ぐるりぐるりと

安田 景壹

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第二章

運悪くこの世界にたどり着いてしまった方へ 3

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 迷ってばかりもいられない。煌津は《あだむの家》の玄関のドアノブに手をかける。
 回す。ドアノブが動く。鍵はかかっていない。
 玄関のドアを開けると、埃の臭いがした。部屋の中は暗かった。
「お邪魔します……」
 念のため、そう言った。ちょっと考えたあと、靴は脱がないまま上がった。床の埃は結構溜まっていたし、何か出た時に靴を履き直す暇はないだろう。
 玄関のドアを開けたまま、部屋の中へと進んでいく。
 横に広がった造りの家だった。玄関から細く短い廊下を抜けると、居間に直通している。カーテンがしまったままの居間には炬燵が出しっぱなしで、本や、衣類が散らばっていた。古びたテレビの前には、四角い箱が山積みになっている。
 あれはビデオテープだ。
 嫌でも昔見てしまった怖い映画を思い出して、煌津は身震いする。
 左手にも部屋があるようだが、襖が閉ざされており、包帯のようなもので襖自体が囲われている。その囲い方も無茶苦茶で、きちんと狙いがあって包帯を駆使したというより、とりあえず囲えるように囲ったという感じだった。
「ヤバいな……」
 思わず口に出してそう言った。まるで何かが閉じ込められているかのようだった。
 右手は台所になっていて、テーブルの上にザルや皿が置いてある。台所の窓から差し込んだ日の光が、空中に浮かんだ埃を煌かせている。
(とりあえず)
 居間のカーテンを開ける。何かが起こるかもしれないと思うと、胃壁がおかしくなりそうだったが、カーテンを開けて起こったのは部屋が明るくなったくらいだった。
 窓の外は、やはり海だった。水平線の左端には、あの白い巨人が見える。
 振り返って居間の中を見回す。洋服箪笥から寝間着のような衣服がはみ出していたり、箪笥のウにはガラスケースに入った二体の和人形が飾られていた。どこにでもありそうな、普通の家だ。ただ、怖いので和人形のほうはあまり見ないようにした。
と、炬燵の卓上に、何かがあるのが見えた。
ノートだった。縦書きで、文字が書いてある。
反対側から見てもわかる。日本語だ。ノートの向きは玄関側に向けられていて、お茶請けを盛る皿を上から乗せられていた。飛ばないようにしている。つまりこれは、入ってきた人間に見せるためのものだ。
 ノートの読める位置に戻って、煌津は皿をどかし手紙を手に取った。
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