ぐるりぐるりと

安田 景壹

文字の大きさ
上 下
1 / 100
序章

九宇時那岐 1

しおりを挟む
 時間も空間も飛び越えて、残るものは魂ひとつ。人に九生なし。宇宙に人生ひとつ。

      ※

 少し先に、赤い服を着た女の人が歩いているのが見えた。道路には、その人と自分達のほかは誰もいない。

「実際問題、心霊現象っていうのは思った以上に身近にあるものだよ」

 何でもないような口ぶりで、九宇時くうじ那岐なぎが言った。那岐が自分から心霊現象の話をするのは珍しかった。

「見える人にははっきり見えるし、自分は見えないと思っている人でも案外見えていたり、存在を感じ取っていたりするものなんだ。同じ層に存在しているんだから、本来は見えるも見えないもないと俺は考えているんだけど、まあ、認識出来る事は人それぞれだね」
「俺、見た事ないけど……」
「そんな事ないよ。穂結ほむすびさんも絶対会ってるって」

 那岐はやけに自信のある口ぶりだ。
 穂結煌津きらつは、さて、そんな事はあっただろうかと記憶の中を探ってみた。

「九宇時くーん、やっぱりないよ。幽霊と会った事」
「まあ、向こうから接触ないとわからないもんだから。でも絶対見ているよ」
「妖怪とか、そういう話は好きだけど。実際に出くわすのは嫌だな。俺苦手なんだよ、ホラー」
「えー。前にオカルト漫画買ってたじゃん」
「あれはほら……どちらかといえばかっこいい寄りだから」
「線引きが微妙だねえ。まあ、怖い時は怖いけどね、心霊現象」
「どんな時だって怖いでしょ。俺、オカルト漫画は好きでも霊感とかはいらないから」

 昔から、ホラー映画の予告編は目を閉じてやり過ごしていたほうだ。配信サービスで勝手に再生される予告編も、苦手なものは全部非表示にしている。妖怪やUFOやUMAは好きだが、怖い話は、読んでいると何だが左肩が少し重くなるような気がするのだ。

「言ったでしょ。霊感ってのは誰にでもあるものなんだよ。ただ、個人差があるだけ。……人によっては、全く見えないのに惹き付けてしまう体質ってのもあるし」
「そんなもんかなあ。九宇時ははっきり見えるんでしょ?」
「まあね。おかげで高一なのに働いているよ」

 那岐の実家は神社をやっていて、那岐はその手伝いがてら霊媒師のような事をやっている、らしい。高校生なのに。

「悪霊を祓ったりするんだよね。霊媒師って」
「いやまあ、霊媒師とはまたちょっと違うんだけど。悪霊を祓ったりはするよ。……たまにだけど」
「何か、お経とか唱えたり?」
「まあ、そんな感じ」
「……聞いてもいい?」
「え。な、何だよ、改まって」
「……呪いのビデオって、本当にある?」
「…………ビデオ?」
「ビデオ」
「ないよ、そんなの。ていうか、それ古い映画の話でしょ。穂結さん、ビデオ見た事ないでしょ。実物」
「…………昔、近所のお兄ちゃんが拾ったの見せてくれたよ。その、なんていうか、エッチな奴。パッケージだけ」
「……うわあ」
「いや、引かないでよ! いいじゃん、子どもだったんだから」

 いつもこんな調子で話している。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

小児科医、姪を引き取ることになりました。

sao miyui
キャラ文芸
おひさまこどもクリニックで働く小児科医の深沢太陽はある日事故死してしまった妹夫婦の小学1年生の娘日菜を引き取る事になった。 慣れない子育てだけど必死に向き合う太陽となかなか心を開こうとしない日菜の毎日の奮闘を描いたハートフルストーリー。

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

処理中です...