上 下
26 / 37

26.「その方が、おれも寂しくないしな」

しおりを挟む
 骨壺は悉平島に持ち帰って墓地に埋葬し、納骨袋の方は猿噛み島島内にある専用の場所に捨て、分骨の形式をとるという。

「そこの丘を越えてしばらくおりていき、海沿いをまわったところに天然の納骨堂があるんだ。ちと寂しいが、見晴らしのいい場所さ。変な話だが、お猿さまに食べてもらって昇天してもいいし、この世に未練があるならば島にとどまったとしても、悪くない場所さ」

 と、例の小高い丘と雑木林を指した。
 ただし、道らしき道はないうえ、猿のテリトリーのさなかを突っ切ることになる。島のニホンザルは、生きている人間には手を出さないと平泉は請け負うものの、万が一のことを考え、遺族は同伴させないのが常だという。その間、先にプレハブ小屋か、船内で待機させておくのが習わしのようだ。
 平泉がひとりで納骨堂へ行ってくるとの発言に、交野はすかさず同行したいと告げた。

「個人的に納骨堂とやらを、じかに見学したい好奇心もあるが、それだけじゃない」と、交野は言い、丘の雑木林をあごで示した。「見たところ、丘の上は獣道しかなさそうだし、藪を切り開きながら歩かないといけないんじゃないのか。だとすれば」じっさい、この夏の勢力下で成長著しい草木は、ゲートを閉ざしたかのように行く手をはばみ、おいそれと進めそうになかった。有刺鉄線さながらのイバラのついた藪が茂っていた。「おれが友之さんの遺骨を運ぶから、平泉さんは藪を払うのに専念した方が楽になると思う。あんたひとりじゃ、作業も倍かかるはずだ」

 平泉は交野と眼が合うと、にんまりと相好そうごうをくずし、顔じゅうしわくちゃにした。

「いいだろう。好きにすりゃいい。その方が、おれも寂しくないしな」と、言った。咲希に向きなおり、ウインクした。「咲希、小屋に入って左の座敷の戸棚にカセットコンロがある」

「はい」

「やかん、湯呑、お茶の葉にコーヒーもそろってる。水はおれの船にペットボトルに入ったのがあるから、遠慮なく使うといい。ゆっくりお茶でも飲んで、おれたちの帰りを待っててくれ。ちょっと遅くなるだろうから、気長によろしく。みすずさんも、のんびりくつろいでてください」

「そうね。せっかくだから親子水入らずで、おしゃべりしていますわ」と、みすずが頭をさげた。

「直哉、くれぐれも気をつけて」

 咲希が硬い表情で、小さく手をふった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

追っかけ

山吹
ホラー
小説を書いてみよう!という流れになって友達にどんなジャンルにしたらいいか聞いたらホラーがいいと言われたので生まれた作品です。ご愛読ありがとうございました。先生の次回作にご期待ください。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

401号室

ツヨシ
ホラー
その部屋は人が死ぬ

無名の電話

愛原有子
ホラー
このお話は意味がわかると怖い話です。

女子切腹同好会

しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。 はたして、彼女の行き着く先は・・・。 この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。 また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。 マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。 世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。

ストーカー【完結】

本野汐梨 Honno Siori
ホラー
大学時代の元カノに地獄の果てまで付きまとわれた話

獣人の里の仕置き小屋

真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。 獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。 今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。 仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。

処理中です...