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第一章
カンナギ・ガンスリンガー 15
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「異層転移だ……」
周りの異常に気が付いた静星が呟いた。
「え……?」
「異層転移ですよ。オカルト雑誌に載っている奴。霊的なエネルギーが負の方向に転換されると、エネルギーが及ぶ範囲で生物が存在する層がずれるんです」
「ごめん、何言っているのか全然わからない!」
「だから――」
静星がじれったそうに叫んだ、その時だ。
黒い、地面に出来た闇の裂け目とでもいうべき穴の中から、白い一本の腕が飛び出して、まるで掴まろうとするかのように地面に指を立てた。
「ひっ」
静星が息を呑む。が、怯んでいる暇はなかった。裂け目の中から次々と白い腕が飛び出して、地面に掴まる。
そして、前兆もなく、真っ白な肌の、巨大な男の眼から上だけの顔が、裂け目の中から飛び出した。
「あれ? おっかしいなあ……」
ぎょろぎょろと目玉を動かしながら、男が言い、
そうして、目玉が煌津たちのほうへ向いた。
「何で見ている人がいるのかなああああああああ」
「ぎゃあああああああああ!?」
静星は、喉が裂けんばかりの声を張り上げた。がっと煌津の腕を掴むと、信じられないほどの勢いで駆け出す。
「うおっ!」
「何で見ている人がいるのかなああああああああ」
「何でデカくなってんの!?」
無数に生えた白い腕が足のように地面を這って、巨大な顔が追ってくる。空の色は目まぐるしく変わっていく。まだ明かりがついているはずの校舎の窓は一様に暗い。
「どうなっているんだ……」
「先輩、急いで!」
向こうに見えているはずの校舎までは三十メートルとないはずなのに、走っても走っても一向にたどり着かない。どころか、地面は波打って坂のようになり足がもつれる。よじ登ろうにも足元がおぼつかない。
「嘘、何これ!?」
「何で見ている人がいるのかなああああああああ」
巨大な顔は、すぐそこまで迫っている。このまま走っていても追いつかれるのは目に見えている。何とか、何とかしなければ。
――吐菩加美依身多女。
「あ……」
唱えないよりは唱えたほうが――
坂を滑り降り、煌津は震える体を抑えながら、迫ってくる巨大な顔を見据えた。
「ちょっと先輩! 何やってるんですか!」
「静星さんは逃げて!」
言って、煌津は定期入れをポケットから取り出し、中を開いて確認する。
『吐菩加美依身多女』
「吐菩加美依身多女……」
書かれた文字を唱えると、定期入れが仄かに桜色の光を帯びる。
「祓い給い、清め給え!」
カードでも投げつけるように、煌津は勢いをつけて定期入れを投擲する。桜色の光を帯びたまま、くるくると回転する定期入れは巨大な顔の男の瞼に鋭く突き刺さった。
「ぎぃやあああああああああ」
今度は巨大な顔のほうが悲鳴を上げる番だった。
「今のうちだ!」
振り返り、煌津は叫ぶ。頷いた静星が、坂を上ろうとしたその時だった。
周りの異常に気が付いた静星が呟いた。
「え……?」
「異層転移ですよ。オカルト雑誌に載っている奴。霊的なエネルギーが負の方向に転換されると、エネルギーが及ぶ範囲で生物が存在する層がずれるんです」
「ごめん、何言っているのか全然わからない!」
「だから――」
静星がじれったそうに叫んだ、その時だ。
黒い、地面に出来た闇の裂け目とでもいうべき穴の中から、白い一本の腕が飛び出して、まるで掴まろうとするかのように地面に指を立てた。
「ひっ」
静星が息を呑む。が、怯んでいる暇はなかった。裂け目の中から次々と白い腕が飛び出して、地面に掴まる。
そして、前兆もなく、真っ白な肌の、巨大な男の眼から上だけの顔が、裂け目の中から飛び出した。
「あれ? おっかしいなあ……」
ぎょろぎょろと目玉を動かしながら、男が言い、
そうして、目玉が煌津たちのほうへ向いた。
「何で見ている人がいるのかなああああああああ」
「ぎゃあああああああああ!?」
静星は、喉が裂けんばかりの声を張り上げた。がっと煌津の腕を掴むと、信じられないほどの勢いで駆け出す。
「うおっ!」
「何で見ている人がいるのかなああああああああ」
「何でデカくなってんの!?」
無数に生えた白い腕が足のように地面を這って、巨大な顔が追ってくる。空の色は目まぐるしく変わっていく。まだ明かりがついているはずの校舎の窓は一様に暗い。
「どうなっているんだ……」
「先輩、急いで!」
向こうに見えているはずの校舎までは三十メートルとないはずなのに、走っても走っても一向にたどり着かない。どころか、地面は波打って坂のようになり足がもつれる。よじ登ろうにも足元がおぼつかない。
「嘘、何これ!?」
「何で見ている人がいるのかなああああああああ」
巨大な顔は、すぐそこまで迫っている。このまま走っていても追いつかれるのは目に見えている。何とか、何とかしなければ。
――吐菩加美依身多女。
「あ……」
唱えないよりは唱えたほうが――
坂を滑り降り、煌津は震える体を抑えながら、迫ってくる巨大な顔を見据えた。
「ちょっと先輩! 何やってるんですか!」
「静星さんは逃げて!」
言って、煌津は定期入れをポケットから取り出し、中を開いて確認する。
『吐菩加美依身多女』
「吐菩加美依身多女……」
書かれた文字を唱えると、定期入れが仄かに桜色の光を帯びる。
「祓い給い、清め給え!」
カードでも投げつけるように、煌津は勢いをつけて定期入れを投擲する。桜色の光を帯びたまま、くるくると回転する定期入れは巨大な顔の男の瞼に鋭く突き刺さった。
「ぎぃやあああああああああ」
今度は巨大な顔のほうが悲鳴を上げる番だった。
「今のうちだ!」
振り返り、煌津は叫ぶ。頷いた静星が、坂を上ろうとしたその時だった。
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