前に知らされていた九宇時那岐の実家の番号にかけた煌津は、そこで初めて彼が亡くなった事を知った。
 実に六か月振りに見る友人の顔は、煌津が知らない写真の中にあった。こうして改めて見ると、綺麗な顔立ちをしていると場違いにそう思う。
 一礼をして、祭壇に手を合わす。ごちゃごちゃ何か言葉を考えるくらいなら、無心で祈ったほうがいいような気がして、現にそうする。
 一呼吸置いて、那岐の父と那美のほうへと向き直る。
「那岐が退魔屋の仕事をしていたのは、穂結君もご存知だと聞いています」
 おもむろに、那岐の父が話し始めた。
「はい」
「何でも、一度那岐と一緒に幽霊を見たとか。それなら、あまり余計な説明はいらないかもしれないですね」
那岐の父がそう言って笑う。笑った時の顔が、やはり那岐に似ている。
「そう、ですね」
つい最近はもっと深く関わるような事があったのだが、話がややこしくなりそうなので当然言わないでおく。
「穂結君は、退魔屋という仕事をどう思いますか」
「え?」
 急な質問に、煌津は戸惑った。
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