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第一章
カンナギ・ガンスリンガー 17
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巫女に変身した彼女は、軽やかに跳んだ。ダン! リボルバーが火を噴き、巨大な顔が血を流す。
「ああああああああ!」
巨大な顔の悲鳴に構わず、さらに銃声が二度轟く。手慣れた仕草で、巫女は弾倉をスライドさせ、空薬莢を排出すると、素早くポーチからリボルバーのスピードローダーを取り出して、銃弾を装填する。
「……《落ちる》? 祓ったはずなのに、何故混合型に――」
巫女が訝し気に何事か呟き、スピードローダーを投げ捨てる。そこへ無数の白い腕が奇怪な動作で伸びて来た。ぐねぐねと蠢く気味の悪い腕が巫女を掴もうとするが、白衣の振袖がひらりと舞うや、巫女はすでに空中に跳んでいた。
「フジバカマノヒメ、ハゼランノヒメ」
巫女の手から二枚のお札がはらりと落ちる。鈴の音が鳴り、お札が桜色の光を帯びたかと思いきや、まるで竜宮城の使いのようなたおやかな着物を纏った、二人の姫に変ずる。姫は二人とも弓を持っていた。空中の姫が、どこからともなく取り出した矢を弓につがえるや、雨のごとき高速矢の連射が、巨大な顔に降り注ぐ。
「ああああああああ!」
白い腕の群れが矢によって地面と結び付けられ、巨顔が悲鳴を迸らせる。
「すごい……」
思わず、煌津は呟く。
巫女が、踊るように四方を行ったり来たり跳ぶ。煌津は、巨大な顔の根元に何かがある事に気が付いた。御幣だ。神事で用いる紙垂を挟んだ神具。それが巨大な顔を四角く囲うように設置されている。
巫女が、巨大な顔の正面に立った。その両脇に、二人の姫が着地する。巨顔の呻き声が響く。リボルバーの銃口が、巨顔に向けられる。
「掛けまくも畏き伊邪那岐、伊邪那美大神の大前に畏み畏みも白さく、諸の罪、穢れ、禍事に囚われ、我留羅と成りし魂魄を憐れみ給い、慈しみ給い、導き給え。セイ、ジン、チ、ジャ、タイ、ウン、メイ――」
……この呪文は。
「ぐるりぐるりと!」
巫女が引き金を絞り、リボルバーの弾倉がぐるりと回る。炸裂音とともに放たれた銃弾が桜色の軌跡を描いて巨顔の額に着弾する。
一瞬の沈黙。
次の瞬間、洪水のような爆音とともに桜色の光柱が天に向かって湧き立った。吹き飛ばされそうな衝撃。煌津は咄嗟に静星を庇うが、巫女は微動だにしなかった。
光柱が消え、爆音の耳鳴りが止むと、そこにはもう巨大な顔はなかった。波打っていた地面も元通りになり、背後の坂ももはや存在しない。
「倒した……?」
静星が呆気に取られたように言った。
「まだ動かないでね。異層転移が収まるまではしばらくかかるから」
鈴が鳴っているような声で、巫女は言った
「ああああああああ!」
巨大な顔の悲鳴に構わず、さらに銃声が二度轟く。手慣れた仕草で、巫女は弾倉をスライドさせ、空薬莢を排出すると、素早くポーチからリボルバーのスピードローダーを取り出して、銃弾を装填する。
「……《落ちる》? 祓ったはずなのに、何故混合型に――」
巫女が訝し気に何事か呟き、スピードローダーを投げ捨てる。そこへ無数の白い腕が奇怪な動作で伸びて来た。ぐねぐねと蠢く気味の悪い腕が巫女を掴もうとするが、白衣の振袖がひらりと舞うや、巫女はすでに空中に跳んでいた。
「フジバカマノヒメ、ハゼランノヒメ」
巫女の手から二枚のお札がはらりと落ちる。鈴の音が鳴り、お札が桜色の光を帯びたかと思いきや、まるで竜宮城の使いのようなたおやかな着物を纏った、二人の姫に変ずる。姫は二人とも弓を持っていた。空中の姫が、どこからともなく取り出した矢を弓につがえるや、雨のごとき高速矢の連射が、巨大な顔に降り注ぐ。
「ああああああああ!」
白い腕の群れが矢によって地面と結び付けられ、巨顔が悲鳴を迸らせる。
「すごい……」
思わず、煌津は呟く。
巫女が、踊るように四方を行ったり来たり跳ぶ。煌津は、巨大な顔の根元に何かがある事に気が付いた。御幣だ。神事で用いる紙垂を挟んだ神具。それが巨大な顔を四角く囲うように設置されている。
巫女が、巨大な顔の正面に立った。その両脇に、二人の姫が着地する。巨顔の呻き声が響く。リボルバーの銃口が、巨顔に向けられる。
「掛けまくも畏き伊邪那岐、伊邪那美大神の大前に畏み畏みも白さく、諸の罪、穢れ、禍事に囚われ、我留羅と成りし魂魄を憐れみ給い、慈しみ給い、導き給え。セイ、ジン、チ、ジャ、タイ、ウン、メイ――」
……この呪文は。
「ぐるりぐるりと!」
巫女が引き金を絞り、リボルバーの弾倉がぐるりと回る。炸裂音とともに放たれた銃弾が桜色の軌跡を描いて巨顔の額に着弾する。
一瞬の沈黙。
次の瞬間、洪水のような爆音とともに桜色の光柱が天に向かって湧き立った。吹き飛ばされそうな衝撃。煌津は咄嗟に静星を庇うが、巫女は微動だにしなかった。
光柱が消え、爆音の耳鳴りが止むと、そこにはもう巨大な顔はなかった。波打っていた地面も元通りになり、背後の坂ももはや存在しない。
「倒した……?」
静星が呆気に取られたように言った。
「まだ動かないでね。異層転移が収まるまではしばらくかかるから」
鈴が鳴っているような声で、巫女は言った
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