ぐるりぐるりと

安田 景壹

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第一章

カンナギ・ガンスリンガー 4

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 この神話の気配色濃い土地へ、父親の転勤が決まったのは三か月前の事だ。それから引っ越すまでは休日もやる事が多かったのを覚えている。前の高校にいた時は、町内文化研究部という部活動をしていたが、煌津の転校が決まるや、先輩たちは部誌の特別号を出す事を決めてくれた。荷造りやバイトの引継ぎや編入試験の勉強に加えて、煌津は部誌の原稿も書かなければならなかった。引っ越しぎりぎりのタイミングで原稿を提出し、部誌は後日こちらへ送ってもらう事になった。

 やる事が多くて助かったと思う。やるべき事が見えていれば、余計な思案をせずに済む。
 人混みのざわめきの中にあっても、煌津はそれらの音がどこか遠くから聞こえているように感じた。ついさっき電車の中であった事さえ、もう忘れそうだ。

 ――何も考えていない。考えられていない。
 転校してから、新生活はただ状況を認識するのに精一杯で、感情を挟む余地がない。目の前にやってきたタスクを処理、処理、処理。その連続だ。土日は疲れて動けなかった。

 自分がこの街にいる事を不思議に思う。この宮瑠璃市にいる事を、だ。煌津はおみくじをゲン担ぎに引く事はあるが、縁、というものは信じていなかったし、実感していなかった。だが、今こうしてここにいるというのが、一つの縁なのかもしれない。

 九宇時那岐の実家はこの市内にある。早いうちに尋ねなければならない。
 あいつに、会いに行かなければ。

 歩を進める間にも、記憶は勝手に掘り返される。高一まではあいつと一緒だった。その夏、那岐のお父さんが体調を崩して、それからあいつはこの宮瑠璃市へ戻ったのだ。それから、それから……。

 東口を出ると、人だかりが出来ていた。何だか雰囲気が違った。物々しい。どことなく緊張感がある。人だかりの中の人々は、ほとんどがスマホを高く掲げて何かを撮ろうとしている。パトカーが数台、ロータリーに止まっているのが見える。

「本物らしいよ」

「雑巾みたいになっているんだって、体が」

 そんな声が聞こえてきて、さすがに煌津も足を止めた。
 ヤバい予感がする。何か、事件があったのだ。それはわかる。問題は、煌津がそういうヤバそうな事件の現場に近付いてしまった事だ。

(こういう場所は良くない)

 かつての煌津ならともかく、今は良くない。
 電車の中の出来事が、さっそく頭の中で蘇ってくる。こういう場所では、
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