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第二章
運悪くこの世界にたどり着いてしまった方へ 4
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『運悪くこの世界にたどり着いてしまった方へ。
最初に、沖に見えるあの白い巨人は心配ありません。
計測してみたところ、あれは七年に一歩だけこちらへ近づいてくるようです。
しばらくはやって来ません。
この家の駐車場から生えたリンゴは食べないほうがいいです。知恵の実ですがヨモツヘグイです。
この世界では十二時間で半年、二十四時間で一年が経過します。長居はしないでください。
元いた世界が見たい場合は、居間の姿見を見てください。本来のあなたが映ります。
隣の間には入らないほうがいいです。居ます。開けなければ大丈夫です。
外の森は、探検してみましたが脱出は出来ませんでした。
詳細がわかったら、このノートに書き足しておいてください。
退屈したら散歩するのが良いですが、うまくすると帰れるようです。
居間の時計がこの世界の時間です。
部屋の隅に、私が使っていた布団があります。休む時に使ってください。
それから、デッキの中のビデオは見ないように。
それでは、元いた世界であなたと巡り会える事を楽しみにしています』
「えっと……?」
色々書いてあるが、もう一度読んだほうがいいだろう。
白い巨人のくだり……はとりあえず関係なさそうだ。七年に一度らしいし。駐車場のリンゴ。あれリンゴだったのか。ヨモツヘグイ。意味は黄泉の食べ物だ。いや、まあいい。とにかく食べなければいいんだろう。この先が重要そうだ。『この世界では十二時間で半年、二十四時間で一年が経過します。長居はしないでください』……今、ここに来てから何分経った?
スマホは駄目だ。煌津は腕時計を見た。
十四時五分。時計はそこで止まっていた。保健室を出たのが十四時。十四時五分なら、まだ静星と話していたくらいだろう。
どの道、長居は出来ない。二十四時間で一年……いや、そもそもこんなところに二十四時間も居たくない。
『隣の間には入らないほうがいいです。居ます。開けなければ大丈夫です』
「居ますって……」
左手にある襖を見る。まるで箱でも囲うように、白い布で乱雑に囲われた襖。
あの部屋はヤバい。絶対に入ってはいけない。
散歩すれば、うまくすると帰る事が出来るとノートにはあった。ならば、この家はとっとと出てしまい、あてはなくとも歩き回って運よく元の世界に帰る事を狙ったほうがいいだろう。少なくともこの家にいる限り、危険は目に見えているのだし――
「……あの、誰かいますか?」
他人の声が聞こえたのはその時だった。反射的に、煌津は襖を見ていた。
最初に、沖に見えるあの白い巨人は心配ありません。
計測してみたところ、あれは七年に一歩だけこちらへ近づいてくるようです。
しばらくはやって来ません。
この家の駐車場から生えたリンゴは食べないほうがいいです。知恵の実ですがヨモツヘグイです。
この世界では十二時間で半年、二十四時間で一年が経過します。長居はしないでください。
元いた世界が見たい場合は、居間の姿見を見てください。本来のあなたが映ります。
隣の間には入らないほうがいいです。居ます。開けなければ大丈夫です。
外の森は、探検してみましたが脱出は出来ませんでした。
詳細がわかったら、このノートに書き足しておいてください。
退屈したら散歩するのが良いですが、うまくすると帰れるようです。
居間の時計がこの世界の時間です。
部屋の隅に、私が使っていた布団があります。休む時に使ってください。
それから、デッキの中のビデオは見ないように。
それでは、元いた世界であなたと巡り会える事を楽しみにしています』
「えっと……?」
色々書いてあるが、もう一度読んだほうがいいだろう。
白い巨人のくだり……はとりあえず関係なさそうだ。七年に一度らしいし。駐車場のリンゴ。あれリンゴだったのか。ヨモツヘグイ。意味は黄泉の食べ物だ。いや、まあいい。とにかく食べなければいいんだろう。この先が重要そうだ。『この世界では十二時間で半年、二十四時間で一年が経過します。長居はしないでください』……今、ここに来てから何分経った?
スマホは駄目だ。煌津は腕時計を見た。
十四時五分。時計はそこで止まっていた。保健室を出たのが十四時。十四時五分なら、まだ静星と話していたくらいだろう。
どの道、長居は出来ない。二十四時間で一年……いや、そもそもこんなところに二十四時間も居たくない。
『隣の間には入らないほうがいいです。居ます。開けなければ大丈夫です』
「居ますって……」
左手にある襖を見る。まるで箱でも囲うように、白い布で乱雑に囲われた襖。
あの部屋はヤバい。絶対に入ってはいけない。
散歩すれば、うまくすると帰る事が出来るとノートにはあった。ならば、この家はとっとと出てしまい、あてはなくとも歩き回って運よく元の世界に帰る事を狙ったほうがいいだろう。少なくともこの家にいる限り、危険は目に見えているのだし――
「……あの、誰かいますか?」
他人の声が聞こえたのはその時だった。反射的に、煌津は襖を見ていた。
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