35 / 100
第二章
運悪くこの世界にたどり着いてしまった方へ 13
しおりを挟む
ハゼランノヒメがいるからなのか、家を出てから怪現象には遭遇していない。電車の中では座席の下に足首だけが見えていないかと不安になったが、今のところ見えない。
『あの世とこの世の境目を、考えた事はあるかい』
一瞬の虚を突かれ、その声に自分の右隣を見る。
九宇時那岐がいた。まだ同じ学校に通っていた頃のまま。
向かいではハゼランノヒメが笑っている。乗客はほかにもいる。立っている客。座っている客。
『わかりやすい境目はない。こちらからあちらへは地続きで、行くのは簡単なんだ』
「やめろよ、九宇時」
いつになく苛々して、煌津は言う。いつの間にか、自分の服が前の学校の制服に変わっていたが、煌津の意識は、その変化を当然のものとして受け入れている。当然だ。九宇時と一緒にいるのだから。
「簡単なわけないだろ。誰だって死ぬのは怖いんだから」
『でも人間の体は脆い。死への恐怖があっても、強度の限界に達すれば境目を越える』
「何が言いたいんだよ」
『この世は留まるに値するかい? 穂結さん』
電車が止まり、乗客がさらに増える。ざわめきが大きくなっていく。
『皆、初めはこの世で生を謳歌したいと思う。でも、だんだん自分と他人の境遇の違いがわかってきて、自分が立っている側がどうやら日の当たらない場所だとわかったら、そこに根を下ろし続ける意味はあるのかい』
「何を……」
何故急にそんな事を言うのか、と言おうとして、煌津は自分がつり革につかまっている事に気が付いた。両隣は知らない乗客。座席に座った那岐は、煌津を見上げている。
『俺たちは影の中で戦い続けるしかない。でもそうなると知っていて、この世界に生まれてきたわけじゃないんだ』
――ふと、目が覚める。
煌津は座席の壁に頭を預けるようにして眠っていた。乗客は自分のほかには誰もいなかった。
『高天。高天です』
やばい。もう駅に着いている。煌津は慌てて電車を降りた。ハゼランノヒメが悠然とした足取りでそれに続く。
高天駅から九宇時神社までの道はわかりやすい。改札を出たら、まず山を探すのだ。九宇時神社は標高八十六メートルの小高い山、一番山の山頂にある。商店街を抜け、区役所の前を通ると、隣の宇瑠市から宮瑠璃市まで続く宇瑠宮瑠璃街道に出る。街道に沿って少し進み、看板が出ているところで曲がる。もう山は見えている。少しずつ、道に傾斜がついてくるので、山に向かって歩いて行く。
ほどなく、一つ目の大きい鳥居が見えた。
『あの世とこの世の境目を、考えた事はあるかい』
一瞬の虚を突かれ、その声に自分の右隣を見る。
九宇時那岐がいた。まだ同じ学校に通っていた頃のまま。
向かいではハゼランノヒメが笑っている。乗客はほかにもいる。立っている客。座っている客。
『わかりやすい境目はない。こちらからあちらへは地続きで、行くのは簡単なんだ』
「やめろよ、九宇時」
いつになく苛々して、煌津は言う。いつの間にか、自分の服が前の学校の制服に変わっていたが、煌津の意識は、その変化を当然のものとして受け入れている。当然だ。九宇時と一緒にいるのだから。
「簡単なわけないだろ。誰だって死ぬのは怖いんだから」
『でも人間の体は脆い。死への恐怖があっても、強度の限界に達すれば境目を越える』
「何が言いたいんだよ」
『この世は留まるに値するかい? 穂結さん』
電車が止まり、乗客がさらに増える。ざわめきが大きくなっていく。
『皆、初めはこの世で生を謳歌したいと思う。でも、だんだん自分と他人の境遇の違いがわかってきて、自分が立っている側がどうやら日の当たらない場所だとわかったら、そこに根を下ろし続ける意味はあるのかい』
「何を……」
何故急にそんな事を言うのか、と言おうとして、煌津は自分がつり革につかまっている事に気が付いた。両隣は知らない乗客。座席に座った那岐は、煌津を見上げている。
『俺たちは影の中で戦い続けるしかない。でもそうなると知っていて、この世界に生まれてきたわけじゃないんだ』
――ふと、目が覚める。
煌津は座席の壁に頭を預けるようにして眠っていた。乗客は自分のほかには誰もいなかった。
『高天。高天です』
やばい。もう駅に着いている。煌津は慌てて電車を降りた。ハゼランノヒメが悠然とした足取りでそれに続く。
高天駅から九宇時神社までの道はわかりやすい。改札を出たら、まず山を探すのだ。九宇時神社は標高八十六メートルの小高い山、一番山の山頂にある。商店街を抜け、区役所の前を通ると、隣の宇瑠市から宮瑠璃市まで続く宇瑠宮瑠璃街道に出る。街道に沿って少し進み、看板が出ているところで曲がる。もう山は見えている。少しずつ、道に傾斜がついてくるので、山に向かって歩いて行く。
ほどなく、一つ目の大きい鳥居が見えた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

シビトの案内人 恋華 (3人用声劇台本)(男2:女1)or(男1:不問1:女1)
あいすりぅ
キャラ文芸
シビトの案内人 恋華ーーーーーーーー
〖 比率〗
(男2:女1)or(男1:不問1:女1)
〖 時間〗30〜40分
〖 配役〗
•シノ:(女)死んだ人間の魂を案内する妖。
•屍人:(男.不問)記憶を消された少年。死んでいる。
•思人:(男)16才ぐらいの人の子。若くして亡くなっている。生前はシノと縁があった。
※
•0:ト書きみたいなものですが、思人役のセリフが少ないので、ナレーションとして思人役の人が読んでもオッケーです!
ーーーーーーーーーーーー
⭐︎性別変換○
⭐︎屍人、思人兼ね役の2人台本にしても大丈夫です!
楽しんで演じてくださったら嬉しいです〜。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
真面目な部下に開発されました
佐久間たけのこ
BL
社会人BL、年下攻め。甘め。完結までは毎日更新。
※お仕事の描写など、厳密には正しくない箇所もございます。フィクションとしてお楽しみいただける方のみ読まれることをお勧めします。
救急隊で働く高槻隼人は、真面目だが人と打ち解けない部下、長尾旭を気にかけていた。
日頃の努力の甲斐あって、隼人には心を開きかけている様子の長尾。
ある日の飲み会帰り、隼人を部屋まで送った長尾は、いきなり隼人に「好きです」と告白してくる。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる