ぐるりぐるりと

安田 景壹

文字の大きさ
上 下
10 / 100
第一章

カンナギ・ガンスリンガー 7

しおりを挟む
 一限目が終わった後から、煌津は合間の休み時間を利用して、それとなく彼女の姿を探した。何せ銀髪の子だ。目立つはずだと踏んで、他のクラスを覗いてみるが、それらしい子はいなかった。考えてみれば同級生かどうかもわからないのだから、見つからなくても仕方ないかもしれない。

『吐菩加美依身多女』

 定期入れを取り出して、内側に書かれた文字を眺める。

(あの子が書いたのか?)

 一字一字漢字変換して、スマホで検索してみる。出典の怪しそうなサイトが表示される。

  〈三種祓詞〉

 〝三種祓詞みくさのはらえことば「吐菩加美依身多女 祓い給え 清め給え」は、神道に伝わる穢れを祓う言葉です。

 読み方は「トホカミエミタメ ハライタマエ キヨメタマエ」と読み、これを唱える事で、自分の穢れや、外からやって来る穢れを祓うのです。〟

「神道……」

 トホカミエミタメなら何となく覚えがある。こういう漢字を書くとは知らなかったが、ちょっとマニアックなオカルト系の漫画で言葉自体は知っていたのだ。

 銀髪で、他人の定期入れの内側に、マジックで神道の言葉を書く女子。

(絶対目立つでしょ)

 そう考えた後、今朝の事を思い返す。

 あの時、駅前で囚われた不思議な、暗い感情に飲み込まれている感覚。彼女が現れなかったら、自分はどうなっていただろうか。自分の中で、『何かをやってしまっていい』、『たがを外してしまっていい』という感覚が大きくなっていた。

 あれはつまり、『穢れ』ではなかったのか。ウイルスのように飛来して、内側で勢力を増していく『穢れ』。そしてもし、あの異様な感覚を、彼女が定期入れに書いたこの言葉が祓ったのだとしたら。

 普通の人なら鼻で笑うだろうが、煌津には、この発想を確信するに至る過去の体験がある。

(見つけないと)

 とりあえず、すぐに次の授業だ。そのあと昼休みになる。そこでもう一度探しに行こう。

「てか、あたしさあ。見ちゃったんだよねえ、朝の」

「え……まじで?」

 クラスの後方で声がした。どこか得意げな声が。

「ヤバぁ。オカ研じゃーん」

「いや別にオカ研じゃねーし。違うの。朝練で早かったからさあ、警察が来た直後くらいだったのかなー。ビニール? みたいなのかける時に……」

 ――呪。

 黒い霧のような闇が、煌津の周囲に立ち込め始めている。

 悪い予感がする。

 絶対にいる。この教室の中に――……

「首がさあ、雑巾みたいに捩じれた――」

 呪。呪。呪。

「女の人の顔と目が――」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

晴明さんちの不憫な大家

烏丸紫明@『晴明さんちの不憫な大家』発売
キャラ文芸
最愛の祖父を亡くした、主人公――吉祥(きちじょう)真備(まきび)。 天蓋孤独の身となってしまった彼は『一坪の土地』という奇妙な遺産を託される。 祖父の真意を知るため、『一坪の土地』がある岡山県へと足を運んだ彼を待っていた『モノ』とは。   神さま・あやかしたちと、不憫な青年が織りなす、心温まるあやかし譚――。    

処理中です...