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序章
九宇時那岐 2
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那岐と知り合ったのは中学二年生の頃だったが、出会った当初はここまで話してはくれなかった。今では一緒に遊びに行ったりする仲だ。今日は試験が終わったのでカラオケに行こうと思っているが、いつもなら駅までのバスに乗れるはずなのに、今日は待っていても来なかった。そんなわけで、駅までニ十分くらいかかる道を、こうしてだらだらと歩いている。前を歩く女の人も、きっとバスに乗り遅れたクチだろう。
「お経って、効くの? その、悪霊とかに」
「お坊さんが唱えたほうが効くのは間違いないね。修行しているから。でも、もし出くわしたら唱えないよりは唱えたほうがいいよ」
「いやだよ、悪霊に出くわすの」
「呪いのビデオよりは出くわす確率高いよ。魔除けの方法を知りたいかい? 他人に肩を払ってもらうとか、塩撒くだけでも効果はあるね」
「やめてくれよ……」
「ふふふ。まあ本人が好き好んで悪霊なっているってパターンだけじゃないからね。色々と巡り合わせでそうなるものだから……」
そこまで言って、那岐はひと息つくと、急に前方をじっと見た。
「穂結さん、俺達どのくらい歩いていたっけ」
那岐は流行りのテレビ番組の真似をして、煌津の事を『穂結さん』と、後ろのほうを跳ねあがらせて呼ぶ。それはともかく、煌津は腕時計を見た。
「えーと、あれ、三十分くらい経ってる?」
普通なら、もう駅に着いている頃だ。だが、煌津も那岐も、まだ通り道である住宅街の中にいる。
「うん?」
「穂結さん、そのまま――」
那岐が何か言いかけていたが、聞き終わるよりも早く、それまで自分達が歩いて来た距離を確かめようと、煌津は足を止めて後ろを振り返っていた。
道の向こうに赤い服を着た女の人の後ろ姿が見えた。腰まで届きそうな長い茶髪だが、少しボサボサしているようにも見える。だが、引っ掛かったのはそんな事じゃない。
「ううん?」
煌津は、再び自分達の進行方向へと顔を向けた。
前方に、赤い服を着た女の人の後ろ姿が見える。
「え、嘘。何で――」
煌津は、もう一度後ろを見た。
「ぼぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
全身をのけ反らせ、目玉をひん剥いた逆さの顔が、目の前にあった。
「うわぁああっ!?」
驚く間もなく、煌津は襟首を掴まれると、後方へと引っ張られる。
「ちょっと、ごめんよ」
「九宇時!?」
逆さの顔をした女の髪は、生きているように蠢いていた。禍々しい気配を漂わせ、白目の広い目玉は怒っているのか驚いているのか、とにかくそんな感じだ。胸の奥がぎゅうっと掴まれているかのように、息をするのも苦しくなってくる。耳鳴り、いや重低音で耳の中を殴られているかのような低く鈍い人間の唸り声がそこかしこから聞こえる。全身が麻痺していく。骨や筋肉の動きを一切禁じられたかのような。動けない。逃げなければいけないのに、動けない。
「お経って、効くの? その、悪霊とかに」
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「いやだよ、悪霊に出くわすの」
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「やめてくれよ……」
「ふふふ。まあ本人が好き好んで悪霊なっているってパターンだけじゃないからね。色々と巡り合わせでそうなるものだから……」
そこまで言って、那岐はひと息つくと、急に前方をじっと見た。
「穂結さん、俺達どのくらい歩いていたっけ」
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普通なら、もう駅に着いている頃だ。だが、煌津も那岐も、まだ通り道である住宅街の中にいる。
「うん?」
「穂結さん、そのまま――」
那岐が何か言いかけていたが、聞き終わるよりも早く、それまで自分達が歩いて来た距離を確かめようと、煌津は足を止めて後ろを振り返っていた。
道の向こうに赤い服を着た女の人の後ろ姿が見えた。腰まで届きそうな長い茶髪だが、少しボサボサしているようにも見える。だが、引っ掛かったのはそんな事じゃない。
「ううん?」
煌津は、再び自分達の進行方向へと顔を向けた。
前方に、赤い服を着た女の人の後ろ姿が見える。
「え、嘘。何で――」
煌津は、もう一度後ろを見た。
「ぼぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
全身をのけ反らせ、目玉をひん剥いた逆さの顔が、目の前にあった。
「うわぁああっ!?」
驚く間もなく、煌津は襟首を掴まれると、後方へと引っ張られる。
「ちょっと、ごめんよ」
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