16 / 100
第一章
カンナギ・ガンスリンガー 13
しおりを挟む
可愛いらしい顔に、きっとした目で睨まれて、煌津は思わず怯んだ。
「あっあっああっああ――――――――――!?」
大きな叫び声が聞こえ、何か、とてても重たそうな物が、どさっと地面に叩きつけられた。
紺色の背広を着た男が、地面に横たわっていた。
落下してきたのだ。たぶん、上から。
「あれって……」
煌津が言いかけたその時、ぶるりと男の体が震え、何事もなかったかのように、男は上体を起こした。
「あれ? おっかしいなあ。死んだと思ったんだけどなあ」
独り言をぶつぶつ言いながら、男は校舎の壁に手をかけると、まるで昆虫のようにがさがさと不気味な速度で壁をよじ登った。
そしてまた……
「あっあっああっああ――――――――――!?」
どさっ。
背広の男は地面の上に落ちて来た。
「あれ? おっかしいなあ。死んだと思ったんだけどなあ」
さっきと同じタイミング、同じ文言を繰り返して、男は再び壁をよじ登った。
「毎月十日のこの時間だけ出て来るんです。飛び降りを繰り返すサラリーマンの幽霊が」
ポニーテールの女子生徒が言った。視線は、背広の男を追っているようだ。
つまり、この子も。
「先輩も見えているんですね。あれ」
「うん……」
「あいつは結構見える人多いですよ。授業サボってこの辺うろついていたら、ほぼほぼ出くわしちゃうから」
「君はサボり?」
「自習なんで、興味のある事しようと思って」
「興味?」
「オカルト」
前髪をかき上げて、得意げに女子生徒は笑う。
「一年の静星乙羽です。先輩こそ、サボりじゃないです?」
「サボりじゃないよ、体調不良。って、ああ、ごめん。俺は二年の穂結煌津。……いや待って、あの幽霊は?」
見れば、背広の男の幽霊は起き上がって壁をよじ登るところだった。
「あれ、何度見ても不気味」
静星が嫌そうに呟いた。
「放っておいていいの?」
「わたしらには何にも出来ませんよ。だいたい十分もすれば消えちゃうんです」
「そうなんだ……」
背広の男は何度も登っては落ちるを繰り返す。飛び降り。自分の意思で。
「可哀想って思います?」
静星が大きな瞳でこちらを見上げる。
「いや……可哀想っていうか、痛くないのかなって……」
「もう。先輩、幽霊なんかに同情しちゃ駄目ですよ? そういうのつけ込まれるから」
確かに、そうかもしれない。幽霊は、その存在を意識してしまうと、それを感じ取って近付いてくる。身をもって知った事だ。
「悪党と同じなんです。同情を引いて人間を騙そうとする。まあ、あの幽霊は落ち続けているだけだけど」
「何か、幽霊に恨みでもある感じだね……」
「あー……昔、可哀想な幽霊だと思ってついて行ったら、ひどい目に遭いまして」
「えぇ……。何そのエピソード……」
「あいつ、呪いのビデオをくれるって言ったのに、くれなかったんですよ? ひどくないです?」
「えぇ……。何そのエピソード……」
「欲しかったなあ。呪いのビデオ」
「……昔、そんなのないって聞いたよ。友達から」
「えー。夢ねーなー、先輩の友達」
「いや、夢っていうか……」
「あっあっああっああ――――――――――!?」
大きな叫び声が聞こえ、何か、とてても重たそうな物が、どさっと地面に叩きつけられた。
紺色の背広を着た男が、地面に横たわっていた。
落下してきたのだ。たぶん、上から。
「あれって……」
煌津が言いかけたその時、ぶるりと男の体が震え、何事もなかったかのように、男は上体を起こした。
「あれ? おっかしいなあ。死んだと思ったんだけどなあ」
独り言をぶつぶつ言いながら、男は校舎の壁に手をかけると、まるで昆虫のようにがさがさと不気味な速度で壁をよじ登った。
そしてまた……
「あっあっああっああ――――――――――!?」
どさっ。
背広の男は地面の上に落ちて来た。
「あれ? おっかしいなあ。死んだと思ったんだけどなあ」
さっきと同じタイミング、同じ文言を繰り返して、男は再び壁をよじ登った。
「毎月十日のこの時間だけ出て来るんです。飛び降りを繰り返すサラリーマンの幽霊が」
ポニーテールの女子生徒が言った。視線は、背広の男を追っているようだ。
つまり、この子も。
「先輩も見えているんですね。あれ」
「うん……」
「あいつは結構見える人多いですよ。授業サボってこの辺うろついていたら、ほぼほぼ出くわしちゃうから」
「君はサボり?」
「自習なんで、興味のある事しようと思って」
「興味?」
「オカルト」
前髪をかき上げて、得意げに女子生徒は笑う。
「一年の静星乙羽です。先輩こそ、サボりじゃないです?」
「サボりじゃないよ、体調不良。って、ああ、ごめん。俺は二年の穂結煌津。……いや待って、あの幽霊は?」
見れば、背広の男の幽霊は起き上がって壁をよじ登るところだった。
「あれ、何度見ても不気味」
静星が嫌そうに呟いた。
「放っておいていいの?」
「わたしらには何にも出来ませんよ。だいたい十分もすれば消えちゃうんです」
「そうなんだ……」
背広の男は何度も登っては落ちるを繰り返す。飛び降り。自分の意思で。
「可哀想って思います?」
静星が大きな瞳でこちらを見上げる。
「いや……可哀想っていうか、痛くないのかなって……」
「もう。先輩、幽霊なんかに同情しちゃ駄目ですよ? そういうのつけ込まれるから」
確かに、そうかもしれない。幽霊は、その存在を意識してしまうと、それを感じ取って近付いてくる。身をもって知った事だ。
「悪党と同じなんです。同情を引いて人間を騙そうとする。まあ、あの幽霊は落ち続けているだけだけど」
「何か、幽霊に恨みでもある感じだね……」
「あー……昔、可哀想な幽霊だと思ってついて行ったら、ひどい目に遭いまして」
「えぇ……。何そのエピソード……」
「あいつ、呪いのビデオをくれるって言ったのに、くれなかったんですよ? ひどくないです?」
「えぇ……。何そのエピソード……」
「欲しかったなあ。呪いのビデオ」
「……昔、そんなのないって聞いたよ。友達から」
「えー。夢ねーなー、先輩の友達」
「いや、夢っていうか……」
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説


隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)
チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。
主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。
ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。
しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。
その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。
「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」
これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。
10秒で読めるちょっと怖い話。
絢郷水沙
ホラー
ほんのりと不条理な『ギャグ』が香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)


どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

神様の住まう街
あさの紅茶
キャラ文芸
花屋で働く望月葵《もちづきあおい》。
彼氏との久しぶりのデートでケンカをして、山奥に置き去りにされてしまった。
真っ暗で行き場をなくした葵の前に、神社が現れ……
葵と神様の、ちょっと不思議で優しい出会いのお話です。ゆっくりと時間をかけて、いろんな神様に出会っていきます。そしてついに、葵の他にも神様が見える人と出会い――
※日本神話の神様と似たようなお名前が出てきますが、まったく関係ありません。お名前お借りしたりもじったりしております。神様ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる