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第一章
カンナギ・ガンスリンガー 12
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その名前を口にした瞬間、先生の表情が変わった。
穏やかだが、少し悲し気な顔に。
「……君は九宇時君の友達?」
「はい。中学の頃からの」
「そう。そういえば、彼も高校の途中でこっちに戻ってきたって言っていたな」
柳田先生は眼鏡の奥の目をちょっとだけ細めた。
「彼の事は聞いているでしょ」
「はい」
「あんまり関わったわけじゃないんだけど、彼は保健室にもよく来ていたよ。あんな事になって、本当に悲しい」
「……はい」
そう。
本当に、とても悲しい。
「もう、九宇時君のご実家には行かれたの?」
「いえ。でも、そろそろ訪ねようと思っているんです」
「そう。じゃあ、元気になったら行ってあげるといいよ。友達が訪ねてくれば彼も嬉しいだろうし」
「はい……」
そうだ。行かなければ。
もう。ずっと会えていないのだから。
「学生時代の友人はずっと友人だって言うけれど、私は本当にそうだと思うよ。たとえ、何があったとしてもね」
保健室の柳田先生は、そう言って少し寂し気に微笑んだ。
「……そういえば、先生。誰が俺を保健室に連れてきてくれたんですか」
ふと、ここに来るまでの状況を思い出して、煌津は訊いた。自分で歩いてきたとは思えない。
「うーん? ほら、あの子だよ。あの……君と同じ学年の……」
言いながら、柳田先生は自分でもよくわからないといったふうに顔をしかめた。
「ほら、あの子。あの……あれ、何でだろ思い出せない。ヤバいな……。とにかく君と同じ学年の子なんだけど」
保健室を出る前に何とか、先生は思い出そうとしていたが、結局、煌津を運んだのが誰かはわからなかった。
保健室は、下駄箱がある校舎の玄関口の真下にある。腕時計を見ると十四時だった。ちょっと寝過ぎた。
期せずして、九宇時の足跡をたどったようだ。これも縁だろうか。
――教室に戻らないと。今日は、九宇時の家に行くのは無理だ。体調を治して、明日にでも。
「先輩……先輩!」
知らない女子の声が聞こえて、煌津は足を止める。この声は幽霊じゃない。あくまでもそういう感じというだけだが、わかる。
「先輩、こっちです!」
先輩って……誰だ。こちらは転校生だ。先輩も後輩も持ちようがない。
「先輩!」
「おわっ!?」
ぐいっと腕を掴まれると、強めの力で煌津は引っ張られた。
当たり前だが、知らない女子生徒だった。くりっとした目が印象的で、栗毛色のポニーテールが揺れる。
「こっちです! 早く隠れて!」
言うが早いか、女子生徒は図書館前の草むらの影に、煌津を連れ込んだ。
「え、え、何、誰?」
「あそこはぼーっと突っ立ってちゃヤバいんですよ。この時間は出るんだから」
「出るって……」
「しっ」
穏やかだが、少し悲し気な顔に。
「……君は九宇時君の友達?」
「はい。中学の頃からの」
「そう。そういえば、彼も高校の途中でこっちに戻ってきたって言っていたな」
柳田先生は眼鏡の奥の目をちょっとだけ細めた。
「彼の事は聞いているでしょ」
「はい」
「あんまり関わったわけじゃないんだけど、彼は保健室にもよく来ていたよ。あんな事になって、本当に悲しい」
「……はい」
そう。
本当に、とても悲しい。
「もう、九宇時君のご実家には行かれたの?」
「いえ。でも、そろそろ訪ねようと思っているんです」
「そう。じゃあ、元気になったら行ってあげるといいよ。友達が訪ねてくれば彼も嬉しいだろうし」
「はい……」
そうだ。行かなければ。
もう。ずっと会えていないのだから。
「学生時代の友人はずっと友人だって言うけれど、私は本当にそうだと思うよ。たとえ、何があったとしてもね」
保健室の柳田先生は、そう言って少し寂し気に微笑んだ。
「……そういえば、先生。誰が俺を保健室に連れてきてくれたんですか」
ふと、ここに来るまでの状況を思い出して、煌津は訊いた。自分で歩いてきたとは思えない。
「うーん? ほら、あの子だよ。あの……君と同じ学年の……」
言いながら、柳田先生は自分でもよくわからないといったふうに顔をしかめた。
「ほら、あの子。あの……あれ、何でだろ思い出せない。ヤバいな……。とにかく君と同じ学年の子なんだけど」
保健室を出る前に何とか、先生は思い出そうとしていたが、結局、煌津を運んだのが誰かはわからなかった。
保健室は、下駄箱がある校舎の玄関口の真下にある。腕時計を見ると十四時だった。ちょっと寝過ぎた。
期せずして、九宇時の足跡をたどったようだ。これも縁だろうか。
――教室に戻らないと。今日は、九宇時の家に行くのは無理だ。体調を治して、明日にでも。
「先輩……先輩!」
知らない女子の声が聞こえて、煌津は足を止める。この声は幽霊じゃない。あくまでもそういう感じというだけだが、わかる。
「先輩、こっちです!」
先輩って……誰だ。こちらは転校生だ。先輩も後輩も持ちようがない。
「先輩!」
「おわっ!?」
ぐいっと腕を掴まれると、強めの力で煌津は引っ張られた。
当たり前だが、知らない女子生徒だった。くりっとした目が印象的で、栗毛色のポニーテールが揺れる。
「こっちです! 早く隠れて!」
言うが早いか、女子生徒は図書館前の草むらの影に、煌津を連れ込んだ。
「え、え、何、誰?」
「あそこはぼーっと突っ立ってちゃヤバいんですよ。この時間は出るんだから」
「出るって……」
「しっ」
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