ぐるりぐるりと

安田 景壹

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第二章

運悪くこの世界にたどり着いてしまった方へ 5

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 白い布で囲われた襖は、無表情な能面のようで不気味だった。
「ねえ、そこに誰かいますよね!」
 今度は確実に聞こえた。女の子の声だ。襖の向こうから聞こえた。
「あの、そっちから開けてもらってもいいですか? この襖動かなくて」
 ガタッ、ガタッ、と襖が詰まる。動きに苛立ちが見えた気がした。
 出たがっている。それはわかる。だが、中にいるのが善良なものだとは限らない。
「……」
 煌津は無言でスマホを炬燵の上に置いた。ロックを解除して画面を操作する。
『ドン ドン ドン ドドドドドド』
『かんじーざいぼーさつぎょうじんはんにゃー』
 護摩行の録画を再生する。使える魔除けはこれしかない。これで中にいるものに影響があれば……。
「この襖、何か固いんですよ。動かなくて。ねえ、そっちどうなってます?」
「な……」
 ノーリアクションだ。という事は、この部屋の中にいるのは、悪霊やその類ではない、という事だろうか。いや、そもそも録画だから魔除けたり得ない、という事も考えられる。
「ねえ、襖動かないですか? わたし、もうずっとこの部屋に閉じ込められていて……」
 嘘だ。そう自分に言い聞かせる。ずっとこの部屋に閉じ込められていて? ずっとというのはどれくらいの事だ。二十四時間で一年なら、中にいる人は何時間ここにいた? 何年? この異様な世界で、たった一人部屋の中に取り残されて、その人は正気を保っていられるのか?
 その人は、今もヒトなのか?
「……っ、うっ」
 襖の向こうから嗚咽が聞こえる。
「……何で返事してくれないの。何で皆無視するの。お母さんに会いたい。会いたいよ」
 胸の中が疼く気がした。
『はんにゃーしん』
 護摩行の再生を止める。これはどうやら効果がない。それに、中の彼女が、ただ救出を待っているだけの人なら、勝手に怪物扱いするのは良くない事だ。
 襖に手を伸ばす。無造作に走った白い線。布に指先が触れる。
 ぞわり、と。
 白い布が生き物のように波打った。
「うわっ!?」
 思わず手を引っ込める。今のは何だ。目の錯覚か。今さらこんなところに迷い込んだというのに、目の錯覚も何も……。
 ――ガチャ。ガチャ。ウィーン。
 何か、物音が後ろのほうで聞こえる。
 振り返ると、ザーザーという音ともに、テレビの画面がついていた。
 白と黒の無数の楕円が右から左へ、左から右へと動く。ザー、ザー。これは、確か『砂嵐』だ。
 ぶつん、と音がして、青い背景にぐわんと波が走る。白い文字が画面に浮かんでいる。
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